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白灰童話  作者: 七罪愛
20/25

白色赤頭巾――狼二十匹

満月の夜。


「まるで謀ったかのようだな……」


男は肩を揺らし苦笑いをした。

その男の視線の先には、得体のしれない黒い物体。

それは闇の塊――とでも言うべきだろうか。炭を集めて固めても、紙の塊を墨汁で染めてもこうはならないだろう。

更に、その黒い物体は生きているのか少しずつ前進する。

その様子を見た男は流石に気味悪く感じたのか、身じろぎし少し後ずさる。

だが、黒い物体は前進を続け、笑ったのだろうか。

ブヨブヨと、不気味に揺れる。

男はその様子を見て、逆に安堵する。


「本当に大丈夫なんだな?」


男は黒い塊にそう問いかける。


『えぇ、勿論よ。わたしは嘘なんて言わないもの。力を貸してあげる。あの子を救いたいんでしょ?その代わり……わたしも助けて?』


地の底から聞こえるが、同時に鈴の音のように澄んだ声。

そして、その声の言う事を信じ、全てを決心したその時に――


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


裏の窓から、二人を逃がした後。

ボクは扉を睨み続けていた。

その奥からは相変わらず唸り声と不気味な気配がする。


「……多分守護者(ガーディアン)だろうね。でもこんな時間に……何故?」

本来不定期に現れる守護者(ガーディアン)

だが、奴らは何か理由があるのか、夜に集中して現れる。

昼間などの目立つ時間に現れるのは、本当に限られたケースのみだ。

少なくとも、今まで無意味に現れた事などはなかった。

「考えてても仕方ないか……【非人道的お仕置き鞭】」

ボクの手元に、どこからともなく現れた土が収束し、ムチを作り出す。


「さぁ……かかってこい!!」


まるでその言葉を待っていたかのように、扉が内側に膨張し吹き飛ぶ。

そこに現れたのは――予想通り狼人間。


「残念だったね。ここには老婆も居なきゃ、赤頭巾も居ないよ。間抜け狼」


その言葉に怒ったわけでもないだろうが、まるでハリネズミのように毛を逆立てながら威嚇をしてくる。

その吐息は生臭く、息が詰まりそうだ。

「前々から思ってたけど、君たちには意思があるのかい?」

意味もない問いをかけてみるが、勿論返事はない。

むしろ返ってくるのは敵意のみ。

(交渉の余地なし……と)

確認したと同時だっただろう。

破壊的な音と共に、狼人間はボクに突っ込んで来た。

大きなトラバサミのような口。

それが迫り来るがボクは落ち着き、冷静に分析し躱す。


バチンッ


物凄い音と共に閉じられたその口には何もなし。

だが、狼人間はそこで攻撃を負えずにこちらに振り向き、その振り向きざまに拳を振るう。

鋭く尖った爪と合わさり、凶悪な攻撃となる。

そもそも人外の腕力だ。掠るのですら命取りになるだろう。


「クッ……冗談じゃないッ!!」


背を逸らしイナバウアーのような体勢になりながら、なんとか避ける事に成功する。

しかし、相手もその程度は予想済みだったのだろう。

上半身をふり抜いたその勢いに乗せ、回し蹴りを放つ。

背から嫌な音が鳴り、何かが弾けたような激痛が襲う。

吹き飛ばされる瞬間、相手の腕に鞭を絡ませ、壁まで飛ばされるのを阻止するのは忘れずにこなし相手の姿を探す。

直ぐに解いたのか、鞭の先には何も居らず、見渡してみても見当たらない。

「クソっ……どこ行ったんだ?」

あの巨体が隠れれる場所はない。

だとしたら何処に消えたのか。そこまで考えたところで、首元に上から何かが垂れてくる。

それを唾液だと認識した瞬間、ボクは横に飛び、大木のような腕を回避する。

だが、呑気に転がっている暇もない。直ぐに立ち上がり、鞭を三発振るう。

二発は避けられるが、一発はヒットする。

しかし、全くダメージにならなかったのだろう。狼人間は構わずに突っ込んでくる。

「不死殺せるっても、鞭じゃ殺傷能力が低いっ……!!使えないなこれ!!」

人間に振るう場合は問題なのかもしれないが、基本人より大きく頑丈に出来ている守護者(ガーディアン)には上手く使わなければ意味はないだろう。

そんな武器を引っさげている程度で、ボクはコイツを倒せるのだろうか?

こんなのライオン相手に、水鉄砲で挑んでいるようなものだろう。

「かといって、あんな事言っちゃったんだし……やるしかないでしょ」

そう、ボクはどうしようもないくらい諦めが悪いのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


どれ程殺り合い続けただろうか。

時間すら分からなくなってしまうくらいには殺り合った。

左腕の骨は折れ、顔は痣だらけ、至る所に切り傷があり血が流れたい放題流れている。

それに比べ狼人間は無傷。それどころか息切れすらしていない、真っさらの状態である。

「ははっ……笑えないね。なんだよ、あれ。チートかよ……」

乾いた笑みを浮かべ覚悟を決める。

「殺るなら殺りなよ?ボクは抵抗しないよ」

そう言いボクは鞭を土塊に戻し、力を抜き立ち尽くす。

その様子を見て怪しむ狼人間。

だが、これは好奇と受け取ったのだろう。

そんなはずもないが、その表情は笑ったように見えた。

そして、狼人間がボクに襲いかかる瞬間――ふわり、そんな効果音が似合うだろうか。

ボクの目の前は真っ白に染まったのだ。

とても柔らかそうな白。まるで穢れを知らぬ白雪のような白。

見間違えるはずもない。そこに現れたのは雪見雪、その人だった。


「これ以上、梔君に手出ししないで」


雪見さんは鋭くそう言うと、ボクと守護者(ガーディアン)の間に立ち壁になった。

守護者(ガーディアン)はそれをしばらく見つめた後、何処かに去っていったのだった。


――続く

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