白色赤頭巾――狼一匹
ボクの人生は大したことのない人生だった。
この世の中が大したことの無いようなモノだと思うから、そうなのかも知れないとも思った。
黒く染まったわけでもなく、つまらない灰色に濁った世界。
そりゃ好きになれる訳がない。
でも、このどうしようもなくくだらない世界を、面白いと言う奴も居る。
そうやって人生を謳歌し、楽しみ、余裕を持つ者がきっと救える人間なのだろう。
これはそんな救える白色と、救えない灰色のボクの童話である。
重い瞼を持ち上げてボクの意識は覚醒する。
寝る前の喧騒は何処に行ったのか、会場は静まり返っていた。
――あれ?ここ何処?
「なんでこんな所で寝てんだろ?」
周りを見渡すと、人、人、人、人、人、人……人で埋め尽くされている。
ボクはその人の数に目眩を起こす。
「そっか、受験なうじゃん」
どうやらボクは試験開始前から爆睡したらしい。
何故誰も起こさない。
試験官くらいは起こしても良いだろう、むしろ起こせよ。
思っても仕方がない事だからボクは前を向く。
何故か薄暗い試験会場はやけに埃っぽくて息苦しい。
そんな中、皆真剣な顔して試験を受けてるもんだから更に気が参ってくる。
「むしろボクがおかしいのか……」
依然としてボクの前の解答用紙は真っ白。
勿論囲いなどは書いてあるが、それ以外はまるで穢れを知らない……何のようだろう。
こんな状態でも平然としていられるボクのメンタルは、強靭なのだろう。
だがいい加減、試験官の視線が痛くなってくる。
ていうかボクの事を見つめ過ぎじゃないだろうか?
もしかして惚れられた?
この試験の後ボクは呼び出され、試験官(♂)にその気持ちを告白され、あんな事やこんな事(♂)になるんじゃないだろうか。
…………とてもゴメンである。
そして、そろそろ「無駄な事考えてる暇があったらさっさとしろよ」と神に怒られてる気がするから名前を書く。
『梔 死人』
……今名前を『しにん』って読んだ人は間違いだ。
『くちなし しびと』大差は無いが、これがボクの名だ。
勿論、ボクも親の神経を疑がった。
だが両親は「ちゃんと意味あって付けた名前だから、文句を言わない」と意味も教えず言うのだった。
せめて志人とかあっただろうとツッコミを入れたら、勿論殴られた。
と、そんな考え事をしているとふと、視界の端に目立つ色を捉える。
それはこの場に相応しくなく、有り得ないほど綺麗な――白色だった。
恐らく女子であろう長さの髪。
ボクのテスト用紙は関係ないが、その色はまるで穢れを知らない……テスト用紙のようだった。
ずっとその白を見ていたくなる――が
「試験終わり」
その声に素晴らしい白色に眼を奪われていたボクは我に返る。
「名前しか書いてないよ……」
ボクは机に突っ伏し、試験は終了した。