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白灰童話  作者: 七罪愛
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白色赤頭巾――狼十四匹

あのやり取りの後、ボクと符丹は中に招かれると、この建物の予想外の大きさに驚く。

「……まるで体育館ね」

符丹の言う通り、そこは学校の体育館のようなところだった。

眩しい程の照明。それを反射するワックスのかかった床。

下手したらそんじょそこらの体育館より大きいんじゃないだろうか。

「ここに住んでる訳じゃありませんからね。それに扉があの地区にあっただけで、ここ自体はさっきのところじゃないですから。結界というやつです」

見るからに外と大きさが違ったが、それのお陰で大丈夫だったみたいだ。

便利だな、結界。

「それじゃ、そろそろ本題に入りましょうか?」

そう言うと少年――玖珂森(くがもり)淀魅(よどみ)は怪しく微笑む。

「……本題は言ったわ。『共食い』よ」

「符丹、悪いんだけど共食いって何?」

ボクは一番気になっていた事を聞いてみる。

そうすると符丹は「……同種類の動物が互いに食べ合うこと、又は同業者が互いに利益を奪い合ってともに損をすること」

「あんたそんな事も知らないんですか」

便乗した上に呆れた顔をして頭を振る玖珂森。

「知ってるからね!?共食いの意味は知ってるからね!?」

実はこの二人仲良しなんじゃないだろうか。

ボクを虐めるののエキスパートだろ。

「……死人、童話のルール思い出しなさい。同じ童話の保持者(バインダー)が出会った場合は?」

「その童話のルールに則った方法で決闘でしょ?ボクのわがままな子供だと何でもいいから〝相手の意見を変える〟だね」

広い体育館にボク達の声が響く。

三人でこの広さは少し、居心地が悪い。

更にこの体育館、かなり殺風景だ。

――まるで暴れる事を前提としているかのように見える。

「そこまで分かってるなら話は簡単です。俺達、ヘンゼルとグレーテルの決闘内容は〝共食い〟……つまり相手を食べる事なんですよ」

俺はまだやった事ありませんけどね、と笑いながら言う玖珂森。

それに対して符丹は無言。 真っ黒な瞳を細めて、玖珂森を値踏みしているようだ。

「まあ、という訳でルールを明確にしましょうか。今回の戦いはこの場所で、ここにあるものは何でも使って良し。そして能力の使用は一人一つまで。戦いは君と僕達でいいですね?」

そこの君は乱入するな、と言わんばかりの目をされ、ボクは竦み上がる。

それにしても今のルール確認、何かが引っかかる。

「えっと……なんで能力は一人一つなの?」

口を挟んだ瞬間、絶対内心笑っていないと思われる笑みを浮かべられる。

何故か蚊帳の外……死人可哀想。

「はぁ……それはハンデですよ。いくつも能力使ってしまっては、差がえげつない事になるでしょう?」

そんな事も分からないのか、と言わんばかりの顔。

悪かったね、馬鹿で。ボクは拳を握り込みながら、殴る事を我慢する。

そして符丹を見ると、彼女はそんなボクの事を見て笑みを浮かべていた。

いっそ殺してくれ……

「……じゃあ、そのルールはあんまり大事じゃないのね?」

「まあ……そういう事になりますね。俺は別に困りませんし」

玖珂森は少し符丹から目線を逸らす。

「ちなみに最初のルールだけど、ここにあるものなら何でもいいの?」

……ボクが聞くと、こいつまだあんのかって顔をするのどうにかしてくれないかな?

勿論、こんな事言えないけど。

「何でもありですよ。例えば君を盾として使うのもありです。ですが、君が君の意思で参加するのはなし、という事です」

「え……?そのルールは無しにしない?」

肌のあちらこちらから冷汗が出てくるのが分かる。

「これ、ボクはここに居ないとダメかな?出来れば外で――」

「……そのルールは絶対厳守?……私的には他のルールより、優先すべき」

「そうですね。このルールは何よりも優先でいいでしょう。俺としても、そのルールが一番大事ですから」

玖珂森はそう言いながら、体育館の奥の方に歩いて行く。

歩く度にキュッキュッとなるのが懐かしい。

そうして、玖珂森が少し離れた位置に立ったところで符丹は少し前に出る。


「……そう。なら手札と役者は揃ったわ。それじゃ『幻惑のヘンゼル』と『腹黒グレーテル』……開幕しましょう?」


そう言うと符丹は、何処からともなく火かき棒を取り出す。

「……snow(スノー) peak(ピーク)

恐らく火かき棒の名前なのだろう。何処かの会社の名前だった気もする。

火かき棒とは思えない程の装飾に、刃物のような鋭さをもっている。

その火かき棒を少し振ったあと、符丹はボクを見る。

その〝琥珀色〟の綺麗な瞳で――なんか黒猫っぽいな。

「……いってきます。危なくなったらすぐ逃げて良いわ」

「いってらっしゃい。それボクのセリフじゃないかな?格好付けさせてよ」

ボクが茶化したように言うと、符丹はクスリと笑い玖珂森に視線を戻す。

対する玖珂森は軽い柔軟を終えたのだろう、立ち上がり符丹を見つめ返す。

彼の手には鉄パイプが握られている。

恐らく隅の方にあったものだろう。

玖珂森はその鉄パイプを符丹に向け言い放つ。


夢童話(ノンイグジステンス)十一番『ヘンゼルとグレーテル』のルールに則り」


「……〝人喰い〟の物語を紡ぎましょう」


――続く

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