東シナ海紛争 ―奇襲―
筆者は本職でも専門家でもないので、小説内での描写には誤りがあるかもしれません。
単なる自己満足で書いたものなので、大目に見てやってください。
この小説は、実際のいかなる個人、団体、組織とも関係はありません。すべてフィクションです。
2018年5月3日 10:36 護衛艦あしがら CIC
「中国軍が演習を開始した模様です」
CICに設置されたスクリーンに目標を示す光点が追加されていく。
4月中旬に始まった中国軍による台湾周辺並びに南シナ海における海上封鎖に対し、政府はこれを「重要影響事態」と認定。米軍等と合同で日本船籍に限らず、海域を通過するすべての船舶の護衛任務を行うため、海上自衛隊に出動を命令。第2護衛隊群第2護衛隊所属”かが”、”あしがら”、”はるさめ”、”あまぎり”が台湾沖に派遣された。
「……ッ!弾道ミサイルの弾着地点は海上ではありません!弾着予想地点は台湾です!」
光点はまだ増え続けている。さらに、新たな地点からミサイルの発射が確認された。
中国軍は4月末になって突如として実弾演習の実施を一方的に通知。これは第三次台湾海峡危機を彷彿とさせたが、各国は、その時と同様に中国は米空母の前に引き下がるだろうと予測していた。すでに「カール・ヴィンソン」が台湾周辺に展開しており、「ロナルド・レーガン」は横須賀で出港準備中、インド洋で演習中だった「ジョージ・H・W・ブッシュ」も演習を切り上げ南シナ海に向かっていた。
「台湾へのミサイルは約100!初弾到達まで5分!」
中国軍―正確には第二砲兵―は短距離弾道ミサイルDF-11を500発以上配備し、ランチャーも100台以上保有している。台湾側もその脅威を認識し、独自に弾道ミサイル迎撃用の対空ミサイル天弓3号の開発を行うなどしてきたが、飽和攻撃の前には無力だった。
「新たなミサイルを確認!これは……弾着予想地点は沖縄本島!」
台湾へのミサイル群とは違う軌道を描くミサイルが出現し、その数も急速に増え続けている。
さらに、沖縄を射程圏内に収めたDF-15改良型も第二砲兵は保有しており、その数は150発以上と推定されている。準中距離弾道ミサイルDF-21は日本全土が射程圏内だ。その数は70発以上。
「沖縄本島並びに九州南部に向かう飛翔体70!初弾到達まで8分!」
「対空戦闘用意!」
「官邸からの指示は!」
出港前も出港後も、今年で総裁任期を終えて引退する首相からは、「判断は私が行う。くれぐれも勝手に行動しないように」と何度も念を押されていた。有終の美を汚されてはたまらないのだろう。
「官邸との通信途絶!原因は不明です!」
「……やむを得ん。我々は独自に判断し行動する。沖縄本島に向かうミサイルを迎撃する!」
「待ってください、最高指揮権は総理にあるんです。独自行動など許されません!」
副長が異を唱える。その間にも、レーダーは沖縄や台湾に向かう機影を次々と探知していた。
「我々は国民を守るためにここにいるのだ!ただちに行動しなければ、国民の生命と財産に危害が…」
「国籍不明機が艦隊に急速接近!速度800!距離200!数20!」
「なぜ探知できなかった!」
「低空飛行をしていた模様です。弾道ミサイル追尾にレーダー機能を集中していたので…」
イージス艦はその高いレーダー能力で知られているが、どうしても低空探知能力は低くなってしまう。高空を飛行する弾道ミサイルの追尾を行っていてはなおさらだろう。
「艦長!早く指示を!」
「国籍不明機を迎撃する!SM-3発射用意!」
「不明機がミサイル発射!数40!到達まで約4分!」
沖縄や西日本に向かう巡航ミサイルも探知されたが、そちらにかまっている暇はもうなかった。
第二砲兵は、射程1800キロを誇るCJ-10巡航ミサイルを250発以上装備しており、そのステルス性から迎撃は弾道ミサイルに比べ困難となっている。
「新たに不明機探知!距離250!速度700!数15!」
中国空軍は、最大速度マッハ4.5、射程100キロ前後のロシア製対レーダーミサイルKh-31とそのライセンス生産型YJ-91の運用が可能なSu-30MKKとJH-7を合わせて200機程度保有している。それらによる波状攻撃には、いかにイージス艦といえど迎撃は困難だ。
「迎撃が間に合いません!到達まで30秒!」
「”かが”に命中!被害状況不明!」
「到達まで10秒!数2!」
「衝撃に備え!」
台湾周辺にすでに展開していた「カール・ヴィンソン」を中心とした空母打撃群は、対空母攻撃の切り札である「対艦弾道ミサイル」DF-21Dによる攻撃を含め、猛烈な飽和攻撃を受けた。護衛のイージス艦1隻が大破。「カール・ヴィンソン」にも対艦ミサイルが命中し、艦載機の運用が不可能となった。この結果を受け、米軍は中国沿岸への空母打撃群投入を中止。台湾の命運はもはや明らかだった。
沖縄には、PAC-2並びにPAC-3を装備した米陸軍第1防空砲兵第1大隊が展開し、さらに航空自衛隊第1高射隊、陸上自衛隊第15旅団第6高射特科群も展開しており、弾道ミサイル並びに巡航ミサイルへの備えは万全とみられていた。しかし、中国軍のサイバー攻撃により各レーダーの捉えたミサイルの航跡情報に微妙な誤差が加えられ、ミサイルは浪費されていった。さらに、沖縄に上陸していた中国軍特殊部隊により、ランチャーなどへの破壊工作が行われ、効果的な迎撃は行えず、結局飛来した弾道、巡航ミサイル100発あまりのうち、迎撃できたのは15発にとどまり、嘉手納、那覇基地は飛行場としての能力を完全に失い、多くの戦闘機を失った。
宮古島、与座岳、久米島、沖永良部島、下甑島、福江島、高畑山のレーダーサイトは巡航ミサイルにより沈黙。岩国、新田原基地も滑走路に穴が開くなど損害を受け、米軍と自衛隊の航空戦力は大きな制約を受けることとなった。
さらに中国本土から遠く離れたグアムのアンダーセン基地さえも、長距離爆撃機H-6Kから放たれた射程2200キロの巡航ミサイルCJ-20による攻撃を受け、駐機中のB-52やF-35に損害が出た上に、滑走路が使用不能となった。
弾道ミサイル防衛は絶対的な盾ではない。発射から日本本土への到達まで10分の猶予しかない。波状攻撃をかけられ、おとりなどによって弾薬を浪費すれば、結果的に着弾を許してしまう。さらに財政上の問題で、迎撃用ミサイルを満足に調達できていないというケースも存在した。
被害はこれだけでは済まなかった。中国軍特殊部隊によるゲリラ攻撃が各地で行われたのである。佐世保、横須賀に停泊中の米軍、自衛隊艦船並びに弾薬燃料貯蔵施設。築城、芦屋、小松、浜松、横田、百里基地の航空機と燃料弾薬。さらに新幹線などの鉄道網や高速道路、港湾施設、民間空港さえも攻撃対象となった。
艦船は意外に地上からの攻撃に弱い。対物ライフルやロケットランチャーでレーダーやアンテナなどの電子機器を攻撃されれば、艦船は目と耳を失い、事実上無力化される。
交通網への攻撃は、日本国内を混乱に陥れた。ただでさえGWで交通機関の利用者数が多いというのに、中国軍による攻撃の知らせを受けた市民は一斉に北へと移動し始めたのだ。駅は大混乱に陥り、高速道路では事故が多発し渋滞に拍車をかけ、空港は閉鎖された。有事にはつきもののデマも大量に飛び交い、行政の事態把握を困難にするとともに、混乱を助長した。
この日だけで、自衛隊は戦闘機50機以上、E-767、KC-767それぞれ1機、E-2C、D5機、護衛艦4隻―第2護衛隊全艦―を撃破され、イージス艦4隻を含む護衛艦11隻と潜水艦3隻がゲリラ攻撃により無力化。そして多くの燃料、弾薬を失った。この損失は、紛争終結まで自衛隊に制約を与え続けることとなる。
―中国軍の進めるA2/AD(接近阻止/領域拒否)という戦略は完成しつつある。すでに第二砲兵は米軍、自衛隊の各基地に痛烈な打撃を加える能力を獲得しつつあるし、空軍力、海軍力も着実に整備されつつある。空母のほうが脅威と見られがちだが、あれは「まだ」ハリボテの域を出てはいない。本当に恐ろしいのはここで描いたような弾道、巡航ミサイルによる飽和攻撃なのだ。
弾道ミサイルは費用対効果に優れている。ICBMとなれば巨大なサイロが必要となるなど費用が掛かるが、短距離であればそこまではかからない。集中運用すれば一機100億円以上する戦闘機を多数無力化できるし、相手は弾道ミサイル防衛に巨額の費用をつぎ込んでくれる。
性能が疑問視される対艦弾道ミサイルも、「そこにある」というだけで米軍は空母の投入をためらうし、運が良ければ5000億円以上する原子力空母を無力化できる。通常の対艦ミサイルと合わせて飽和攻撃をかければ、夢物語とは言えないだろう。
それに対し自衛隊はどうだろうか。特に問題なのは航空自衛隊である。現在主力のF-15Jの半数近くが近代化改修を前提としないPre-MSIP仕様機であり、これらはAWACSなどとのデータリンク機能も有していないし、何より空戦の主流となりつつある「撃ちっぱなし」機能を持つAAM-4の運用ができない。搭載レーダーのみで敵を探し出さなくてはならないのだ。また、F-2に関しても、現状では40機のみがAAM-4運用能力を有している。F-35によるPre-MSIP仕様F-15Jの代替を・・・と言いたいところだが、財政上の負担が大きすぎるだろう。
結局は予算の問題に終始してしまうのだろうか。国防費毎年二ケタパーセント増加を続ける中国軍と軍拡競争など夢物語であり、限られた予算の中で努力するしかないのだろう。制空権は現代の戦闘において非常に重要なものである。「離島防衛」を進める前に、まずはゲリラ対策やサイバー攻撃対策、戦闘機の能力向上に努める必要があるのではないだろうか。
なんだか、「小説のようなもの」になってしまいました。
しかし、小説内で描いた事態は、個人的には十分あり得る事態だと考えています。少しでも多くの方が、防衛問題について自分で調べ、考えることが「平和国家」への第一歩だと思っています。