白色赤頭巾――狼十一匹
1、
翌日、土曜日の朝。
勿論昨日は金曜日だったわけだ。
まあ、なにはともあれ今日は一日自由なのである。
このまま布団にくるまったまま、昼間まで寝るのも悪くはな――『また君ーにー恋してるー』ピッ
こんな時間に電話とは非常識な人だ。勿論拒否した。
人の安眠を妨害するとは罪――『また君ーにー恋してるー』ピッ
「も・し・も・し?」
『……なんで一回目の拒否があんなに早かったのかしら?』
符丹だった。凄い不機嫌そう……というよりか不機嫌なのだろう。
その声はおぞましく、きっと邪悪な言霊か悪魔でも宿っているに違いない。
『…………今失礼な事考えたわね?』
「めっしょうもごじゃいませぬ」
『……噛み過ぎ』
「え?これは新人類語だから。動揺とかしてないよ」
ボクは冷や汗をかきながら誤魔化す。
それに新人類、変に進化してるし。
『……別に良いけど。あんた、今どこ?』
「家だけど?まさか調査しろとか?どうせあんな怪物――守護者はこの時間じゃ見つからないよ」
夢童話と伴って現れる怪物。
今回の場合はあの狼人間、あれはボクらの間では守護者と呼ばれている。
在り来たりだとは思うけど、シンプルな方がいい事もある。
『……違うわ。手伝って欲しい事があるの。……そろそろどうにかしないとダメだと思ってたから』
別件だった事にがっかり(断れないからである)して、ボクは気になっていた事を聞く。
「そういえばあのクイズ何?あんなタイミングで送ってくるなんてどうかしてるよ……」
『……あれはヒントよ。それにあんなタイミングって?』
一応何かヒントだったらしい。
「いや、なら別に気にしないでいいよ」
『……別にあんたの頭のネジがどうなってようと、私は気にしてないし』
「流石にひどい。そんな子に育てた覚えはないのに」
結構真面目に傷ついた。一応短くない付き合いだというのに、冷たいではないか。
『……あんたに育てられたからこそ、でしょ?』
「育てられたんだ!?育てられたんだ!?」
流石にこう返してくるとは思ってなかったから、二度言ってしまった。恐るべし符丹。
『……まあ、どうでもいいから取りあえず早く魔女の家……来なさい』
最後にそれだけ言って電話を切られる。
人使いが荒いな、嘆息しボクは渋々着替えを始める。
何処に行くも無難な格好を選び、小さな鞄に必要なものを詰め準備完了。
2、
そうして家の廊下をパタパタ音をたてながら歩いていると、そこには仁王立ちの我が妹。
その表情は言うまでもなく怒り。
「用件・帰宅時間・行き先!!」
どうやら昨日帰りがかなり遅れた事をまだ怒っているらしい。オカンか。
「デート・晩御飯までには・カフェ」
嘘は言ってないはず。そもそも用件知らないからいつ終わるかも分からないし、行き先も待ち合わせ場所しか分からない。
これボクに非はないだろ。全部符丹が悪い。
そんなことを思っていると、音子は小指を突き出してくる。
「……んっ!」
反応しないボクに焦れたのか、グイッと更に突き出してくる。
いや、何も言わなくちゃ分からないでしょ。この子どうしたの。
「指切り!約束!」
頬を膨らませ、人の頬に小指をグリグリ押し付けてくる。
指切りって子供っぽいな。しかもそんな風に頬膨らませても可愛くないぞ。
後、押し付けられたら指切り出来ない。
取りあえず心中で全てにツッコミをいれてドヤ顔。
そのドヤ顔が気に触ったのか音子にぶん殴られる。
鈍い音がしてボクは床に突っ伏す。
グーはダメだよ、グーは……良い子の皆はやったとしてもパーまででね。
「もう知らない!帰ってくんな!」
そう罵倒を浴びせ自室に駆けていくのであった。
「……反抗期かな?」
釈然としないが、昔はもっと可愛かったのに……と残念な気持ちが込み上げてくる。
まあ、ボスである玄関前の仁王立ち少女は撃退したし、これは先イベントに旅立ってよいということだろう。
ここまでしてボクはようやく、家を出れたのだった。
――続く