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未来を変える? そんな事できるわけねぇだろ!  作者: 刹那END
Ⅱ.[だったら――――俺が電撃野郎を倒してやるよ]
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Ⅱ―Ⅲ.「はぁー……人生、そんなに上手くはいかねえかぁ」

 次の日。いつもどおり学校に登校し、教室に入った。

 新川の席は今日も空いている。

 やはり、刃物で刺されるってのは相当な怪我らしい。俺は刺された事無いから分からんのだが……

 それにしても、相手は電撃に刃物。今のままの俺じゃあ、到底、太刀打ちできないのは確かだ。

 どうすれば、増殖が電撃と刃物に勝てるのか……答えは単純、無理だ。

 古嶋先生と坂江の前であんな言葉を吐いたのは本当に考え無しだったな……訂正したいくらいだ。

「はぁー……考えてたって、意味は無い、かぁ……」

「何、溜息吐いて、独り言、言ってんだ?」

 昼休み。友達Aが俺の前に現れた。

 選択肢は四つ。無視。逃げる。適当に対応。真剣に対応。

 俺は適当に対応する選択肢を選んだ。

「こっちの話……」

「ふーん……昼飯食わねぇのか?」

 うるせえなぁ……食うよ、食いますよー。

 俺は鞄から弁当を取り出して、机の上に置いた。

「前の席、いないからいいよな?」

「あぁん? いいんじゃね?」

 俺が何の説得力も無い返事を鵜呑みにした友達Aは俺の机に弁当を置いて、椅子を態々、後ろへと向けた。

 ……? そういえば、こいつと弁当食う機会はあんまり無いな……ああ、そうか。こいつは殆どが学食で俺は殆どが弁当か……

「珍しいな。お前が弁当なんて」

「ああ。気分転換は必要だぜ? お前も明日、学食にしてみれば?」

「……まぁ、考えておくさ」

 気分転換……ねぇ……気分……転換……?

 何か引っ掛かるものがその単語にはあった。

 転換……転換…………!?

「……転換だ……!?」

「へ……? 何? 転換がどうした?」

 え? 転換? おっと、俺は気付かないうちに嬉しすぎて、声が出ていたらしい。

「ありがとよ。お前のおかげで問題を解決できた」

「……? お、おう。どう……いたしまして……?」

 クエスチョンマークの付いた返事をした友達A。

 俺は弁当の中身を意味なく早々と口へと放り込む。

 そうか……“発想の転換”が重要だったのか……!?

 早く、“それ”を試してみたくて、俺は昼休みから放課後までそわそわしていた。


 ◇


 放課後になって、短く感じる幸せな時間が過ぎて、俺は家に帰り着いた。だが、俺には試したい事がある。

 俺は二度目のもう一つの世界(パラレルワールド)への鍵を開けると念じた。

 瞬間、目の前の風景がパズルのピースのように崩れ去った。

 俺の周りには誰もいなかったため、もう一つの世界(パラレルワールド)に来たという感覚が少しなかったが、まあいいやと開き直った。

 俺が試したかった事は本当に実現するのかは分からない。だが、これができれば、俺はたぶん、強くなる。

 俺は一度、深呼吸をして、地面に向けて、自らの拳を構えた。

 そして――


 ――自分の拳の威力を上げるように念じた。

 俺はその拳で、地面を殴りつけた。その瞬間、俺は目の当たりにした事の無い光景を目にする事となった。

 地割れが起きたように俺の拳をぶつけた部分からアスファルトが崩れた。

 ――!? いける!? これなら電撃野郎も倒せ――

「――痛いっ!!」

 瞬間、俺の拳に痛みが襲い掛かった。地面を殴りつけたんだ。当たり前といえば当たり前だ。

 くそ……なんかグローブみたいなのつけた方がいいのか……?

 目に涙を浮かべながら、俺は教訓した。


 ――手は殴るために存在するのではない、と。


「はぁー……人生、そんなに上手くはいかねえかぁ」

 莫迦(ばか)な俺はまたもや当たり前の事に気付かされ、自ら、莫迦さ加減をアピールしているようにも思えてきた。

 俺は全身傷だらけなのにまた、拳に怪我を負って、家へと帰った。


 ◇


 一週間後。教室での朝。

 それは長いようで短かった時間だったような気もするが、やはり、長かったのかもしれない。

 まぁ、時の捉え方は人それぞれだ。俺が栗林との楽しい帰路の時間を短く感じるようにな。

「何。にやけてるの?」

 と、俺の机の前に立ったのはどう見ても、女生徒の制服だ。

 そして、疑問系で聞いているのか分かり難い、棒読みの喋り方をする奴は他にはいない。

 先日の刃物野郎との交戦で俺を庇って、刃物で刺された彼女、新川が俺の机の前に立っていた。

「にやけてねーつの! てか、お前、大丈夫だったか? 一週間以上、学校休んでさぁ。心配したんだぜ?」

「大丈夫。そっちは? 包帯」

 俺の腕に巻いてある包帯を指差した新川。

「ああ。大丈夫だ。お前よりも軽傷軽傷! それより、あんとき、庇ってくれて、ありがとな」

「いい。あなたが、無事なら、それで良かった」

 俺が無事なら、それでいい? 俺にそこまでの価値があるのか? まぁ、よく分からんが、新川は良い奴だ。

 それより、俺はずっと、新川に聞きたかった事があった。あの刃物野郎が来た時、何故、俺を屋上へ連れてきたんだ? 刃物野郎が来た事を伝えるため? それとも、坂江があんなんになっていること見て、俺に伝えようとしたのか?

 と、疑問を募らせたところでチャイムが鳴り響いた。

 てくてくと自分の席へと戻っていく新川。

 昼休みにでも聞くか……

 と溜息交じりに思っていると、隣の女子から声をかけられた。名前は確か……桜田(さくらだ)だったかな?

「倉沢。いつからそんなに新川さんと仲良くなったわけ?」

 あぁ? あいつも能力者だからだよ。と、返答を返すわけにもいかないな。ここは嘘をついて乗り切るか……

「あいつと俺の家。幼稚園の時くらいまで隣の家でー……しょっちゅう、仲良く遊んでたんだー……」

「……へぇー」

 疑わしい目で見てくる桜田。

 どうやら、俺はあまり嘘をつくのが上手くないらしい。

「お前もちゃんと仲良くしてやれよ」

「う、うん……それより、あんた、この頃、栗林さんと帰ってるでしょ? 何? 付き合ってんの?」

「ばっ! ちげえよ!」

 にやりと口元を歪める桜田。

 どうやら、俺は分かりやすい反応をするらしい。

 そんな大ピンチな状況で教室のドアが開かれて、先生が入ってきた。

 ナイスだ、先生。給食に出てくるデザートを無償でプレゼントしたいくらいだ。だが、給食などないので、結局、俺は先生に何もあげはしない。

 そのまま、昼休みまで俺は、隣の桜田に何かつっこまれないかドキドキしながら過ごした。

 しかし、つっこまれる事は無かった。

 何だか、心配して損した気分に陥った。

 そんな状態の俺に新川が声をかけてくる。

「前の席、いい」

 いい? 何が言いたいんだ? と訝しげな表情を浮かべると、もう一度、口を開いた。

「いい?」

 ああ。疑問系だったのか。

「別にいいんじゃね? いないんだし」

 そう返答すると、新川は少し遠慮気味にその椅子を俺のほうへと向けて、座った。

 そうだ。こいつに聞かなきゃいけないことがあったんだ。

「お前、何であの時、俺を屋上に呼んだわけ?」

 弁当のふたを開けながら、そう尋ねると、新川も弁当のふたを開けて、それに答える。

「屋上にいた」

「……? 刃物野郎が?」

 新川は首を横に振る。

「なら、坂江?」

 これにも新川は首を横に振る。

 ん? あと、誰かいたのか? うーん……

 俺が無い頭で考えていると、新川から口を開いた。

「“電撃の(きょう)”」

「――!?」

 電撃野郎がいたのか……? いや、それでも、何で俺なんかを呼んだんだ?

「俺を呼んだのは、電撃野郎と刃物野郎がいたからか?」

 俺の問いに対して、またもや首を横に振った新川。どうやら、俺の意見がとことん嫌いらしい。

「私より、あなたの方が強い」

「へ? 新川よりも俺の方が強い?」

 首を微妙に縦に振った新川。そんな莫迦(ばか)な。

「俺よりもお前の能力の方が強くね? たぶん」

 新川は首を横に振る。

「私の能力は――“物体を鉄に変える能力”。鉄の形を変形させることも可能」

 俺は五秒間という人間にとって大切な時間、静止し続け、呟く。

「それって……俺の能力よりかも、普通に強くねえか?」

 俺が顔を引きつらせながら尋ねると、やはり、新川は首を横に振った。

「あなたはただ、本当に気付いてないだけ。気付いたとしたら、私の能力なんて歯が立たない」

「……“本当”ってのはなんだ?」

「自分で気付かないと意味がない」

 そういうと、新川は箸を持って、お弁当の中身を食い始めた。

 俺も箸を持ったが、弁当の中身を口の中に入れる動作はしない。

 本当……なんだ? 本当って……?

 考えれば考えるほど、分からない。

 諦めた俺は弁当の中にあるたこの形に切られたウインナーに箸をぶっ刺した。


 ◇


 放課後。

 俺は栗林に「先に帰ってても良いよ」と言ってから、その足をこの場所へと赴かせた。

 生徒会室。

 少し嫌な場所だ。いや、前言撤回。“すごく”嫌な場所だ。

 生徒会室なんて俺には無縁な存在だと思っていたが、こうも何回も訪れる事になろうとは……

 俺はその生徒会室のドアを四回ノックした。

 「入れ」という偉そうな声がドアの向こうから聞こえる。

 坂江はいつも生徒会室に居座っているのか……よほど、生徒会室の居心地が良いようだな。

 俺はドアノブに手を掛けて、生徒会室へと入っていった。

「フン。君はまだ、包帯を巻いているのかね?」

 俺の姿を見た途端、すぐにそう言った坂江。

「てめえも包帯巻いてんじゃねえかよ。ミイラ男」

 俺がそう返すと、坂江は返す言葉がなくなったらしく、口を開かなかった。

 よっしゃ、勝った!

 俺が心中で喜んだ瞬間、坂江は俺に尋ねてきた。

「で、君は何しにここへ来たんだ?」

「んなモン決まってんだろ! いつ、駿河高校に殴りこみに行くかだ」

 俺の発言に対して、坂江は「フン!」と鼻を鳴らして、

「君に言われずとも分かっている。殴りこみの日は――――明後日の放課後だ」

 明後日……土曜日か……

「それで、決定だな? 桑原と満と新川に伝えていいんだな?」

「ああ」

 本当に明後日でいいのか……?

「お前、ホントに電撃野郎に敵うのか?」

 俺は余裕の表情でいる坂江に対してそう尋ねた。

「愚問だな。そう言えば、君は自分で電撃野郎を倒すなどと息巻いてはいなかったかね?」

「うっ……」

 意表を突かれてしまった。

 俺は確かにそう発言した。

「君は本当は(きょう)に勝てるとは思っていないのではないか?」

 俺は目の前で見た。坂江に向けて、壁の柱が飛び出したとき、それが粉々に砕け散るところを。

 そんな坂江でもボコボコにされた敵。

 俺なんかが到底、敵うとは思えないのは確かだった。

「……ああ。お前の言うとおり、俺は俺の能力が電撃に敵うなんて到底、思えない。けど、何でもやってみない事には分からないだろ? だから、たとえ、勝つ確立が一パーセントだったとしても――俺はその一パーセントに賭けてやる!」

「……生意気な奴だな……だが、君は鏡とは戦わない。何故なら、僕が倒すからね」

 にやりと笑みを浮かべた坂江。俺も同様ににやりとその口を歪めて、坂江に背を向けた。

 俺はそのまま、生徒会室を後にした。


 ◇


 靴箱へと行くと、その外には栗林の姿があった。

 早急に靴へと履き替えて、外へと出て栗林に向けて言う。

「先、帰ってても良いって言ったのに」

「“帰っててもいい”でしょ? なら、帰らなくてもいいじゃん」

 まあ、そうなんだが……

 俺は少し、栗林と一緒に帰る事を躊躇(ちゅうちょ)していた。それは桜田の発言があったからであった。

「どーしたの?」

「えっ……いや……」

 気にしない方がいいな……

「なんでもない。早く、帰ろーぜ!」

 そう言って、俺は歩き出した。

 そんな一時の幸せな時間を味わった俺はまた、家の前で立ち止まった。

 自らの携帯電話を取り出して、電話帳を開き、桑原を選択する。

 携帯電話を右耳に当てると、お決まりの音が鳴っている。

『もしもし?』

 と、桑原の声が聞こえてきたのを確認する。

「倉沢だけど」

『うん。どうしたの?』

 俺は桑原に明後日、駿河高校に行く事を伝えた。そして、満には俺から伝えておくという事も伝えて、切ろうとした瞬間だった。

『倉沢君……大丈夫……?』

「何が?」

『いや……何でもないわ。頑張りましょう』

 そこで電話は切れた。

 何だったのだろうか……“大丈夫”。

 俺は疑問を募らせながら、電話帳の中の満を選択した。

『もしもし? 剛お兄さんッスか?』

 可愛い声が俺の耳に鳴り響いた。

「おお。駿河高校に行くのな」

 と桑原と同様の説明を行うと、満は元気良く、

『ハイッス! 雪辱戦、頑張りましょうね!』

 と言った。

 こんな、はきはきとした声を聞かされると、俺も元気を貰ったような気がする。

「おぉ! 頑張ろーな!」

 そう言って、俺は電話を切った。


 ◇


 翌日。

 学校生活はいつもどおりのように過ぎていき、栗林との幸せな時間も颯爽と過ぎていった。

 いよいよ明日、電撃野郎と戦わなければならない。

 俺は自分のベッドの上で座り、それを凝視していた。

 グローブ。いや、グローブと言うより、ハンドレッド? まあどうでもいいや。

 身の回りの準備はできた。あとは――

「――心の準備だけかぁ……」

 溜息を吐いて、鞄の中にそのグローブを入れて、少し、躊躇(ためら)いながら、部屋の電気を消した。

 電気消してから、三時間くらい寝付けなかったことは言うまでもない。

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