プレズント~元クラスメイト~
何日が経っただろう。
私が彼の家に通わなくなって。
ある日、ちょっとしたニュースを耳にした。
不登校の生徒が学校に来た、らしい。
「いた!来てたよ!」
興奮した様子で報告してきたのは佳恵。
「ふうーん……」
はっきり言って興味がなかった。シャーペンに芯を補充しながら、適当に相槌を打つ。
「なんかちょっと痩せたみたい。やつれたっていうのかな」
「……そう」
「それでね」
佳恵はまだ何か話そうとしていた。でも続かなかった。
「佳恵ちゃん!あのね、この数学の問題教えてほしいんだけど」
弥生だ。またこの子。私と佳恵が話しているとすぐに割り込んでくる。それも佳恵を奪うように。
「えーっ、私、数学なんてわかんないよー」
「お願い!ちょっとだけでいいから!」
「しょうがないなあ。ごめん、まふぃ」
佳恵が軽く手を合わせながら弥生の席に移動していく。それに対して私は別に何も言わない。
ひとりには慣れている。
不登校の生徒は、隣のクラスの誰からしい。佳恵が名前を言っていたけど忘れた。
隣のクラスの人なんてどうでもいい。
私は自分の隣の空席を見る。
来ない、のかな。
三山くんは……。
廊下を歩いているときだった。
「……旭さん!」
他のクラスに友達なんていないし誰だろうと振り返ると、実際私を呼んだのは全く知らない人だった。
校則よりわずかに短いスカート丈。そしてそこから伸びる折れそうなほど細い脚。彼女は全体的に細い。モデルのような体型、というわけではなく、言うなれば栄養が足りていない、もしくはストレスによる激やせといったところ。
他に特徴的なのは、リスの尻尾のようにカールしたポニーテールだ。癖毛なのか、巻いているのか。
「えっと……」
相手は私を知っているようなので、誰かとあからさまに尋ねるのは気が引ける。
「旭さん、だよね?」
「そう、ですけど……」
「私のこと覚えてない?去年同じクラスだった……」
去年?そんなの覚えてるわけない。今のクラスメイトの名前だってあやふやなのに。
「まあ、ずっと学校来てなかったから知らなくても無理ないか」
その言葉を聞いて、なんとなく思い当たった。
……隣のクラスの不登校。
「改めて。ムカイココネです」
「……ムカイ」
ムカイココネ。聞いたことある。どこでだっけ。思い出せない。
「私、アサヒの幼馴染なんだ」
彼女は翳った瞳で私を見る。
「旭さん、アサヒのこと好きなの?じゃなかったらふって。アサヒに変な期待持たせないで。アサヒのお見舞いだったら私が行く。……だから」
「何、言ってるの?」
私はゆっくりと口を開いた。
「それ、誰のこと?私は別に誰のお見舞いにも行ってないし。人違いだと思うけど」
「人違いなんかじゃない」
彼女はまるで幼子のように何度も首を振った。瞳が透けて見える。透明な膜。あと少しでこぼれそう。
「私は、旭さんのせいでふられたんだから!」
顔を赤く染めた彼女は、呪いの言葉を投げつけるかのように言った。
呪い。まさしく呪いだ。
私の頭を埋めつくし、狂わせようとする。
ワタシ ガ ナニ ヲ シタ ッテ イウノ?




