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白灰童話  作者: 七罪愛
18/25

白色赤頭巾――狼十八匹

術者が消えたせいか、幻術も消えた元体育館。

死んだ様に眠る符丹。途方に暮れるボク。


「これどうやって帰るの……」


血塗れの少女を連れて帰るなんて、通報してくださいと言っているようなものではないか……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一応今回の戦闘について補足しておこう。

今日の戦い、符丹は不正をした。

玖珂森は一人につき使ってもいい能力は、一つだと言ったはずだ。

だが符丹は二つの能力を使ったのだ。

絶望(スイート)(ペチカ・)(デスペア)】と【羽化】

これはれっきとした不正。

【羽化】――能力者の眠る力を引き出す能力。

母の面影を見た魔女に、追い詰められたグレーテルが目覚めたように。

まるで母のようだと、ヘンゼルに言わせたグレーテルのように――変貌する。

符丹は『自らに宿る怪物』を目覚めさせたのだ。


「それも元を辿ればボクのせいか……あんなもの目覚めさせるべきじゃなかった」


符丹がヘンゼルとグレーテルの夢童話(ノンイグジステンス)に巻き込まれ、魔女の家に引き取られた頃。

休む間もなく起こった夢童話(ノンイグジステンス)

そこで符丹は、守護者(ガーディアン)に襲われるボク見て目覚めさせてしまったのだ。

あのおぞましいグレーテルを。

だが、羽化した符丹はどうしようもなく符丹だった。

琥珀色の瞳が黒くなり羽化が解けた符丹は、目の前に広がる光景に怯えた。

そしてマスターが優しい言葉をかけた瞬間、符丹の心は壊れた。

符丹は〝人殺しを認められそれに慣れる事〟を恐れたのだ。

それ故に、責められるより優しくされる事に耐えられない。

優しくされればされる程自分を責める。

まるで、今まで何も悪い事をした事のない子供がするように。

だからこそ、誰かが叱らなければならない。それがどれだけ辛くても。

冷たくいい、突き放し、その罪を背負わせる。

「嫌な役引き受けてるよなぁ……」

そんな風に言ってみるが、実は言いたい事を言っているだけ。

だからボクはけして良心が傷んだりしない。

しかも【羽化】は体力の消費が激しい。

普段出せない力を出す訳だから当然だが、使った後はしばらく死んだ様に眠る。今のこの状況みたいに。

(傷口からの出血を防ぐくらいってどれくらいなんだろ。筋肉凄いんじゃないか……?)

そう思いボクは符丹の細い体をペタペタ触る。

だが、それはただの少女の体。

「色々無さすぎて残念だね」

取りあえず感想だけ言いボクの思考は今からどうするか、というところに戻ってくる。

玖珂森の血だまりから、符丹を運んだボクも勿論、血だらけだ。

これではどちらも外に出れない。

符丹は携帯なんて持ってないし、ボクの携帯は電池切れ。

詰んでるねこれ、チェックメイト。

この薄汚れた元体育館には、大して使えそうなものはないし、ここに来る事は多分マスターしかしらない。

そもそも知らない人が来たら困るし。

だが、そう思ったのが悪かったのかもしれない。


ピンポーン


機械のように無機質な音。というより無機質な機械の音。

それは人の来訪を告げる音だった。


「はーい、どちらさまぁん」


あ、やっちゃった。つい自分の家の感覚で返事をしてしまった。

ボクは自分の失態を呪い、扉の方を見つめる。

そうしていると、古い扉は怪鳥の鳴き声のような音を立てながら開く。

「あ、あの……ちょっとここの敷地に物飛ばしちゃって、探したいんですけど……」

その人物はそこまで言ったところで、ボクを見たのだろう。

その目は驚愕に見開かれ、大声を上げようとする。

ボクはそれを予期し一瞬で距離を詰め――


ふにっ


「ふむ、符丹とは違って及第点」


ボクは、手の平でその部位の柔らかさを確かめ、侵入者のボディチェックをし「へんたぁぁぁぁぁいっ!!」

ボディチェックをしただけのボクに、耳を塞ぎたくなるような大声を上げ、その人物――雪見雪はボクの顔を親の仇を見るような目で睨み付けていた。

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