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あさひ  作者: 瑞鳥ましろ
12/17

プレズント~壁の向こう~

扉をノックする。すると向こうからもコンコンとノックが返ってきた。


「質問するから……答えて」


彼が何か言う前に、私は自分から言葉を発した。


「ねえ、私のこと……“どんな人間”だと思ってる?」


息をつめて耳をすませると、壁の向こうから、クスッと小さな笑いが漏れる。


トクン。心臓が音を立てる。


『そうだな、俺が想像するに、おまえは世話好きだ。髪は短くて、勝ち気な瞳をしてる。学校を休んだクラスメイトを見舞うのが趣味。どう、当たってる?』


私は無意識のうちに、目の前の壁に爪を立てていた。下唇を噛む。


「残念。全部外れ」

『それじゃあ……』


クスクス。漏れてくる笑い声は止まない。だけどその声はひどく湿っていた。


『今日の答えを聞かせてもらおーか?』


震えている。彼が震えている。


「……アサヒ」

『………………』

「三山朝陽(あさひ)くん』


私は彼を呼んだ。


そう。

それが

彼の

名前………………。







『覚えて……た、の?おまえ……』


扉の向こうから途切れ途切れに聞こえる声。


『俺のこと、覚えてた……?』

「去年も同じクラスだったでしょ。同じクラスで……一緒に勉強してた」

『………………』


彼の名前を私は知っていたんだ。ちゃんと知っていた。

なのに……。


「興味なんてないの。クラスメイトなんかに興味なんて……。でも、あなたの名前は忘れられるはずがなかった」

『おまえの記憶力さ……ほんとどうにかした方がいいよ』


ほとんど声になっていない。かすれていて、乱れていて。

彼はもしかしたら泣いているのかもしれない。


『自分は特別だって傲ってた……期待してた……でも、おまえはそんなの関係なしに、平等に俺のことも忘れて……マジ、失恋したと思って……ああ、俺、何言ってんだろ』

「……カッコ悪いね」

『おまえのせいだし』


震える音の中に、クスッというのが混じった。


『俺が学校休んでるの、ちょっとは心配してくれてるのかなーとか考えてた。馬鹿だな。おまえは俺のことなんか忘れてたのに』

「不登校になったのは、私のせい?」

『ちげーよ。残念ながらもっとファンタジーな理由』


私はふと思い出す。

一年前、彼に見せてもらったあの……。


『……思い出した?』

「それを思い出してほしくてゲームなんて言い出したの?」


クスッ。


『他にどんな理由があんの』


だったら……もっと別の方法だってあったはずだ。どうしてこんな回りくどいこと。


「あのね、勘違いしてると思うから教えてあげる。私はあなたを忘れたわけじゃない。気づかなかったの。同一人物だって」


一年前に出会った不思議な人。

アサヒくん。

あれがあなただったなんて。

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