名前
「次はあんたの呼び名ね。」
頭を下げた少女に聞こえてきたのは次の問題であった。
「いつまでもあんたってわけにはいかないでしょ。
人里に行かないわけでもないだろうし。」
「私はあんたでも大丈夫ですけど……。」
「私が面倒。」
霊夢の態度に、えーという声が出かかったのを抑えて少女は自分の名前を考え始めた。
そのとき、
「霊夢さん霊夢さん!
思い付きましたよこの娘の名前!」
「うっさい寝てろ。」
先程まで伸びていた緑髪の巫女がいきなり飛び起きて捲し立て、霊夢の声が聞こえるやいなや小さくなってしまった。
伸びてたり喋ったり小さくなったり忙しい人だ、そう思いつつも小さくなった巫女に声をかけてみた。
「あの、もし良ければ思い付いたっていう名前、お聞かせ願えますか?」
その声に小さくなった巫女にみるみる活気が戻っていった。
「はいっ!
神奈子様から名前をいただいて神奈美とか、神奈とかどうですかね!」
「却下。
無知なこの子を無理矢理守矢の信者にしない。」
霊夢からダメ出しを食らってもそれならばと緑髪の巫女は続ける。
「その美しく長い黒髪に因んでアゲハとか!」
「夜の蝶の源氏名じゃないんですから……。」
言い方もキザな貴族の口説き文句だ、そう口にするのを抑えつつ少女は他には、と続けた。
「あとは旧暦に倣うとかですかね。」
緑髪の巫女はネタ切れのようだが、少女はその言葉に一考してみた。
「……葉月。
葉月が、いいです。」
「えっ、そんな地味な名前なんて……。」
「早苗は黙りなさい。
あんた、それでいいのね?」
少女の意見に文句を言おうとする早苗を抑えて、霊夢は意見に念を押した。
「はい、私は葉月です。」
少女は大きく頷いた。