02
ウィンが降り立った始まりの街は、フィンルスという名前の街らしい。始まりの街らしく最低限のまちの要素は含んでいるが、何処か物足りない雰囲気の街だ。
「まずは何からやろうかな。ホームから召喚ってできるんだっけ?」
ホームとは全プレイヤーに配られている異界空間の事である。初めて入る時は狭い空間だが、ゲーム内通貨を使うことで改造していくことができるらしい。家具も置けるし、こだわりがある人はとことんハマる機能だろう。
「一応、特殊召喚だし?見られたらマズイ奴が出てくるかも知んないし」
ということでウィンはメニューからホームへ行くボタンを指で押した。世界が切り替わって草原のなかにぽつんと立っている家の目の前についた。
「さて、マイホームのなかはどうなってるんでしょうか!」
家の中はシンプルな木のテーブルと椅子。ちょっと硬そうなベッドもある。ウィンはベッドの近くに鏡が置かれているのを見つけた。これがはじめから置いてあるゲームは珍しい。
「初っ端から鏡とかあるのか。……へー、外見変更用の鏡なんだ。てっきり課金しないとできないと思ってた」
シンプルな作りの姿見に物珍しい気持ちでじろじろと見たあと、椅子に座ってテーブルにひじをつく。
「1回ステータス確認しようかな。」
ウィンはメニューからステータスを選んで表示させた。ブォンと効果音を出しながらステータスウィンドウが出現する。
プレイヤーネーム∶ウィン
ジョブ∶特殊召喚士Lv.1
種族∶人族
HP40(+4)
MP69(+6)
筋力4
魔力23(+2)
器用10
俊敏6
耐久5(+2)
幸運2
スキル∶使役Lv.1、命令Lv.1、特殊召喚Lv.1、縛り
「このカッコの中は装備とかの補正だな。てか、幸運があまりにも低い。特殊召喚で激レアは狙えないな」
幸運値の低さに一抹の不安を覚えながらも、ウィンは特殊召喚をするために、スキル名を長押しして詳細を確認する。
「呪文を唱えるだけでいい感じ?てか、MP結構持ってかれるじゃん。魔力高くて助かった。」
「よし、ホームでも召喚できるっぽいし取り敢えず呼んでみよう!」
ウィンが呼びたい召喚獣は会話ができて、アタックタイプの召喚獣だ。普通の召喚では、アタックタイプ、ディフェンスタイプ、それとバッファータイプから選べるみたいだが特殊召喚では選択不可能。
事故る可能性だって大いにあり得る。ウィンは気合を入れるため頬を叩いて立ち上がった。
「しゃべれるアタッカー来い!『特殊召喚!!』」
ウィンがそう唱えると、ダークブラウンの床に乳白色の光で魔法陣が描かれた。現れた魔法陣からは光とともに風が吹き荒れている。ウィンはあまりのまぶしさに思わず目を閉じてしまった。
風と光がやんでウィンは目を開けて何が召喚されたかを確認する。
「ショタァーー!?!?」
小学生くらいの見た目の少年が部屋の中に召喚された。よく見ると、瞳孔が縦に細かったり、角や翼が生えていることで人間ではないことがよくわかる。ウィンは召喚された召喚獣の姿に驚きはしたが、人型を召喚できたことに、今後一人ぼっちの寂しいVRMMOにはならなさそうだと安心する。
「初めまして、俺の名前はウィン。これからよろしくな」
「はい、よろしくお願いしますご主人様」
「おお、しゃべった!!」
ウィンはガッツポーズをとり喜ぶ。召喚された少年は不思議がりながらもよかったですねとほほ笑んだ。
「じゃあとりあえずステータス確認させてもらっていい?」
「どうぞご自由に」
ノーネーム
ジョブ∶裁縫師Lv.1
種族∶最下級悪魔
HP60
MP60
筋力7(+1)
魔力20
器用31
俊敏25
耐久15(+1)
幸運2
スキル∶従属Lv.1、裁縫Lv.1、糸魔術Lv.1、月の糸
運がない。ウィンがこの少年のステータスを見て一番最初に思ったことはそれだった。
「運がないなお前……」
「いえ、ご主人様に呼ばれたことはこの上ない幸運でございます」
「いい奴だなお前」
少年は、小さな手を胸に当てて真っ直ぐにウィンのことを見ている。その姿を見て、少年を守らねばという意思がウィンに芽生えた。能力値を見るとウィンよりもこの男の子のほうがまだ戦えそうだが。
ウィンが頭撫でてやると少年は「おやめください」と口にする。だが、嫌がっている素振りはないし、むしろ嬉しそうだ。
「ノーネームってことは名前は俺がつけなきゃいけないのか」
「よろしくお願いします」
「何か希望とかある?」
「何もございません。ご主人様の呼びやすいように雑魚でも下僕でも、ゴンザレスでも好きなようにお呼びください」
「そんな呼び方するわけないだろ、」
冗談かどうかわからない例えを真顔でする少年に、返答を困りながらウィンは名前を考える。
「そうだ、アイビーとかどうだ?何かの植物の名前だったような気がする」
「アイビー、僕はアイビー!ありがとうございますご主人様!」
ノーネームをアイビーに上書きすると少年はキラキラとした瞳でウィンに礼をする。そんなアイビーの姿にウィンはそんなに喜ぶ?と恥ずかしそうに笑った。
「でもこれじゃあアタッカーがいないなぁ。」
「そうですね、僕は見ての通り裁縫師ですしご主人様は召喚士。攻撃性は低いですね」
「まあ考えても仕方ないか。次は縛りについて考えなきゃか」
難しい顔をしてステータスとにらめっこをし始めたウィンにアイビーは見ていいかと許可を取り一緒にステータスウィンドウを覗き込む。
「縛りでの強化は間違いなく魔力一択でしょうけど、何を縛るのですか?」
「わからない、ランダムなんだ。もしかしたらヤバイのを引くかもしれない」
ウィンはなんの縛りを受けるのかと震える指でスキル「縛り」をパッシブ化する。
すると、新しくウィンドウが出現して項目を選択させられた。
筋力強化∶縛り「アクセサリー枠1減少」/魔力強化∶縛り「ロリータ」/器用強化∶縛り「髪なし」
ウィンはその中から迷いなく魔力強化を選択した。
「あっぶねぇ、ハゲはマジ勘弁。しっかしロリータって何?」
「服装ジャンルのことだと思います。」
「ええ、どんなのだろう?」
全くイメージがつかなかったのでウィンは、ゲーム内から外部へアクセスし「ロリータ」について検索をしてみる。
そこに映し出されたものはふわりとしたシルエットに大量のフリルとレース。可愛らしい大きいリボンのついている服装のコーデだった。
「うっそ、まじか。マジかよこれ縛り?変更できねぇの?てか着れんのか?男だぞ俺」
「これは作りがいがありそうですね。僕でもお役に立てそうです!」
ぐっと気合を入れながらウィンの役に立てそうなことを喜ぶアイビーと、これからのことを思い描き魂の抜けたようにへたり込むウィンの姿はまるでウィンだけが地獄にいるようだった。




