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「ほらついたでしょ、俺の予測は間違ってなかった」
ウィンは商業施設が立ち並ぶ道を迷いなく歩き、ある建物の前で立ち止まる。そしてアイビーの手を引いてウィンはそのなかに入っていった。
「こんにちは、こちらはフィンルス商業ギルドです。」
受付の女性が綺麗なお辞儀をしてウィン達を迎え入れる。
ウィンは、カウンターまで行きアイテムを購入する。
初心者用裁縫キット
そして染料はパンシーという花。このギルドで一番安い染料である。
そして、必要そうなボタンやリボンたちをいくつか購入する。
合計1600ルチルを払いウィンは商業ギルドを後にした。
「ねえアイビー、いったんダンジョン行かない?」
商業ギルドから出たウィンはアイビーにそう提案した。
この町の端にはダンジョンというものがある。VRMMO×ローグライトのローグライトの部分を担っている要素の一つだ。このゲームではダンジョン内以外ではジョブレベルを上げることができない。そして、死亡するとジョブレベルがリセットされてしまうのだ。幸いスキルレベルや一部のアイテムは失わないがHPや筋力といったステータスまでリセットされる。
「ですが、僕たちの能力では5階まで行って帰ってこられるかすら怪しいですよ」
ダンジョンには5階毎にセーブポイントが存在する。そこにたどり着けば町までワープして帰ってこれたり、次、ダンジョンへ挑戦するときにそこから始めることができるようになる。でもウィンとアイビーにはまともな攻撃手段がないので5階へ行くことすらできないかもしれない。
「そうだけどさ、今の俺らでどこまで攻略できるか基準が欲しいんだよね。5階まではいけなかったとしても行ってみたいな。それに戦闘してみたくない?」
「はい、今の僕でどのくらいご主人様を守ることができるのか知っておきたいです」
「おっけー、じゃあ荷物をホームに預けてダンジョンにレッツゴー!!」
正直言ってウィンはダンジョンをなめていた。ダンジョン1階に頻出するホーンラビットに囲まれて攻撃を受けながらウィンは叫んだ。
「何でこんなかってぇの!!お前ウサギだよな?1階のウサギってこんなに硬いの?!速いの?!つええの?!」
「違いますご主人様!僕たちが弱いだけです!」
アイビーは糸魔術でホーンラビットの機動力をほんの少し下げながら懸命にダガーで攻撃を行う。アイビーはとても器用に、素早く飛び回っているホーンラビットに攻撃を当てるがホーンラビットのHPバーは5分の1ほどしか削れない。3匹のホーンラビットに囲まれていてウィンとアイビーはだんだんとHPが減少していく。
「やっべぇ!魔法系取ればよかったかもしれない、攻撃手段がない!!アイビー魔術でどうにかできないの!!」
「無理です!糸魔術は戦闘向きじゃないんです!できても足止めだけですし、攻撃にはほとんど使えません!」
「スキルに月の糸とかあったじゃん!あれは?!」
「戦闘では全く使い物になりません!!!」
とうとう横から突進してきたホーンラビットの攻撃にあたり、ウィンのHPが0になって死亡した。そして、主のいなくなった召喚獣もウィンが死亡したと同時に消滅した。
ホームに帰ってきてウィンは固めのベッドに勢いよく身を投げた。その傍らでアイビーはベッドにいすを寄せて座った。そして、それぞれ苦い表情で今行ってきたダンジョンについて語る。
「まさか、2階すらいけないとは思ってなかったわ」
「僕も目算を見誤っていました。こんなにも弱いとは……お役に立てず申し訳ありません」
「いや、俺が荷物過ぎた。アイビーは悪くないよ」
ウィンはそう言ったきり口を閉じてしまった。アイビーはウィンに掛ける言葉を見つけることができず、迷子の子供の様にうつむく。
二人の間に重い空気が広がった。
ウィンは顔に手を当てて大きくため息をつく。これからどうすればいいかを考え、ゲーム内掲示板を見るために体をベッドから起こすと、ぽろぽろと音もなく涙を流すアイビーの姿が目に入った。
「え、なんっ、なんで泣いてるの!?」
「自分が情けなくてッ、こんな弱い召喚獣なんてご主人様にふさわしくありません!!もっと僕が強ければ、最下級悪魔でさえなければッ」
アイビーはズボンをくしゃくしゃになるほど握りこんで顔をゆがめる。そんなアイビーを見たウィンは我慢ならずに立ち上がり、両手を使ってアイビーの頭を自身と目が合うように持ち上げた。突然顔を上に向けさせられたアイビーはあっけに取られてウィンを見る。ウィンの顔には怒りの感情がほんの少しだけにじんでいた。
「俺さぁ、アイビーが召喚されてくれてうれしかったんだよ。確かに俺が望んでたのはアタックタイプの召喚獣だったけどさ、今はもう俺の召喚獣はアイビーしか考えられないよ。まだあって一日もたってないし、アイビーがなんでそこまで慕ってくれてるのかはわかんないけど、そんなに自分を卑下すんなよ。俺の服作ってくれんのお前しかいないんだぞ」
「……ご主人様」
「今の俺は正直めちゃめちゃ弱いけど、頑張るからさ。アイビーもふさわしくないとか言わないで。俺の召喚獣は裁縫師のアイビーだろ。」
そう言い切ってウィンはアイビーの頬から手を放す。ぽかんとしていたアイビーだが、ウィンのいった言葉をゆっくりと咀嚼して涙をぬぐう。
「はいッ、ご主人様!!」
ウィンを見上げて答えたアイビーは、とびきりの笑顔で笑っていた。




