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白灰童話  作者: 七罪愛
16/25

白色赤頭巾――狼十六匹

青年は不敵に微笑み、幼女は無邪気に喜び、少女は俯き、そして少年――つまりボクは立ち尽くした。


ーーーーーーーーーーーーーーー


グチュッズプリ


そんな音と共に、無邪気な殺意は引き抜かれる。


「よくやりましたね、真澄」


その玖珂森の声に反応して、呼ばれた謎の幼女、真澄(ますみ)ちゃんが満面の笑みを浮かべる。

だが、その顔には今刺したばかりの人間の血が付いているのだから、可愛いとは思えない。

むしろ、人を刺しても平然とし笑みを浮かべている不自然さに、寒気がする程だ。

(こいつは狂ってるな……)

ボクは注意深く、真澄と呼ばれたその幼女を観察する。

少し癖のある髪に、まだまだ幼い顔。

この場に合わせたのか、それとも単純に動きやすいからか、体操服を着ている。

見ただけではやはり普通の幼女。

だが、そう考えるにはおかしいところが二つかある。

まず、どうやって現れたのか。

符丹だけでなく、遠くで見ていたボクですら気づけなかったのだ。

恐らく玖珂森かあの幼女の能力だろうとは思う。

だが、まだ詳しいところまでは把握できていない。

姿を消すものだとしたら、例外を除けば能力者は幼女。

これはここまで分かったのでも上々だろう。

もう一つは何故、あんな年端もいかない幼女が平気で人を刺せる上に、的確に骨と骨の間を縫っていた事。

重ねて背中から肺を狙う、自分の身長まで考慮して一番狙いやすく、かつ大ダメージになるであろう場所を狙ったのだ。

(これじゃまるで訓練された暗殺者じゃないか)

あんな子供が訓練された動き?流石にそんな事は有り得ないはずだと思う。

そうじゃなければどうなのかと聞かれると、答えようはなくさっぱり分からない。

玖珂森とじゃれ合うさまを見ながら、今度は床に突っ伏す符丹を見る。

目が少し熱を持ち、少し耳鳴りがする。

床には少量の血。それでも肺を狙われたのだ、ただでは済んでいないだろう。

まあ、だからといって何か心配する訳でもなく、ボクは痛そうだなと思う程度だ。

そんなボクの様子が気になったのだろう。

玖珂森は符丹に近づく。

ちゃんと死んでいるか確かめようと軽く蹴っているが、勿論符丹は動かない。

それで安心したのか玖珂森はボクの方に向かってくる。


(……掛かったね)


ボクはイタズラの成功した子供のような笑みを浮かべ、玖珂森の後ろ――符丹が居る位置を見やる。

そこには、産まれたての子鹿のような立ち方をしている符丹が居た。

そして金色の火かき棒を玖珂森に向かって振るう。


キンッ


甲高い音と共に、符丹の攻撃は弾かれる。

勿論弾いたのは玖珂森ではない――真澄ちゃんだ。

その目は憎悪に満ち、睨まれたものを萎縮させるほど鋭い。

だが、その程度で怯む符丹ではない。

しばらく打ち合った後、互いに距離をとり睨み合う。

実力は互角。どう攻めたものかと、悩んでいるのだろう。

「一体どうしたら肺やられて動いてられるの?ねぇ?なんで?」

「それは俺も気になりますね。貴方化物ですか?」

玖珂森兄妹は同じ事が気になったのだろう。

ここは取りあえず便乗して

「ボクも気になるぅ〜」

睨まれた。それはもう、視線で人が殺せるんじゃないかってレベルで。

ちょっとしたジョーク。どこぞのモンキートーク風に言うなら、所詮こんなもの戯言さといった所なのになんて恐ろしいやつだろう。

……と思ったら、玖珂森と真澄ちゃんは白けた顔してるし。

ボクナニカシタッケ

さて、冗談はさておき符丹は距離をとった際、取り落としたスノーピークの近くに来ておりそれを拾う。

(まるで二刀流だね)

火かき棒の二刀流なんて初なんじゃないだろうか。

そもそも火かき棒を武器として使うなんて、ボクは良くないと思う。

良い子は長い物だからって振り回すのはよそう。長いものには巻かれろって言うし。

そして、ボクがアホな事をしている間に戦闘は再開される。

符丹が玖珂森と真澄ちゃんの間に滑り込み、背の低い真澄ちゃんには頭にデスペアを振り、自分より背の高い玖珂森には腹にスノーピークを突き出す。

玖珂森はそれを鉄パイプで下に弾き、真澄ちゃんは素早い動きで避ける。

更に、真澄ちゃんは振り切った後のデスペアに乗っかり、そこからナイフを振るう。

符丹は瞬時に玖珂森に弾かれたスノーピークを、動かしナイフを捌く。

その瞬間、符丹の背中は完全に無防備になる。

そして符丹の後ろには玖珂森。

玖珂森は鉄パイプを符丹の胴に向かって薙ぐ。

そしてそれに合わせるように反応した、真澄ちゃんはナイフを符丹の眼球狙って繰り出す。

だが、符丹はそれを舞い踊るように躱し、更に足元に迫っていた触手までもデスペアで細切れにする。

玖珂森は驚き少し反応が鈍る。

その様子と床に転がるものを見てボクは気付く。

それと同時に、真澄ちゃんも何かに気付く。

「ふぅん……その変な棒、熱持ってるんだ?鉄パイプをバラバラにしたのはそういう事?なんかガッカリ」

真澄ちゃんは興味を失った様子で言う。

「それならこっちも色々残念なんだけどね、真澄ちゃん」

ちゃん付けされたのに、イラッとしたみたいな表情をされるがボクはスルーする。

そう、スルーする。けして辛くない。

「君が能力を持ってないうえに、玖珂森の能力はただの子供騙しだなんて、本当くだらな――」

い、と言おうとしたその瞬間、真澄ちゃんはボクに向かって突撃してきていた。

その刃がボクに届く直前に、符丹が割り込んで居なかったらボクは今頃仏になってただろう。

「……馬鹿なのかしら?馬鹿なのね……」

それが分かっているからか符丹がボクの精神を抉る。

だが、ボクはそれには反応せず熱くなった目を真澄ちゃんに合わせて言う。

「カッとなった?そりゃ大好きなお兄ちゃんを馬鹿にされたら、カッとなっちゃうよねぇ?でも、残念!こっちには符丹が居るからね。符丹を足止めしながら、ナイフを投擲でもしないと、ボクにダメージを与えられないんじゃないかな。ん?ん?それともお兄ちゃんの幻術にでも頼っちゃう?それも良いんじゃないかなぁ〜?」

少し早口めに言い切り、渾身のどや顔をするボク。

半眼で符丹に見られてる気がするが、ボクは熱くなった目を冷ますのに必死だから気にならない。

真澄ちゃんは符丹を突破しないと、どうにもならないと分かったらしく一度玖珂森の元に戻る。

符丹も戦闘に戻ろうとするが、途中でボクの元に来る。

「……さっき幻術って言ったけど本当?」

どうやら、ドサクサに紛れて言った事は伝わっていたようだ。

でも、これ聞きに来ちゃったら意味ないよね。そこまで察して欲しかったな。

「間違いないよ。さっきの驚いた表情は多分不可視にでもしてたんだろう。それが符丹の直感で迎撃されたから驚いた。後は床を見たら分かるよ」

ボクがそう言うと符丹は床に転がるそれを見つける。

「……電気ケーブル?」

床の上にあったのは、電気ケーブルの切れ端。

「他の切れ端は恐らく蛇とかにして隠滅したんだろうけど、あれは見逃したんだと思う。幻術でも物を動かせるレベルとなるとかなり高度なものだよ」

「……気をつけるわ。それとあの子には能力……ないの?」

次々に聞いてくるけど、これ大丈夫なのかな、と思いながら玖珂森達を見る。

だが、二人ともあまり気にしていないようだ。

「恐らく真澄ちゃんは玖珂森の能力で強化されただけの、ただの人間だよ。幻覚で作り出した悪魔でも宿してるんじゃないかな?」

そんな事まで出来るの、と関心した様に言う符丹。

「……それじゃ行ってくるわ」

そう言い残し、符丹は再び戦闘に向かう。


ーーーーーーーーーーーーーーー


どれほど時間が経っただろうか。

玖珂森兄妹と二刀流符丹は互角。決着がつかずに既にかなりの時間が経過していた。

(このままだとマズイな……)

今でこそ符丹は互角だが、再び出血が始まればその限りではない。

既に少しずつ滲みでてきているのだ。もう長くはもたないだろう。

どうしたものかとボクが悩んでいると、符丹と目が合う。

その目はボクに伝わると信じているような目。普段は絶対向けられないような目である。


「……あの約束思い出すね」


ボクは小声で言う。ボクと符丹が仲良くなる切っ掛けとも言えるあの約束。

(取りあえず、デスペアを使えるほどの時間が欲しいって事で良いんだろうな)

ボクは全力で思考を巡らせる。

その間にも、玖珂森は少し離れた位置から援護、真澄ちゃんは符丹に接近し続け攻撃を続ける。

「仕方ない……賭けに出るか」

既に保険はかけているにはかけてある。ならここは一つ博打を打つしかない。

ボクは真澄ちゃんが符丹に攻撃を繰り出すのと同時に、近くにあった鉄パイプを掴み――玖珂森に襲いかかる。

玖珂森はボクが乱入してくるとは、微塵も思っていなかったのだろう。反応出来ずに固まる。

だが、真澄ちゃんは信じられない程の早さで動いていた。

符丹の行く手を阻みながら、ナイフを投擲したのだ。

(……だがしかし作戦通り!)

そう、ここまで計算通り。

狙ったのは隙だらけだった玖珂森じゃない。瞬間的にナイフを投擲する程の反射神経と、驚異的な運動神経を持つ真澄ちゃんこそがターゲット。


「……ペチカ」


ナイフを投擲した無防備な真澄ちゃん。

符丹はそんな真澄ちゃんにデスペアを向けて一言言った。

それと同時に真澄ちゃんの足元に爆発的変化が起こる。

真澄ちゃんを挟み込むように土が盛り上がり、それは何か大きな生物かのように、真澄ちゃんを中に閉じ込めたのだ。

そして次第に形が出来上がる。

それは窯だった。レンガで出来た大きな窯。

その扉は漆黒で、まるで何かの生き物が大口を開けているようにも見える。

「……真澄?」

玖珂森は理解が追いつかないのだろう。惚けた顔をして窯を見つめる。

符丹はそれを見て凄惨な笑みを浮かべて言う。


「うふふ……あの窯の取っ手があるでしょう?あそこにこのデスペアを当てると、中に居るものは焼き尽くされるわ。助けて欲しい?」


それはまるで人が変わったかのように喋る。

だが、これも紛れもなく符丹。

『腹黒グレーテル』なのだ。

その様子に萎縮してしまった玖珂森を見て、符丹はつまらなさそうな表情をする。

「そ、なら焼いちゃうわね。あの子はどんな音を奏でてくれるのかしら。楽しみね」

それを聞いて我に返った玖珂森は慌てて符丹を止める。

「それだけは止めて下さい!助けて下さい!」

止められた符丹は玩具を与えられた子供のように笑う。

「そう、なら私の言う事聞いてくれる?」

「な、何をすればいいんですか……?」

大人しく喰われろ。

そう言われると思っているのだろう玖珂森の瞳は、もう既に絶望していた。

だが符丹は

「なら、決闘しましょ?一対一で能力はなし。私はデスペア、貴方は鉄パイプ。先に相手の体に一撃入れた方の勝ち。分かり易いでしょ?」

そう提案した。


――続く

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