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白灰童話  作者: 七罪愛
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白色赤頭巾――狼二十二匹

あれから、ボクは急に冷めた。そして、自分を騙す。偽る。

そもそもボクは予想外の出来事に驚き、自分の計算が狂った事に絶句し叫んだだけだ。完璧主義者にとっては、計算が狂う事は何よりもキツい。

それにボクが符丹の恩人であっても、ボクにとってあいつは恩人じゃない。

だから、符丹に何か感じる必要もなければ、悲しむ必要もない。

なんて無駄な事をしたのだろう。嘆いている暇があったら、何か手掛かりを探すことも出来るじゃないか。

それに草木が生い茂って森林のようになってるとはいえ、この公園に人が全く来ないとも言えない。

なら『ハイエナ』を呼んで、死体をどうにかしてもらわないとダメじゃないか。

『ハイエナ』のあの人苦手なんだよな。出来れば別の人が来るといいんだけど。

ボクの思考はさっきまでとは別人の様に働く。


「……なんで?……なんでそんな事言えるの?そもそもこれは何なの?」


そんな声が聞こえる。

声の主は震え、ボクを軽蔑するような視線を投げかけてくる。

どうやら、ボクの思考は独り言となって流れ出ていたらしい。

木々がざわつき、ボクと雪見さんの間を重く濃厚な沈黙が支配する。

だが、ボクには雪見さんの言いたい事が良く分からない。

雪見さんと符丹は言葉を交わした事すらないはずだ。

その雪見さんが何故?

そんなボクの様子を見て、失望したような表情になる雪見さん。

「だってさ、別に符丹の事なんてなんとも思わないし。むしろ嫌いなくらいだったよ。それに人間死んだらただの肉塊だ。そこにもうその人は居ない。死者への冒涜なんてまやかしだ。話した事のない雪見さんだって、何とも思ってないんだろう?涙すら流さない」

淡々という。現実はこうなんだ。

死者は何も見ない、何も言わない、笑わない、泣かない、喜ばない、怒らない――それはただの抜け殻で何も感じない肉の塊。

そんなものに気を使う?そんな事するなんて馬鹿げてる。

下らない自己満足。死者への弔いなんてものは、そもそも生者のためにあるものだ。

死んでしまったものとの別れの悲しみ。

それを乗り越え前を向き、進んでいくための儀式。

しかし、誰も救えない、前を向けない、そんな人間がどうして別れを悲しもう。

だが、それは悪や偽悪という事ではない。

ただ単純に分からない。思考がつまり、頭の中でグルグル回る程考えても分からない。

無知は罪か?既知は正義か?

答えは否。その感情を知らない事はけして罪ではなく、知っていたところで正義にはなれない。

人は簡単に死ぬのだ。それを不幸だとは言えない。死んで当たり前なのだ。

むしろ何故、当たり前の現象に嘆き悲しむのか。

それが嫌いな相手だったら尚更――


そんな考え事をしている間、雪見さんは絶句、憤怒、困惑、疑問、そして恐怖を感情のパレットの上にブチ撒けたのように表情を変える。


「ボクは符丹みたいなのが死んでも悲しまない。確かにメンバーが一人減ったのは痛手だけどね……あっ、雪見さんにはまだ説明してかったっけ?」

なら、そこから説明しないとね。ボクはそう言うと座るところはないかと探してみる。

そして花壇を見つけ、放心しかけている雪見さんを引っ張り連れていこうとする。

パシャンッと、血溜りを横切り抵抗しない雪見さんを花壇のレンガに座らせ、ボクは夢童話(ノンイグジステンス)正夢童話(イグジステンス)について説明してゆく。

だが、聞いていないのか、雪見さんはどこか焦点の合わない瞳で地面を眺め続けている。


「雪見さん。これは大事な事なんだよ?紅さんだって関わってるし、あの狼人間だって――」


ボクがそこまで言った時、雪見さんは急にボクの目を見る。その瞳から大きな雫が、今にもこぼれ落ちそうになっていた。


「梔君……私の気持ち分かる?さっき勝手に決めつけてたけどさ……そういうのはやめて。実は私、符丹ちゃんとは少し話したの……と言うより寝言を聞いただけなんだけど、とりあえず話を聞いたの――」


そこから、雪見さんは聞いてもいないことを話始める――ボクを追い詰めると知らずに。そしてなによりボクを○○と知らずに――


――続く

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