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白灰童話  作者: 七罪愛
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白色赤頭巾――狼四匹

顔から火が出るほどどころか、全身から悲が出てるんじゃないだろうか。

あんなに格好つけて言って噛むって……ボクの十五年の人生はなんだったのだろうか。

「流石に人生は関係ないか……」

独りごちて取り敢えず落ち込む。


「あの……?結局どうなんですかぁ?」


そう遠慮がちに言う声。その透き通った声を聞き、ボクはその女性の存在を思い出す。

恐らく年齢は二十歳前後だろう。髪と肌は雪景色に溶けてしまいそうな程白く、優しそうな顔。

そこにおさまる蒼色の瞳と林檎の様に紅い唇は、その女性の存在を更に幻想的にしている。


思わずその顔に見蕩れていると、女性は恥ずかしそうに「わたしの顔、何か変でしょうか……?」と言った……と思う。

正直魅入り過ぎていて、話なんて殆ど入ってきていなかった。


それから夕焼けにより、白い世界が赤く染まりはじめた頃。

長い長い戦いの末、やっと正気を取り戻したボクは女性との話に戻る。

「取り敢えず何故ボクの事を知ってるのか聞いていいですか?」

そう、まずそこだ。

ボクはそう簡単には個人情報は漏らさない。

組織に関する事なら尚更だ。

だが彼女はボクの通り名を言い当てた。


『悪戯灰かぶり』


それは確かにボクの通り名なのだ。

こんな死んだみたい……というより死んだ名前のシンデレラは嫌だ、ボクもそう思うが付けた奴は付けた時、凄いウザいどや顔をしていた。

「それは聞くほどの事ではないと思いますよ?わたしが同業者なら、それくらい知るのは簡単ですもの」

そう言い笑顔を浮かべる女性。

「それもそうですね。なら貴方のコードネームも教えてもらって良いですか?」

「あらあら、コードネームですか。面白い言い方しますねぇ」

良く分からないところでツボに入った女性はころころ笑う。

「わたしは『石詰め赤頭巾』の雪見(ゆきみ)(こう)と言います。今回は、こちらで起こっているという『夢童話』――二つ目の赤頭巾の物語の解決の手伝いに参りました」

女性はそう言うと丁寧に一礼する。

「貴方が赤頭巾……えっと、分かってるみたいですけど一応。ボクは『悪戯灰かぶり』の梔死人です。今回はわざわざ助っ人ありがとうございます」

「いえいえ。それにしても丁度良かったですね。道に迷っていた所なんですよ、私」

苦笑いしながら言う紅さん。

「ここで会ったのも何かの縁。良ければ『魔女の家』までの案内を頼めないでしょうか?」


『魔女の家』――それはボクが所属する例の秘密組織の名前である。

紅さんは挨拶に行く途中に迷子になってしまうようなお茶目な人のようだ。

「構いませんよ。ボクも行くつもりでしたし、それに見かけたら連れてくるようにって言われてましたから」

あの上から目線の嫌な貧乳娘になぺっ、と続けたくなるが我慢する。

客人にそんな事言っても、行くのを嫌にするだけだろうというボクの配慮だった。


先を歩き紅さんを案内する最中。

「そういえば紅さんの能力ってどんなものなんですか?赤頭巾だと思いつくのは変身、鍵開け、魅了とかなんですけど」

「気になりますか?なら、特別にお見せしますね。共闘するんですし」

そう言って自分の手元を見つめる紅さん。

その手の上に何処からとも無く花びらが集まる。

集まった花びらは、みるみる何かの形を作りだす。

そして最後、淡く光を放ち一つの刃物を残し花びらは消える。

そして出来上がったそれは――鋏だった。血のように赤い持ち手。

刃は夕日により赤く染まっているが、恐らく元々は綺麗な白なのだろう。キラキラ光を反射していて、とても美しい。

「これ【狼狩り】って言うんですよ。能力としてはいつでも出現させれる所と、ある一定の条件を満たせば触れなくても腹を裂ける、というものですね」

後半を聞いてギョッとしたが、まあこれくらいの能力は良くある。

むしろ、酷い奴はもっと酷いくらいだ。

ボクの知り合いだと、竈の中に相手を閉じ込め燃や……思い出したら気持ち悪くなってきた。吐きそう。

そんなボクの心の中を知らずにか紅さんは

「で、梔さんの能力はなんなんでしょう?」

と聞いてくる。

やはりそう来たか、と思いボクは紅さんの目を見つめる。

目が熱くなるような感覚。相手の心を見透かすくらいの気持ち目を合わし続ける。

そうした結果、ここで隠して信用を失うのも面倒臭いから

「その質問への返答ですが、ボクの通り名の注目すべき所は悪戯の所にあるんですよ」

嘘を言わないように返答する。

だが、上手く伝わらなかったのか首を傾げられる。

「えっと……つまりどういう事ですかぁ?灰かぶりは関係ないと?」

「まず、わがままな子供という童話を知っていますか?」

恐らく知らないだろう。非人道的な描写があって、最近ではあまり見ない童話だからだ。

案の定知らないのか、うんうん唸りながら必死に記憶を漁っている。

「簡単に説明すると、甘やかされて育ったわがままな子供が、ある日病気でなくなってしまうんです」

そう言いながらボクは手に力を集める。あくまでもイメージだが。

「で、その子供は埋葬されるんですけど、それからしばらくするとその墓から、子供の手が突き出てくるようになるんです」

そういう話は苦手なのだろうか、紅さんは口をへの字に引き結び、眉をしかめる。

ちなみに手がいつでも耳を塞げるように、スタンバイしてるのが面白い。

「あの?もしかして怖がってます?」

おちょくるように言ってみたが

「続き……!!続き早く終わらせてくださいっ!そうじゃないと怒ります!!」

と怒られそうになったので続きを話す。

「まあ、後は大したことなく、そういう事に慣れた神父が母親に子供の為だと言って、突き出た腕に鞭打ちさせて、腕は無事に地面に戻って万々歳と、そんなもんです」

「何処が万々歳なんですか……!?」

そりゃ勿論土に帰ったからでしょ、とは流石に言わずに先程から力を集め作り出したモノを見せる。


「……鞭?」


「そう、鞭です。能力名は【非人道的お仕置き鞭】と言われてます。個人的には断罪鞭って言うのが良かったんですけど」

そう言いボクは能力を使うのを辞める。そうすると鞭は土塊になり崩れ落ちていく。

そしてその土も消えきった所で、ボクはまとめに入る。


「つまり【非人道的お仕置き鞭】は紅さんと似たようなもの。自由に出せる鞭。流石に腹を裂くことは出来ませんが、不死を倒す事の出来る効果付きです」


だが、鞭なんて使えないボクにはとても勿体無い。そんな武器である。

「成程成程、武器召喚系の能力者さんだったんですか。親近感湧きますねー」

嬉しそうに言う紅さん。それを見てボクもだらしなく頬が緩む。

そして着いた場所を確認して、今度は少し気が重くなる。

「さて、色々話してる間に着きましたね」

少し古めかしい建物。童話で言えば魔女の家と言って間違いないくらいの見た目。

ヘンゼルとグレーテルのイメージなのか、所々にお菓子っぽい装飾も付いている。


「ようこそ紅さん。対夢童話組織『魔女の家』へ」


だがしかし、その魔女の家は――カフェだった。


続く

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