白色赤頭巾――狼十二匹
1、
ここで一つ、魔女の家に着くまでに望月符丹について語らせてもらおう。
今の符丹は恐らく十八。その容姿は白黒の一言に尽きる。
まるで人形のような、という良くある表現が似合う……口が裂けても本人には言わないが。
だが、その見た目に反し言動は最悪。
性格は捻じまがり、愛想なんてなんのその状態だ。
そんな彼女と出会ったのは四年前。
その時のボクは十一歳。そして符丹は僅か〝八歳〟だった。
符丹は巻き込まれた『ヘンゼルとグレーテル:一番』により、親しきもの達の記憶からの欠如と普通の三倍の早さで歳をとる、という呪いを受けているのだ。
一応ボク達は全力を尽くしたが、それでも二年前になんとか成功した、二倍に抑える程度が限界だった。
だが、その抑える効果も魔女の家にしかない。
だから彼女はあのカフェに閉じこもっている。
そして、何故振り返ったのかというと、そんな彼女がカフェから出るような口ぶりだったのだ。
これは一大事としか言いようがない。
そもそも体質とか関係なしに、二年間引きこもっていた人間が外に出る?
そんなの自殺だろう。きっと干涸らびる。
(あれ……?でも外に出たら白くなくなる?健康的になるんじゃ……!)
心配から一転ボクの気持ちは、テンションは上がっていた。
そして、ボクは周りの視線も気にせずスキップし、古臭いカフェに到着したのだった。
2、
「ふーにーちゃんっ!あっそびーましょっ」
ボクは友達の家に来た感覚でカフェの扉を開いた。
だがそれと同時に
ブンッ
風をきる音が聞こえ、分厚い本が飛んできた。
勿論、運動神経が悪いボクに避けれるハズもなく鈍い音をたて、その本は床に落下する。
「……遅いわ」
分かりきっているが投げた犯人――符丹はそう言った。
ちなみにマスターは「あー、痛そうだねー」とか言ってた。後でグーで殴ろうと心に決める。
「でも投げちゃダメだよね!?危ないよね!?」
「……うん。……おんぶ」
「もう、仕方ないな……ってなんでぇ!?」
明らかにおかしい。しかも、チョコケーキの食べカス口の周りに付けてるよ、誰この子。
符丹は十八にしては小さい。
実のところ歳をとるのが三倍になっていると分かったのは、その身体の寿命を見る事の出来る保持者【バインダー】の力によるものだ。
だから、急にこういう風な対応をされると子供っぽくて可愛い。
「……外、歩くの辛いのよ。だからおんぶって言ってるの。……それくらい察しなさい」
「急に可愛げ無くなったね!?ていうか、ならなんで出るの……」
ボクの疑問は解消されないまま、符丹はボクの後ろに回り込み一生懸命おんぶされようとしている。
「二人とも仲良しだねー。僕も安心して見てられるよー」
マスターはカップを洗いながらそんな事を言うが聞きたい。何処が?
そして、符丹がコアラみたいにしがみつき始めた辺りで、ボクは仕方なく彼女をおんぶする。
「……ありがとう」
小さな声でそう呟いた符丹に、マスターが日傘を渡す。
「そういえばマスター」
「んー?なんだいー?」
ボクが声をかけると、笑顔を浮かべるマスター。
それにしても相変わらず変な喋り方だな、この人。
「マスターって独り身でしたよね?」
「そうだねー」
「なんでなんですか?モテそうですよね?」
マスターは壁に寄りかかりながら、少し黙った後に
「なんていうかー、恋人とか家族が欲しくないっていう訳ではないんだけどー……今はそれより大事な物があるからねー。きっと家族が出来ても、その大事な事を優先してしまうから作る気にならないんだと思うよー」
成程、そういう考え方もあるのか、とボクは関心する。
そんなボクの様子を見てか
「それに同世代の女性に興味があるとは限らないからねー」
マスターは腕を組みそう言った。
え?それって……え?
ボクは驚き後ずさる。その時何処かにぶつかったのだろう、符丹が文句を言ってくる。
でもボクはそれどころじゃなく、とにかく今後のマスターへの態度を考え直していた。
だが、ボクの様子を気にした様子もなく、マスターは立ち上がり見送ってくれる。
「二人とも気をつけて行くんだよー?」
「え、えっと……分かりました」「……分かったわ」
そして、ボクは符丹を背負ったまま出発するのだった――そういえば何処に?
――続く