白色赤頭巾――狼九匹
風呂から出たボクは普段あまり使わない携帯(けして友達が少ない訳ではない)にメールがきているのに気付く。
片方はどうやら家族のもの……つまり即消去。
我ながら惚れ惚れする早さだな、うん。
自画自賛しながら二つ目のメールを見る。
『腹グローテル』
ボクは消去しようとして思い止まる。正夢童話中の符丹のメールは無視できないものがある。
ちなみにこの名前で登録してるのは内緒である。
ボクは渋々符丹のメールを確認し、溜息を吐く。
「なんの頓知クイズだよ……やってる場合じゃないし」
添付されていた画像はただのクイズだった。
それをボクはすぐに解き、返信する。
こっちは符丹の暇潰しに付き合ってる場合じゃないというのに、なんていうか緊張感のない事をしてくれる……
そしてボクはふと気付く。
「貸してもらった服……明らかに女物のだよね?」
紅さんはボクに女装しろと仰るのだろうか。
こう、女装イベとかもっと後にすべきでは?
よくある展開ならもっと後にすべきだと思う。そもそも似合わないよ絶対。
まあ、着たんだけどね。
そして、リビングに戻ったボクを見た紅さんと梅さんは笑った。
それはもう盛大に。いっそ殺してくれ……
というよりか梅さんどうした。あったばっかりの時は滅茶苦茶当たってきたでしょ、あんた。
「あっ、えっと……その……」
「ちょっと、あんた滅茶苦茶汚い……ていうか何それ、血?」
「○※□☆※=θ△」
「人語話なさいよ……取りあえず母さんが連れてきたとはいえ、こんな怪しい人通報するから」
「えっ……本当待って!?これには深い事情が――」
「私には関係ない。どうせ母さん騙して何かしようとしてんでしょ?」
「こらっ!梅、そんな事言わ――」
「母さんは黙ってて!私はこいつに話してんの!」
みたいな感じだったはずだ。
流石に今のボクがどれだけ酷くてもここまで笑わないだろ……
「そういやあんた、名前は?私は雪見梅よ」
「あー……梔死人です」
急にこの変化には驚くな。まるで人が変わったかのようだ。
どんな説明したんだ、紅さん。
「そういえば紅さん。もう一人の娘さんは?」
「あぁ、梔さんがお風呂に入ってる間に帰ってきたんですよー」
「私が母さん遅いし何か買ってきてって頼んでたんだよね。母さんが晩御飯作っちゃったから、意味なくなっちゃったんだけど」
「梔さんも食べていきますよね?」
そう言いながら紅さんは、四人分の食事を用意し始める。
確かに昼から何も食べていない。
死体とか見た後に食事といわれても、食欲はわかないが断るのも悪いし、何か食べておくべきだろう。
「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらいますよ」
「はい〜。遠慮なく食べてって下さいね。沢山ありますから」
そう言って、太陽のような笑みを浮かべる紅さん。
「それじゃ、私は雪呼んでくる」
梅さんは妹さんを呼びにいくのだろう、二階に向かう。
「そういえばもう一人の娘さんって、どんな子なんですか?」
「そうですね。梔さんと同い年くらいなんじゃないでしょうか?私似の子ですよ。梅は父親似なんですけどね」
「へぇ、確かに梅さんと紅さんは似てませんよね」
梅さんの髪は栗色だったし、顔立ちも少し男寄りだったと思う。
「呼んできたよ。あっ、今日シチューなんだ?美味しそう」
妹さんを呼んで降りてきたのだろう。梅さんは並べられた料理を見ながら言う。
確かに、漂う匂いも中々食欲をそそるものだ……あれ、さっき食欲わかないとか言った気もするけど、まぁいいだろう。
そして、紅さんと梅さんが席につき、ボクは恐る恐る洒落た椅子に座る。
少し待っていると、上からちょっと急ぐ足音が聞こえる。
やがて、その足音は近付いてきて、ついにその足音の主が顔を出す。
素晴らしい白色の髪。透き通るような蒼い瞳。
そこには受験会場、そしてその帰り道で出会ったあの少女が居た。
「なんであの変な人が居るの……!?」
――続く