白色赤頭巾――狼五匹
「お邪魔無視ー」
「えっと……失礼します」
謎の挨拶をかまして入店するボクと、お客なら普通に堂々入ればいいのに礼儀正しく入店する紅さん。
「わぁ……」
紅さんが感嘆の声を漏らす。
それも当然である。内装は外見とは違って綺麗で洋風。
あまり広くはないがインテリア雑貨が並べられ、如何にも繁盛してそうで雰囲気も隠れた名店という――
「へいらっしゃー」
撤回しよう。全てを台無しにする人物が居るからここは繁盛しないのだ。
「マスター、この店でへいらっしゃーはない。やめてよ」
ボクは雰囲気を台無しにした人物に文句を言う。
すらっとしていてしなやかな体。爽やかな顔に知的に見える眼鏡、長めの髪は下の方で縛っている。
シンプルなシャツに、このカフェオリジナルのエプロン(いつの間に勝手に作ったのか、魔女の家のロゴの様なものがプリントされている)を身にまとい、下はジーパンという無難なファッション。
まあ、この店の雰囲気にあっているしそこら辺は良いだろう。
だがしかし
「んー?良いと思ったんだけどなー。ダメだったー?」
この語尾が伸びる喋り方と、突然の奇行で台無しなのだ。
「別にダメだとは言わないけど、店の雰囲気に合わなすぎだよ。そこは無言とかの方がなんか合ってる」
「そっかー、今後気をつけるよー。ところでそっちの人はー?」
マスターは今気付いたのだろう。ボクに問いかける。
ちなみにマスターはマスターなので名前はボクも知らない。
だが、マスターは魔女の家に所属していながら能力持ちではない。
だが、そんなこと知らない紅さんは
「あっ、わたし『石詰め赤頭巾』の雪見紅と言います。えっと、マスター……さんはどのような力を?」
マスターさんって……さん付けしよったよ……。
取り敢えずそれは置いといて
「マスターは能力持ちじゃないですよ。『魔女の家』所属の能力者は未成年が多いんで、責任者兼保護者変わりなんです」
ボクは紅さんに説明しマスターに向き直る。
「マスター、あいつ居る?今回の三番の赤頭巾について話したいんだけど」
「さ、三番の赤頭巾?」
どうやら紅さんはまだ新米のようだ。
これは後で説明しないとな。する事が増えたがこれくらいは支障ないだろう。
「んー?ふにちゃんなら居るはずだよー?むしろふにちゃんが居ない方が珍しいしー」
「ならいつものところ借りるよ?後出来れば飲み物の一つや二つあると助かる。よろしく、マスター」
ボクはそれだけ頼むと、マスターの傍にある大きく古めかしいドアを開ける。
「紅さん行くよ?」
ぼーっとしていた紅さんを連れ奥の部屋に向かう。
そして薄暗い廊下の奥につく。さっきと同じ様な扉を開ける。
「チッ……」
部屋の中に居た少女から、ありえない程綺麗な舌打ちをされた。
光を弾く様な艶やかな長い黒髪。
それとは真逆、光を飲み込むような黒い瞳。
外に出ないため、肌は異常な程白い。ボクの隣に居る紅さんも白いが、こいつの白さはそれを超えていた。
そしてその白さはこの真っ黒な部屋では、異様な程際立っていた。
取り敢えず部屋の床に、無造作に敷かれた黒い毛布の上。
そこに寝そべるそいつの所まで行き、ボクは足を振り上げる。
そして全力で蹴飛ばそうとした瞬間、そいつは最初から隠し持っていたのだろう、黒い鋏を突き出す。
――ボクの絶叫が響き渡ったのは言うまでもない
続く