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白灰童話  作者: 七罪愛
15/25

白色赤頭巾――狼十五匹

夢童話(ノンイグジステンス)十一番『ヘンゼルとグレーテル』のルールに則り」


「……〝人喰い〟の物語を紡ぎましょう」


そうか、夢童話ってノンイグジステンスって言うのか、カッコイイな、次からこれ使うか。

ボクはそんな事を考えた。


ーーーーーーーーーーーーー


ゴムが擦れる音に、その時に生じたであろうゴムの焦げるような匂い。

玖珂森と符丹は既に、二桁は打ち合っただろう。

鉄パイプと火かき棒がぶつかる度に、高い音を奏でてまるで何かの楽器のようだ。

そして実力の差は見ての通りだった。

「……その程度?」

符丹は無表情で玖珂森の顔を見つめる。

あの引きこもりが息一つ乱さずに。

「……その、程度とは……言って、くれます……ね」

それに比べて、玖珂森は疲労困憊と言っても過言ではないレベルで疲れている。

まだ、ダメージは負っていないようだが、きっちり着込んでいた制服も所々解れている。

ボクには戦闘の心得とかはないが、そんな素人目から見ても実力の差は一目瞭然。

符丹の戦いを初めて見るボクとしては、一目唖然という感じである。

だが、そんな状態でも玖珂森は笑みを浮かべている。

追い詰められて可笑しくなった訳でも、笑っていれば幸運が舞い込んでくると思っている訳でもない、そんな笑みだ。

(ここから逆転出来るような能力……って訳かな?)

ボクは一人考察し、対策を考える。

(戦闘への介入はなしでも、アドバイスは無しだとは言われてないしね)

口出しも介入だと言われたらおしまいだが、恐らく言われないだろう。

そして、あの言い回しからして相手の考えている事も予想できる。

玖珂森は「僕達」と言った。

一人称が違ったのはこの際スルーするとしても、あっちは明らかに複数人で挑んでくるつもりだ。

符丹も勘は鋭い。気付いていて、了承したのだったら対策の一つや二つならあるのだろう。

なら、やはりボクが考えるべきは相手の能力。

だが、それを考えている間にも符丹と玖珂森の打ち合いは激しくなり、相変わらず玖珂森は劣勢。

そんな玖珂森を容赦なく符丹は攻め続ける。

綺麗な銀色に装飾された火かき棒は、光を弾き宙にその軌道を刻む。

銀の剣閃に黒ずくめの少女……その光景はまさに幻想的。

その光景に見とれた訳ではないだろうが、玖珂森の動きが鈍り転ける。

そんな大きな隙を見逃すわけもなく、符丹は火かき棒を振りかぶり――足首を見て顔を(しか)める。

符丹の足首には、八本足の軟体動物の足のような触手が巻き付いていた。

「【幻惑(スイート)(ハウス)】……危ない危ない。発動遅かったら死んでましたよ、俺」

玖珂森はへらへら笑いながらそう言うと、すくっと立ち上がる。

それとほぼ同時に、体育倉庫だろう所から伸びていた触手がうねり持ち上がる。

軽かったのが悪かったのだろう、符丹は片足に巻き付いている宙吊りにされてしまう。

そして、勿論符丹はスカートで、驚きの所為で押さえるのが少し遅れた。

「ふむふむ……そこまで黒にするか。似合わぬ……」

ボクは見たままの感想を呟く……が、符丹に物凄い目で睨まれる。

(それにしても玖珂森……敵ながらあっぱれ)

今度は口に出さずに、思うだけに止める。

男のロマ……はさて置き、玖珂森の行動はボクにあっぱれと言わしめる程のものだった。

符丹はスカートを押さえる為に、唯一の武器であった火かき棒を手放した。

咄嗟の行動というのはどうしようもない……と言っても致命的だろう。

「さて……やってくれましたね。思う存分仕返しさせてもらいますよ?」

そう言いながら符丹の元に近付いて行く玖珂森。

その手には勿論、鉄パイプが握られている。

獲物を追い詰めた獣の目……獰猛な笑みを浮かべ玖珂森は鉄パイプを振りかぶる。


「……【絶望(スイート)(ペチカ・)(デスペア)】」


玖珂森は振り切ったままのポーズで目を見張る。

そう、振り切ったのだ。

だが、鉄パイプは符丹を捉えていなかった。

何故?それは振る前より〝短くなっていた〟

その切っ先はまるで溶接されたかの様になっている。溶けかけのアイスのようにも見える。

そして何もなかったはずの符丹の小さな手――そこには取り落とされモノとは別の火かき棒が握られていた。

先程までの火かき棒とは違い、装飾は金。

鋭さは先程までのものとは、比べ物にならないくらいするどい。

符丹はその火かき棒を振るい、触手を斬り開放され、玖珂森を見つめる。

「やりますね……それがあんたの能力ですか」

「……私は今の屈辱を忘れない」

お互い口々に感想を述べ、符丹は火かき棒を握り直し、玖珂森は新たな鉄パイプに手を伸ばす。

玖珂森の手が鉄パイプに届く寸前、符丹はその手を踏み付け――微笑む。


「……再起不能にしてあげるわ」


そう言う符丹の口から、紅い液体が一筋流れる。


「しまっ――」


ボクは自分の失敗を呪った。

そしてそれと同時に、違和感と痛みを感じたのだろう、符丹は背後に振り返り背中を見ようとする。

そこには小さな少女。その手には無骨なナイフが握られているおり、そのナイフは骨と骨の隙間を縫うようにして、符丹の背中に刺さっている。

ボクは散々警戒していたはずの、伏兵を見逃していたのだ。


「これで良いの?お兄ちゃん?ワタシやったよ??褒めて褒めて!!」


少女はナイフを引き抜き、その血塗られた顔に笑みを浮かべ、玖珂森にそう言ったのだった。


――続く

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