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未来を変える? そんな事できるわけねぇだろ!  作者: 刹那END
Ⅰ.[物体を増殖させる能力……]
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Ⅰ―Ⅱ.「物体を増殖させる能力……」

 “彼女を……栗林を助ける!!”

 そう決心すると、何故か先よりも気持ちが少し楽になった。

 何でなのか。それは簡単答えだった。決心すると言う事は心を決めると言う意味合いだから、少し気持ちが楽になったんだ。

 放課後……それからが問題だ。


 ◇


 その問題の放課後となった。

 俺は友達と帰路につく栗林を尾行する。傍から見たらストーカーと間違われたりするかもしれないのであまりやりたくないが、彼女の為だと言い聞かせた。

 今の時刻は五時。

 彼女の死まであと一時間二十分。

 いや、本当に死ぬのかは定かじゃないので(仮)をつけておいたほうがいいのかもしれない。

 そんなことはさておき、俺は彼女を尾行する。

 お店やコンビニなど、寄り道をしたりしているせいでその時間は刻々と迫っていった。しかし、その分、不安は増していく。

 彼女を助けると言う事は未来を変えることになるんだ。それ即ち、生まれるはずのなかったものが生まれたり、生まれるはずだったものが生まれなくなる。

 それだけ責任の重い事を今からやろうとしているんだ。だが、こんな度胸のない俺でもやめようとは思わない。何故なら――

 ふと顔を上げて辺りを見回す。

 此処はコンビニ。しかし、先までいた筈の栗林がいなかった。

 自分の世界に入りすぎた! やばい、早く追いかけないと!

 急いでコンビニを出て右左を確認する。すると、左の方向に栗林が右の大通りに曲って行く姿が見えた。

 慌てて左の方向へと走って右の大通りに出ようと曲った時、人とぶつかった。

「すみません!」

 咄嗟に相手の顔を見ずに謝る。

 ぶつからないように避けながら相手の左側を通ろうとした時、相手が邪魔をした。右側を通ろうとしてもまた、邪魔をされ、前へ進めない。

 早くしないと見失ってしまう!

 無理やりにでも通ろうとした、その時――

「栗林は助けさせない」

「へ?」

 今……なんて?

 恐る恐る顔を上げて相手の顔を確認する。

 黒縁眼鏡をかけた二十代後半くらいの男性。そして、その姿は黒スーツ。

 真剣な顔をしている男性の口元がゆっくりと歪んだその瞬間――

「なっ!?」

 俺の見ていた風景がパズルのピースのように崩れていく。

「何だこれは!?」

 声を上げても風景が崩れていくのは止まらない。

 そして、全てのピースが崩れ落ちてその光景が俺の目に入った。

「……どういうこと」

 建物の位置、空の色は変わらない。だが、先の風景にはあって今の此処には無いものがあった。

「人が……いない……!?」

 どういうことだ! 此処にいる人は俺と目の前の男だけ! 車も通ってないし、歩く人影もない!

 歩き回りながら確認していく。そして、一つの事実が俺を陥れた。

「栗林が……いない!?」

 急いで携帯の時計を確認する。

 今の時刻は五時五十分。

 あと三十分!

「何をそこまで驚く必要がある? お前、“能力者”なんだから分かるだろ?」

「のうりょく……しゃ?」

 何言ってんだ、この男性は。 のうりょくしゃ? 何のことだかさっぱり分からん!

「ふーん。そうか、お前はまだ、その“能力”に気付いていないのか」

 一人で何かを理解した男性。そして、その口を歪め、言う。

「好都合だ。自らの能力の存在を知らないまま、死んでしまえ!」

 その叫びと同時に地面を右手で叩く。その瞬間、地面に電流のような物が走り――

「うわ!」

 俺の足場のアスファルトが崩れ落ちた。


 ◆


「いててて……」

 地面が急に崩れ落ちたせいで着地に失敗。その結果、お尻を強打して擦りながら今の状況を把握していく。

「ゴホッ! ゴホッ!」

 周りに散る大量の煙が俺の呼吸を阻害し、視界も一緒に奪う。

 煙が晴れてくると、今度はくさい臭いが俺を襲った。

「臭ッ! 何の――」

 ――臭いだ?

 咄嗟に鼻を塞ぐ。そして、煙が完全に晴れると、俺のいる場所が確認できた。

 下水道。

 どおりで臭いわけだ。なら、戻るには上に行かないと……

 しかし、上を見上げると、地上まで少し高さがある。上がるのは骨が折れそうだ。

 それにしても、地上から此処まで落ちて怪我が無いのは幸いだ。

 そんな事を考えながら、鼻を塞いでいると、上からそいつが降りてきた。

「まだ、死んでいないのか。運の悪い奴め」

 黒いスーツ姿の黒縁眼鏡をかけた男性。

 俺にとっては運が良いとしか思えないんだけどな。で、これからが問題だ。どうやって元の世界に戻すのか。いや、逆に俺たちが他の世界に飛ばされた可能性もあるから『どうやって戻るのか』かもしれないな。

 しかし、相手は考える暇を与えてはくれなかった。

 今度は片腕を前に出して電撃を空に走らせる。

 今度は何が起きるんだ? また、地面が崩れるのか?

 俺が下を警戒していると、それとは逆の事が俺の身に起こった。

「へ?」

 思わず、阿呆な声を上げてしまう。それもそうだった。自分の身に起こっていることが正しく阿呆みたいな事だったのだから。

「俺が……浮いてる……?」

 周りのアスファルトの瓦礫も一緒に浮いている。

 は? 何で? どうして?

 疑問詞がどんどん浮かび上がる中、俺の体もどんどん高い所まで浮いていく。

 これってまさか!?

 相手が俺を空高くまで上げている理由が分かった頃にはもう何もかもが手遅れだった。

「気付いたようだな……このままそこから落ちれば、お前は確実に死ぬ。最後に俺の能力だけ教えといてやるよ。俺の能力、それは“重さを自由に操る”能力だ」

 その瞬間、俺は降下を始めた。

「わああああぁぁぁああああああ!」

 このままじゃ……俺は死ぬ。そして、結果、彼女も死ぬ。それだけは避けたい。何としてでも避けたいんだ!

 “そうか、お前はまだ、その“能力”に気付いていないのか”

 瞬間、奴の言葉を思い出した。

「俺にも……使えるのか? あんなのが……!?」

 それなら、使わない手は無いな……

「何でもいいから、俺を助けろ!」

 そう、何の能力でもいい、俺の命をつないでくれるのならば!

 俺は地上に向けて右手を突き出して、その右腕を左手で掴んだ。

「いっけえぇぇぇぇぇぇぇ!」


 ◆


 咄嗟に瞑った眼をゆっくりと開ける。

「……痛い」

 体中が痛い。切傷だらけだ。

「でも……当たり前か……」

 そう、切傷があるのは当たり前だ。俺が落ちたのは樹の上。

 そのまま、樹の葉や枝に当たりながら減速して地面に辿り着いた。

 俺の能力は何なんだ?

 俺が片手をやると、空気に電気が走って、そして――

 ――木が増えた……いや、生えてきた? どっちなんだ?

「一瞬の内に能力を目覚めさせた。才能があるってことだな。そして、将来化ける可能性のある人物。今の内に叩いてた方が!」

 そいつは地面に片手を叩きつける。やばっ!

 咄嗟に横に飛んで回避しようとするが、広い範囲が崩れる対象だった。

「うわぁ!」

 また同じような声を上げて下に落ちていくはずだったのだが。

「助かった……」

 樹の根が俺を助けた。そう、もはや俺の周りにはアスファルトの至る所から樹が生えている有様だ。

 根っこを伝ってアスファルトの地面へと降り立つ。

 あー……体中が痛い。でも、そんな弱音は吐いてられないな……奴を倒せば、元の世界に戻れ、戻せるるはずだ。そして、倒す為には俺の力を認識して使いこなす必要がある。まずは――

 勢い良く片手を地面に着け、叫ぶ。

「おりゃぁぁぁぁああ!」

 叫ぶ(イコール)気持ちを入れると言う意味で俺は叫ぶ。多分、周りに人がいたらこんな恥ずかしいことは出来ない。だが生憎、人は俺と目の前の男性しかいないんだ。

 さぁ確認させてもろうか? 俺の能力を。

 地面を伝う電流は男の足下を目掛けて進んでいく。

「こんなもの避けるのなんて簡単だ!」

 自分の前の地面を崩した男。

 駄目だ……

 そう思ったその瞬間であった。

 急に崩れたアスファルトが下からどんどん積み上がっていき、男の顎目掛けて伸びた。

「な……に……」

 声を上げながら宙に上げられる男性は地面に叩きつけられた。

 分かった……分かったぞ! 俺の能力! だが、まだ確信は出来ない。確信する為には――

 俺はアスファルトの欠片を手に持った。

 はは……これしたら昔の苛めをしてる子供みたいだな……

 なんて事を思いながらもそれを行動に移した。

 片手に持ったアスファルトを勢い良く倒れている男性に向けて投げつけた。

 そして、すかさず片手を前に出して念じる。

 手から出る電撃は俺の投げたアスファルトに向けて疾走した。

「そんなもの!」

 そう言って地面に倒れている男は片手を前突き出し、地面のアスファルトを宙に上げ、壁を作る。

 このままでは当たらないがそんな事はどうでもいい。俺が確かめたい事はただ一つ――

「――俺の能力だけだ!」

 電撃はアスファルトの欠片とぶつかり、そして――

 ――アスファルトの欠片が“何十個にも増殖”した。

「なっ!」

 声を上げる男だが、何十個もの欠片は男の目の前にアスファルトの壁があるせいで届きはしない。

 だが、俺の能力はちゃんと確かめる事ができた。

 俺の能力、それは――

「物体を増殖させる能力……」

 言葉を失っているかに思えた男だが、言葉を発したと言う事はそこまでは驚いてはいないようだ。

 はっきり言うと俺のほうが男よりも驚いているかもしれない。自らの身にこんな力が隠されてあったんだぜ? 驚くだろ、普通。

 非現実的な事が目の前で起こってる。夢だとしても楽しいからいいや。

 そう、俺はこの状況を楽しんでいた。非現実的な状況が楽しいんだ。

 だが、忘れてはならない事が一つある。それは――

「あと十五分……」

 携帯を見て時刻を確認する。時間が無い! 早くしないと栗林が死んでしまう。

「もう諦めな。彼女は死ぬ。それが真実だ。受け入れなければこの先やってはいけない」

 人の死を受け入れろか……

「生憎、俺はまだお子ちゃまだから、そう言うのは受け入れられないんだよね!」

 俺は片手を地面に突き出す。

 そして、電撃が男に向けて走り、男の周りを死角に囲む。

「何だ……何をする気だ!」

 すかさず後方へと飛ぶ男性。

「俺、あんたの行動を見て、一つ気付いた事があるんです。あんたは自分の体重は操る事ができないんじゃないすか?」

 男性の目の色が変わった。図星と言う事か。

 そう思った瞬間、先まで男を囲っていた電撃の所からアスファルトが積みあがり、大きな箱を作った。

 ホントは閉じ込めるつもりだったんだけど、俺の力じゃまだ無理って事か……

 目の前の男みたいに片手をかざしてすぐに能力を発動できない。あー……今年で一番頭を使ってんな、今日は。そのせいで疲れてきたぜ。いや、正確に言うとそれだけのせいでもねぇんだがな……

 自らの体を見る。切傷だらけで痣もある。

 制服、破けたり汚れちゃってるな……帰ったら母さんにこっ酷く叱れそうだ。これ以上、汚すわけにはいかねぇ。

 箱の向こうに男がいる。そして、アスファルトの拳で顎にアッパーを喰らったんだ。ダメージは予想以上に与えられたはず。

 すると突然、ドオンと言う音と共にアスファルトが積みあがってできた箱が崩れた。

「そろそろ本気(マジ)でやるか」

 男の目つきが変わり、俺は正直、少しびびった。

 だが、退くわけにはいかない! 例え何があろうとも。

 そう決意したその瞬間、俺の横に聳え立つ、二つのビルに向けて電撃が走った。

 ガタガタと揺れ始める地面。それと同時に傾き始める二つのビル。

 おいおい、まさか!?

 その二つのビルが俺に向けて倒れてきていた。

 前言撤回! 今は退かないとやばい!

 先ほどの決意をすんなりと蹴っ飛ばして俺は全速力で後方へと走る。

 人間切り替えが一番大事なんだと心中で連呼しながら、走った。

 そして、轟音と共に向かい合う二つのビルが道路へと倒れた。

 煙が舞い上がる。それを手で払いながら、視界を確保しようとするが無駄なこと。視界はどんどん悪くなっていく。こっちが風下だったみたいだ。

 相手から打って出たと言う事は視界の奪われた今、何を仕掛けてくるに違いない。くそー、こっちは時間が無いって言うのに。

 あと十一分!

 周りを警戒する。しかし、それは警戒しているつもりなだけだった。そう、地面を警戒するのを煙のせいで忘れていたんだ。

 電撃が走ってすぐに地面のアスファルトは崩れた。

 また、下水道へと落ちた俺。

「いててて……」

 また、制服が破れたり、汚れちゃった。

 立ち上がろうとしたとき、気付いた。

「痛ッ!?」

 左足に激痛が走った。

 何で? 骨折か? 皹が入ったのか?

 突然の事で戸惑う。だが、こんなの事は当たり前だった。三メートルくらいの高さから落ちたんだ。骨折したりするのは当たり前のこと。

 そう理解して幾分かは冷静を取り戻す。だが、次の出来事が俺をまた、焦らせた。

「な……」

 上を見上げて俺は言葉を失った。

 そこには先ほど倒れたビルを片手で持ち上げているスーツ姿の黒縁眼鏡を掛けた男性がいた。

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