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6


窓の隙間からひんやりとした風がカーテンを揺らしながら部屋の中に入ってくる。よその夕食の香りと、初夏の香りが入り混じったような、そんな風が鼻をくすぐった。

夕食を終えて、ひとり部屋にこもり、ジャジーな音楽を流す。耳に届くか届かないかの、そんな音量で。ラックに収まりきらないほどの洋楽のCDが溢れ返っている横で、でかく構えているステレオを眺めるのが好きだった。ロックバンドのメンバーでありながら、アコースティックやジャジーな音楽を好む俺にはロック魂、などというものは備わっていないらしい。それでもバンドの練習はわりと好きな方だった。何にでも手を出し、何でもそれなりに形になり、だからこそ夢中になれる“これ”というものがなかった。

いつしか何にも興味がなくなり、それなり、というスタンスが、俺、というものになっていた。


   流れる曲を口づさみながら、眠りに落ちそうになったとき、握りしめていた携帯電話が小刻みに震えだした。

薄く開いた瞳でそれを確認すると、見慣れた名前。

「んーあ、もしもし?光?」

ベッドに横たえたまま、クッションを抱きかかえて返事を待つ。いつものハイテンションな光の声が「怜ぴょーん」と俺の名前を呼んだので、俺は小さく「うん。どした」と返した。

少しの沈黙があって、光はもう一度俺の名前を呼んだ。俺はクッションを放り投げて遊びながら、耳だけを光の方に傾けた。


「俺さー、そういえば今日さーゆずるに振られた!」


もう一度閉じかけていた瞼がまさに、ぱちり、と開いた。

「なんて?」

「She turned me down...」(ゆずずにふられた)

光の声色が艶っぽくなって、俺は心臓がドキリとした。が、すぐに笑いがこみ上げてきた。

「おまえ、何言ってんの?告白でもしたのかよ」

腹の底からくつくつと笑いがこみ上げてきて、こらえ切れずに吹き出したが、はっとして口元を抑えた。

開けっ放しの窓から漏れた俺の笑い声をゆずるが聞いたら、と考えた自分。そして今日はまだ帰宅していない彼女を思い出してうんざりとした。

「ごめん、で、何?」

むくりとベッドの上に起き上り、携帯を耳に当て直す。

「とりあえず、俺、怜には言っておこうと思ってさ。」

「え、なにを」


「俺ゆずるのことまじだから。」

それじゃあ、と言って切れた電話。通話終了を知らせるツーツーという音がうるさいほどに耳に流れ込んできた。

我に返って携帯を机の上にのせた時、玄関のドアがバタンを大きく音を立てて閉まる音がした。

そして、どすどすという音が階段を上って近づいてくる。

「ゆずる、か。」

親友が、自分の双子の妹を、女、として見ていると思うと、なんだかムズかゆく、こそばゆいような、なんとも言えない感覚が俺を襲った。


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