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白灰童話  作者: 七罪愛
8/25

白色赤頭巾――狼八匹

1、

狼人間を撃退した後。

流石に血塗れの姿で家に帰るわけにもいかず、ボクは紅さん宅に向かう事になった。


「それにしても凄かったですね。あんな風に切れるだなんて」


ボクは少し前の光景を思い出す。

突然裂けた狼人間の腹からは血だけではなく、何人かの人間の部位まで出てきたのだ。

「そうですねぇ、いちかばちかの賭けでしたが案外上手くいきましたね」

なんて呑気な顔して言う紅さんだが

「いちかばちか!?ボクの命凄い危なかったんじゃないですか!!」

そんな事実を聞いたら流石に怖くなる。

ボクだって命は惜しいのだ。助けてもらったとはいえ、そんな運次第みたいな助け方は勘弁被りたい。

「だって仕方ないじゃないですか。わたしの【狼狩り】の腹を裂く力は、獲物の腹に満腹に成程の何かが入っていないと、使えないんですもの」

「そういえば条件云々言ってましたね……まあ、でもあれじゃ死ななかったみたいですね、あの狼人間。ボクもあれくらいじゃ死なずに生きてそうですけど」

そう冗談を言っていると目が熱を持ち始める。

「えっ?それくらいじゃ死なないんですか?」

そう信じたように返してくる紅さんに、ボクは笑ってしまわないように気をつけ

「ボクを殺すなら心臓を一刺しするのが一番ですよ」

そう言いながらボクは心臓の少し左側を指す。

「頑丈なんですねぇ……」

その様子を見ながら素直に感心したように言う紅さん。

殆どデタラメなのにと思う頃には目の熱は引いていた。


そしてそこから少し進むと一件の建物の前で

「ここですよ。ようこそ梔さん。わたしの家……雪見家へ」

少し違うけど早くも人のセリフパクったよ、この人……

その家は二階建ての普通の一軒家だった。

三人で住むなら十分な広さだろう。

しばらく眺めていると扉を開けた紅さんがボクを呼ぶ。

「何をしているんですか?そのままだと目立っちゃうんで早く入っちゃって下さい」

こうしてボクは雪見家にお邪魔したのだった。


2、

その後ボクと紅さんは紅さんの娘で長女の雪見(ゆきみ)(うめ)さんと出くわしてしまい、その言い訳に時間を要した。

まだ怪しんでいる様子の梅さんは紅さんが相手をし、ボクは取りあえず風呂を借りている状況である。

「ふぅ〜。生き返るわぁ」

我ながらおっさんぽいなと思いながらこの先の事を考える。


実はボクと符丹には、意図的に紅さんに隠している事があった。

それは正夢童話が人に寄生するということだ。

夢童話の段階では本の形をしているが正夢童話は形がない。それ故の寄生。

そもそも夢童話は生き物のようなものなのだ。

その不思議な力の為に人の幸せを喰らう生き物。

それが寝ている状態が『夢童話』で、起きて活動を始めると『正夢童話』分かり易いと思う。

何故童話の形をとっているのか、その辺りはまだ分かっていない。

ボクは食虫植物のようなものじゃないかと、思っている。哀れな獲物を誘き寄せる為の――罠。

そしてそんな正夢童話に寄生された人間の大半は、食虫植物に誘き出された虫の様に……徐々に喰われ――蝕まれてゆく。

ボクは今までそんな寄生された人達を、一人たりとて救えた事がない。

そしてボクと符丹は

(雪見さんの身内に寄生された人間……寄生者がいる)

そう考えていた。

ボクは元々符丹が話さなかったから、疑っていた程度だったが先程の狼人間。

あれと遭遇した事によって確信したのだ。

今頃はあそこに転がっていた六人の人間の死体は、正夢童話によって出た死体を回収するそれ専門の組織に回収されていっているはずだ。

正夢童話の怪物にとって、あれくらいの死体を出すのはお手の物。

だが、今のところ集団で行方不明になったというニュースは聞いていない。

つまりあの狼人間にとって、今日が初の狩りだったという事になる。


「同系統の童話同士は惹かれやすい……符丹が言ってたの初めて実感したかも」


ボクは長い考え事中に、ふやけてシワシワになった手を眺め呟く。

初めての出現が同系統の童話の保持者(バインダー)である紅さんの近く、そしてその紅さんは夢童話に疎く、娘が二人居る。

いくら考えても、この三人の誰かが寄生者だとしか思えない。

「どうしたもんか……」

はっきり言って、狼人間が出現しているのが分かった時点でゆっくりはしてられない。

いくつか保険をかけてはいるが、それも所詮は保険。完全に頼れるものではない。


「まあ、でも考え過ぎもよくないか。今は取りあえずはやれる限り……やってみますか!」


続く

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