01
「これが、新しいVRMMOか」
翼が手に取ったのは有名なメーカーから発売されたVRMMOのパッケージ。このゲームは、VRMMO✕ローグライトをテーマに、VRMMOの自由さは残しつつ、ローグライトという今までになかった要素を取り入れたゲームだ。
翼はゲームデータをインストールしておいたベッドセットを頭にかぶせ電源を入れた。そっと目をつぶるとカッと目の前が白む。「ダイブが成功しました」という女性の声が聞こえ、翼が目を開けると、灰色の荒廃した世界の真ん中に、真っ白な少女が立っていた。
「ようこそおいでくださいました。ここは、リミットデットオンラインの世界でございます。」
綺麗なカーテシーをしながら少女は言う。小さな花があしらわれたスカートに、顔が見えないほどのヴェールが綺麗さと怪しさを漂わせている。少女は優雅なしぐさで白い手を胸に当て微笑むように首を傾けた。
「あなたたちには、世界を救うための勇傑としてこの世界に降り立ってもらいます。そこであなたは暮らし、地下世界と地上をつなげるために何度も、何度も、何度も挑戦と失敗を繰り返すことになるでしょう。あなたは、何者になってこの世界に旅立ちますか?」
少女の言葉が終わると、翼の目の前に青のパネルが出現した。プレイヤーネームを入力してくださいの文字入力欄があるパネルをタップして、翼はプレイヤーネームに「ウィン」と入力した。由来はシンプルに名前を英語にしたものからとっている。
「ウィン様でございますね。それでは、容姿を決定してください。なお、後ほど決定する種族によって決定した容姿が変更される場合があります」
「うわ、誰このイケメン」
自分のアバターとしてパネルに表示された姿は、現実の翼を数倍美化したものだった。釣り目で目の大きな短髪のイケメンに、翼は「俺じゃなさ過ぎてさすがにキモイか?」とつぶやいた。
かといって、現実に寄せすぎてVRMMOになじめないのも悲しいので、顔は目をリアルと同じ三白眼に調整するだけにとどめた。
「あ、そうか。ゲームの中だったら髪が長くても怒られないのか」
高校の校則では禁止にされていた耳の位置よりも長い髪型にあこがれていた翼は、アバターの髪の毛を肩につくかつかないかの長さまで伸ばしてみる。
「割と似合ってるじゃん」
「じゃあ、後は色をどうするかだけど……いいか、黒と赤で。かっけえし」
アバターの瞳を赤に、髪の毛を黒にしてアバターの容姿を決定する。身長は170ぴったりのままで、体型は自動でいい感じに調整されていたから、そのままを使用した。
そして、その次は、待ちに待ったジョブやステータスを決めるターンがやってきた。
「あ、ダイスの女神にすべてを任せるボタンがあるんだが」
ランダムでステータスを振り分けられるらしい。ステータスポイント50ポイントを筋力、魔力、器用、敏捷、耐久、幸運に振り分ける王道タイプ。HPは選んだジョブによって変わって、MPは魔力の3倍の値らしい。
「一旦ポイントランダムで振ってからジョブ見るか」
ダイスの女神様なんかいい感じにしてください!と祈りながら翼はボタンを押す。数字が変わる短い演出とともに変化した能力値は、
筋力4
魔力23
器用10
俊敏6
耐久5
幸運2
という結果となった。
「あー、わかる。ランダムってたまにこうなるよな。」
翼は魔力に偏った能力値を見てそう言葉をこぼす。手を加えたいところは沢山あるが、ランダムならば全然許せる範囲だと翼は満足そうに頷いた。
「となると、ほぼ魔法系のジョブで確定だな。うわ、スクロールバー短えわ。能力値で絞って大正解だったな」
小指の爪の先ほどのスクロールバーを見て驚きつつ、魔力を使うジョブに絞って探してみる。
「魔法使い、魔術師、魔導師に違いがあるのか?これ別々なゲーム初めて見た。流石有名メーカー……。やっぱ召喚士とか、妖精使いとかいいな、旅の相棒欲しいよな。」
最近のゲームの進化はすごくて、会話もほぼ人間と話してるみたいになっているらしい。感情テストみたいな試験をクリアしたAIが使われているからそんな事が可能なのだそうだ。
運が良かったら、会話が可能な使い魔に進化する可能性がある妖精使いは一考の余地ありじゃないか?
「正直、可愛い妖精さんとおしゃべりとかめっちゃしたい。でもジョブ性能は支援特化っぽい。俺一人プレイだから支援特化はきちいな。火力欲しい」
「召喚士はなんか召喚獣の管理むずそうだからパスで、魔法使いとか魔術師とか呪文忘れちゃいそうだからちょっと。」
ジョブ選びに迷っていると、今まで静かに見守っていた少女が手招きして、「なににお困りですか?」と翼に問いかけた。
「魔力を使うジョブで、俺ができそうなのがわからなくて困ってるっす」
「承知しました。では、貴方がこのゲーム体験において一番重視したいのは何ですか?」
「寂しくならないことです」
困っていた翼に向けた適正ジョブ診断みたいなものが始まった。悩みすぎたらこんな風に助け舟が出されるんだなあと感心しながら、翼は少女の問いに次々と答えていく。
「最後に、黒と白ならどちらを選びますか?」
「正直どっちも好きっす。捨てがたいっすね。どちらか選ぶとしたら……黒?」
約10問の質問が終わったら、ジョブ一覧が勢いよくスクロールされて1つのジョブのところでピタリと止まった。
「特殊召喚士?」
「はい、貴方に適切なジョブは特殊召喚士と判断させていただきました。特殊召喚士は、特殊個体やレア種族が召喚されやすいかわりに、最大召喚数は2と他の召喚系に比べて明確な欠点が有ります。」
「けど逆に考えると管理しやすいしな」
「もう一つ欠点があるとするならば、術者の攻撃能力が無に等しいことで有りますが」
「そこはまあ、召喚した奴がどうにかしてくれると信じてジョブは特殊召喚士に決まりで!」
ジョブを特殊召喚士に決定し、ついでに種族を人族に決定。特殊召喚士の初期HPは40でスキルは使役、命令、特殊召喚の3つで自由に決められる枠が2つ。人族の補正効果は体力1.1倍らしい。人族にした理由は単純に翼が種族を選ぶのに悩むのがめんどくさかったからである。
「なるほど、スキルの強いやつほどスキル枠を多く使うわけね。攻撃は召喚したやつに任せるから、金策用のスキルとか、素直に攻撃魔法とかがいいんだろうか」
「ゲーム内でのスキル獲得はローグライト形式である程度方向性を決められるみたいだからなあ。スキルをランダムに決めるチャンスは実質ここで最後なのでは?」
翼はスキル枠2枠をスキルガチャにぶち込んで回す。結局人間はランダムがお好きなのだ。ガチャでは後戻りができないかわりに通常のスキル選択では選べないレアなスキルが出現することがある。
「でたのは「縛り」ってスキルか。普通に通常選択で選べるやつじゃんか」
そう簡単にはいかないよなと翼は肩を落としながらも納得する。「縛り」の効果はスキルをパッシブ化する際に筋力、魔力、敏捷の中から1つを選んで1.4倍にするかわりに何かしらの縛りを設けさせられるものである。
「あれ、これでもしかしてキャラメイク終わり?」
「はい、これで世界へ降り立つ準備が完了しました。それでは行きましょうか救うべき世界へ」
少女はたおやかな動作で翼に手を差し伸べた。
そして翼……いや、ウィンは少女の手を取りこのリミットデットの世界に踏み込んだのであった。




