勉強時二重人格症候群
有栖川 唯は自室に戻り、フーッと大きく息を吐いた。家に帰ったらまずルーティンの半身浴を20分ほどする。39°の浴槽に浸かりながらエクセルで自分で予め編集しておいた簿記の仕訳のリストに目を通し、軽く目を瞑る。唯の仕訳リストには簿記3級で習うような基礎の仕訳から公認会計士で勉強する連結や企業結合など応用的な論点の仕訳まであらゆる仕訳のテンプレが網羅的にかつ分かりやすくまとめられている。
12月短答本番まで遂に2か月を切っている・・・・
"お父さん、私を見守っていて・・・"
唯はお風呂から上がり、ミネラルウォーターを飲み、軽くストレッチと筋トレをする。そのまま首を左右に二回捻り即座に机に向かいまるでマシーンのように何かに取り憑かれたかのように一心不乱で簿記の勉強を開始する。
机の正面の壁には8年前に亡くなった父親の写真が飾ってある。
”お父さん・・・・"
父の写真を見るといつも涙が溢れてきてしまう。
そんな感情を振り払うように唯は無心で電卓を叩く。
絶対に!絶対に短答式に受かってやるんだから!
私に負けるなんて言葉と概念は存在しないのよ!
"勉強時二重人格症候群"・・・・・・・・・・
唯は電卓を打つと人格が豹変する。
唯は担当の医師から勉強時二重人格症候群という病名を診断されている。
100万人に1人がなるという難病を唯はずっと幼少期から抱えていた。
勿論唯は周りの誰にもこのことは秘密にしている。
学校の先生にも・・・計にも・・・徹也にも・・・
父の月命日には必ずお墓参りに行っている。今までも一度も欠かしたことはない。
これからもずっと・・・・
"唯はいつも優等生で成績優秀だからね。唯はお父さんの自慢の娘だよ・・・"
父は生前、唯のことをいつも褒めてくれた。
お父さんの期待にずっと応えたかった。テストで良い成績を取り続けてお父さんに唯は凄いねっていつも褒めてもらいたかった。お父さんを喜ばせたかった。お父さんに自分のことを認めてほしかった。
ただその一心で唯は小学校の時から常にトップの成績を取り続けてきた・・・・
"お父さんのためにも、そして私自身の誇りのために、他でもない私自身の崇高な勝利のために私は必ず公認会計士試験に合格して見せるのよ。"
財務会計論の計算の短答式の過去問を15分で解き終えた。一口ミネラルウォーターを口に含んだ。首をもう一度2回左右に捻る。
唯は解答解説を確認して自己採点した。
今日もいつも通り全問正解だった・・・・・・・・・・




