07
ウィンが掲示板をある程度見終わり、リアルでの飲食やお手洗いを済ませて帰ってくると、アイビーはホームの椅子でうとうとと眠っていた。
「あらま、アイビー寝ちゃってるわ。じゃあいったん外に出て街を見てこようかな」
寝ているアイビーの姿を見てウィンは起こさないように注意して家のドアノブに手をかけた。
ウィンがそおーっと音を立てないようにドアを開けようとするも、カチャリとドアを開けた瞬間に音が鳴る。その音は無音だった空間にやけに大きく響いた。
「あれ、ご主人様?」
その音で目を覚ましてしまったアイビーは目をこすりながら、外へ出ていこうとしているウィンの方へ緩慢に視線を動かした。2人の視線が交わった瞬間、アイビーは目を見開いて椅子から立ち上がった。
「はッ、申し訳ありません!!ご主人様がいらっしゃったのに居眠りなど……ッ」
立ち上がって深く頭を下げるアイビーに、ウェンは「そんな謝るようなことじゃないよ!」と言いながら駆け寄る。
「顔上げて!別に俺怒ってないから、アイビーが寝てたからちょっと街歩いてこようとしてただけだから」
「そうだったのですか」
アイビーは顔をあげて息をつく。ウィンはアイビーは自分を卑下するような発言が多いな思いと頬をかいた。
「そういえば、服は完成したの?」
「あ、はい!ご主人様のために作り上げた服です。どうぞお手に取ってください」
ウィンは机の上にあるロリータ服を手に取り鑑定を行う。鑑定とは全プレイヤーに備わっている固定技能だ。
月糸のドレス【服飾・ロリータ】
月糸を使って縫われたドレス。通常よりも耐久値が高い。
【魔力+3】
「本当はもっと能力上昇をつけたかったのですが、どうも僕には運がなかったみたいです」
「それはまあ、仕方ないよ」
「それよりも、どうぞお召くださいませ」
アイビーがウィンが月糸のドレスを着るのを楽しみにきらきらとした瞳で見上げてくるので、ウィンは苦笑いしながらドレスをインベントリにしまい、そこから装備を選択した。すると、一瞬にしてウィンの装備が変わり、初期装備の部屋着のような白シャツから豪華なドレスへ様変わりした。
「どう、かわいいか?」
スカートのすそをつまんで持ち上げながら、ウィンは首を傾げる。
その姿はまさしく人に仕えられるにふさわしいお嬢様のような姿だった。
「はい、お可愛らしいです!」
「それはよかった」
ウィンはむず痒い気持ちになりながらも、アイビーの賞賛の言葉を受け取る。
「それじゃあ、俺はギルドでクエストとか受けようと思うんだけどアイビーはどうする?ホームに残る?」
「いえ、ご同行させてください」
「わかった。それじゃついてきてね」
冒険者ギルドについた2人は受注可能なクエストを探す。
適当な場所に座ってウィンドウを覗き込みながらウィンたちでも受けられるようなクエストを探していると、ギルドの奥から駆け寄ってきた赤髪の女性プレイヤーから話しかけられた。
「あの、いきなりですみません!その服どこで売ってました?」
「ちょっと、ご主人様に向かって名前も名乗らず不躾ですよ!」
アイビーは駆け寄ってきたプレイヤーの前にウィンを守るように立ちはだかってにらみつける。彼女はアイビーの目線にビクッと肩をはねさせながら「すみません」と謝った。
「私は狼の獣人のルージュです!あの、素敵な服だったのでつい舞い上がってしまいました」
「俺はウィンだ。見てのとおり人間だがちょっと訳あって女装している。こっちは召喚獣のアイビー。いきなりこいつがにらみつけて悪かったな」
ルージュがぺこぺこと頭を下げながら自己紹介をするのでウィンも立ち上がってお辞儀をしながら自己紹介をすると、ルージュはぽかんと口をあけてウィンを凝視した。
「おい、どうした?まさかログアウトでもしたのか?」
「返事がありませんね。石化魔法でもかけられたみたいに固まってます」
顔の前で手を振っても肩をたたいてもルージュの返事はない。どうしたものかとウィンが運営に報告をすることも視野に入れ始めたころ、ルージュは瞬きをして大声で叫びだした。
「うっそ、男なの?!その見た目で?!!!」
「うるさいですねこの女。口を縫い付けてしまいましょうか?」
「やめとけ」
ウィンはアイビーが裁縫針を取り出して冷めた目でルージュに向かってそう言うので、首を振りながらたしなめる。しかし、ウィンも引いた眼でルージュを見つめていた。
そんなウィンとアイビーの様子はルージュの目には入っていないようで、ぐっと握りこぶしを作りながらルージュは続けて話し出す。
「いや、逆にアリ!!ほんとはめっちゃ可愛い女の子をナンパしようと思ってきたけど、男の娘!こんなかわいいのに男!新たな扉が開きました」
「閉じてくださいそんな扉」
ドン引きしたウィンとアイビーが逃げたほうがいいんじゃないかとこそこそ話していると、ルージュがグイッとウィンに近づいてウィンの右手を手に取り両手で包み込んだ。
「お願いします。私とフレンドになってください。そして、ぜひ私とパーティーを組んでいただけませんでしょうか」
真剣な顔でルージュはウィンの顔を見上げてそう頼み込む。
ウィンは握られた自分の右手とルージュのその真剣な顔を交互に見比べて口の端をひくつかせる。
「……スゥーー、変態さんはお断りです」




