やめてよね!誰も米軍に勝てるわけないだろ! ~悪役令嬢の使用人ですが米軍襲来がほぼ確定しました。バッドエンド回避のため奔走します~
悪役令嬢モノを見てふと思いついた一発ネタです
(あっ…終わった)
たった今、二度目の死がほぼ確定した。目の前に召喚された女子高生とその隣のアメリカ人女性を見て、俺は将来に絶望した。俺の名前はユージン。日本人の転生者でこの世界では大貴族の使用人を務めている。
(どうすんだよこれ…)
そう言える理由は、この世界が少し特殊なルートのある悪役令嬢モノの世界で、俺はその特殊ルートを引いてしまったからだ。この世界は、ネット小説やWEB漫画でよく見る、悪役令嬢モノのテンプレを基に作られた、恋愛と戦闘のシミュレーションゲームの世界だ。面白かったので前世ではしょっちゅうプレイしていた。プレイヤーが動かすヒロインは増田美鈴と言う日本人の女子高校生で、彼女はある日、学校内を一人で移動中に突然召喚に巻き込まれる。召喚先のマウントメナン王国で美鈴は大聖女様と呼ばれ、膨大な魔力を持ち、魔族の脅威から王国ひいては人類を救う救世主だと突然伝えられる。
プレイヤーは美鈴を動かし、攻略対象を攻略したり、クエストや演習をこなしてレベリングしてモンスターを倒したりして、ストーリーを進めていく。ゲームの中で美鈴は、この王国のエドワード第一王子や未来の宰相セシル、未来の騎士団長ベルフォードなど煌びやかな攻略対象と共に学園生活を送る。その中でモンスターを倒し、攻略対象の好感度を上げて困難を乗り越え、エンディングでは結ばれるのだ。大体のルートはこんな展開だ。しかしエドワード王子には婚約者がおられる。もし王子のルートを選択する場合、婚約者はヒロインの障害として、所謂悪役令嬢として立ちはだかる。もし攻略に成功すれば婚約者との婚約は破棄され、ヒロインと結ばれる。ぶっちゃけ、ふざけた展開だと思う。安易に王家と上級貴族との婚約を破棄すんじゃねえと言いたいが、大聖女と言うのはそれが許されるほどの権威と地位を持つのだ。そのエドワード王子の婚約者の方こそ、いま俺の隣におられるステュアート公爵家のご令嬢たるメアリ・スチュアート様なのだ。傲慢で気性がやや激し目、口調はキツいが階級に見合う矜持があり、エドワード王子が好きで殿下との婚約を、そしてともに将来の王国、ひいつは人類社会を担う事を楽しみにしている誇り高きご令嬢だ。今日も一段と麗しい。ゲームでは口下手で溝を作りやすく友達があまりいなくて寂しさを覚えており、王子との結婚に縋っていたが、この世界では俺が幼い時からいたからなのか安定して落ち着いているように見える。
「ねえユージン…あの方たちが…?」
「ええ。聖女ミレーとコールマン先生です」
このようにエドワード王子ルートは、他のルートと違う困難がある。だが俺が恐れる特殊ルートは違う。攻略も結婚もへったくれもない。なにせ、5~6年でこの世界が滅茶苦茶になるのだ。
(米軍ルート…!米軍ルートじゃねえか…!あのお姉さん…!美鈴と巻き添えで召喚されたコールマン先生じゃねえか…!!)
召喚儀式の場ゆえに取り乱すことなどできないが、俺の心は緊張やら恐怖やらで荒れていた。なにせ現実世界から来た米軍によって、あの世界最強の軍隊が襲来してこの世界をめちゃくちゃにするのだ。さきほど召喚されたのはヒロインだけじゃない。横にいて美鈴を守るように体を寄せているのは、アメリカ人で彼女のクラスの英語教師のクラウディア・ヘンダーソン・コールマン先生だ。
「こ…ここは?」
「ミレー、大丈夫ですか?」
見間違いでも聞き間違いでもなかった。増田美鈴とコールマン先生だ。実はこのゲーム、召喚前の行動ルート選択があるのだ。美鈴は英語が得意でなく補習を度々受けているという設定があり、召喚前に休日の午後に教室で先生と二人きりの補習を受けるシナリオを選択すると、先生も召喚に巻き込まれてこのルートが開かれるのである。ちなみにこの特殊ルートでも攻略対象を選ぶことが出来る。このルートではコールマン先生が突然のことにテンパっている美鈴を落ち着かせ、攻略対象と美鈴との間を取り持つ。コールマン先生の存在によって、美鈴は他のルートよりも早く王国やこの世界に馴染み、先生が良い相談役として助言して、攻略対象といい関係を築いていた。コールマン先生自身も聖女の先生として名誉ある地位と好待遇を与えられており、全ては順調に見えた。…コールマン先生が拉致された日本人とアメリカ人を見つけるまでは。
きっかけはコールマン先生が王都内を散策していた時だ。道を間違え貧民街に入った時、彼女はアメリカ人や日本人と思しき人間を見つける。そうした人たちと接触して話を聞くと、実は彼らは本当に日本人やアメリカ人で、この王国に拉致されたという。
衝撃を受けたコールマン先生は美鈴に報告し、美鈴は攻略対象にこのことを訴える。しかし攻略対象達は疑問に感じず、寧ろ王国のために役立っていると当たり前のようにのたまうのだ。
「おお!この魔力はまさに大聖女に相応しい!」
エドワード王子が惚れた顔して声を張り上げている。あぁ、これは美玲に惚れたな。婚約者を置き去りにしやがって…。だがエドワード王子はこんな人間なのだ。都合が悪ければ切り捨てるきらいがある。拉致した理由も王国のためだと言うのだ。何でも王国はこれまで目ぼしい人間に目をつけ、その人を召喚魔法で強制的に拉致しては働かせていたのである。そして働けなくなったりすると放逐していたというのだ。それを正しいことであるかのように話し、同じ人間だと思ってもいない姿勢に美鈴はまたも衝撃を受けて愛情が冷めてしまう。それどころか部屋に戻って吐いてしまうのだ。そしてこの国が、日本やアメリカのような西側先進国とは全く異なる未開な国家であることを直感的に悟り、日本への帰還を強く望むのである。
「ユージン…」
「ええ。行きましょう。メアリ様」
皮肉にも、悪役令嬢として語られていたメアリ様のスチュアート公爵領が、拉致された日本人やアメリカ人を保護し、召使として雇ったり職を斡旋して最低限以上の生活を保障してくれていたのである。俺もそうして召喚魔法で拉致されたが、公爵家に保護され使用人として働かせてもらっている。俺の呼び名のユージンも、元の名前が加藤裕二から取っている。そうしたことができるのも、公爵領が豊かで経済的に余裕があり、色んな種族が共存する政治的にも比較的自由な土地柄だったからである。しかし、王家がスチュアート公爵家を妬んで冷遇したり粗末に扱った上に、拉致の罪を擦り付けて評判を貶したのだ。これを機に王国内の政治バランスが崩れ他の貴族達も同調し、公爵様もメアリ様も王国内で孤立していく。
美鈴もコールマン先生も最初はそれを信じられず、スチュアート公爵やメアリ様に確認しようとしたが、すでにこの時、メアリ様との仲は険悪になっており、メアリ様は王子に拒絶され続け美鈴との付き合いを目の前で見せられたストレスから疑心暗鬼のために面会を拒否された。特殊ルートにおいて、メアリ様との関係悪化はどの攻略対象を選んでも避けられない。そして同時に見張りを置かれ行動を制限され軟禁状態にされた上、スチュアート公爵家や公爵家とつながりのある家を悪く言う情報が入ってくるのである。美鈴も先生もスチュアート公爵家の無実を信じながらも、拉致された日米両国民の保護もしくは帰還が出来るように行動していく。そして襲撃の1年前に、アメリカ軍の先遣隊を発見した美鈴と先生は交渉しつつ、スチュアート公爵家とも話し合おうとするのだ。しかしこの二人の行動はバレてしまい、二人はより厳重な監視下に置かれる。こうして何もできないまま米軍襲来の日を迎え、最終的に二人は米軍に救助される。帰りの輸送機の窓から、あたり一面の焼野原になった王国が見え、メアリ様をはじめステュアート公爵家の方々もまた死んだことを察し二人は涙を流すのだった。
また、他のルートでは語られることが無い元の世界の情勢が少しずつ明かされる。まず日米両国にとって、自国民の拉致が重大な問題となっていること、日本で異世界転生ものが流行りだした時から問題になりだしたことが語られる。当然ながら日米両国は調査しており、現場で確認された数少ない証拠から、北朝鮮による拉致ではなく異世界転生の可能性を推察していた。しかし実際に時空の壁を超え、移転先の世界を特定する方法に見当が付いてないため二の足を踏んでいた。そんな中で起こった学校での召喚が事態を一変させた。公式からの情報によれば、この召喚は日米両国が観測網を張り巡らせていた都市部で中で起きた、現象としてはそこそこ規模のある召喚だったとのことだ。
「美鈴に目を付けた王国から、転移魔法で死者が日本に転移していた。彼らは一般市民に紛れながら、美鈴をストーカーしていた。美鈴だけを密かに召喚できるタイミングを伺っていたのである。しかし、家では家族と一緒に、通学中も学友と一緒で、一人になることがなかなか無かった。焦っていた使者は、仲間から断片的に聞いていた情報を基に、休日の昼間だからと周りの確認を怠り、コールマン教師を巻き込んで召喚したのである。しかし彼は気が付いていなかった。近くで非番の在日米軍軍人が見て録画していたことに」
「この時に得られた観測データが、時空を超える方法や転移先の特定方法を見つける手がかりとなった。二人を召喚する大きな魔法だったために、充分な観測データが集まってしまった。この日からおよそ4年後に、アメリカ軍は移転装置と異世界特定装置の実用化に成功し、そこから2年後に奪還作戦を成功させたのである」
これは公式攻略本に記載されていた文章の引用だ。また、コールマン先生の父親は知日派のフレデリック・コールマン連邦上院議員であり政治面で日米共同の奪還作戦を後押ししていたのだ。先生が召喚されていなければ、奪還作戦はなかっただろう。
そうして米軍はこの世界に乗り込む訳だが、異世界でも米軍は最強だった。奇襲で基地を制圧して国内を空爆していき、首都へ乗り込んで美鈴と先生を奪還した。その後は、勢いのまま魔族の領域に踏み込んではあらゆる魔法やモンスターを難なく蹴散らしていった。どんな魔法も火力には勝てないとでも見せつけるかのように、文字通り火の海にしていった。あれほど苦労したラスボスの魔王でさえ米軍には全く叶わなかった。まさしく鎧袖一触だ。その様を最初見た時俺は変な笑いがこみ上げて爆笑した。このルートのエンディングでは、美鈴も先生も無事に元の世界に戻ることができる。二人が家族と感動の再会を果たし、最後は風に靡く日章旗と星条旗の映像と共にアメリカ国歌が、第二次世界大戦中にプロパガンダ用に収録された、壮麗なオーケストラを伴い高名なテノール歌手が歌うバージョンの国歌が流れて終わる。このルートは、全編を通してUSAコールが鳴り響く、デウスエクスマキナめいたルートなのだ。
そんな米軍が、リアルチートなんて言われる世界最強の軍隊が、あと5~6年するとこの世界を蹂躙するのだ。見ているだけなら面白いが、お世話になった公爵領を焼かれたらたまったものではない。しかもこのルートのエピローグでは、王国全体が米軍占領下に置かれ新政府が発足する。今までの統治機構を破壊して新しく一から作り直すのである。今まで王政でやってきた国にいきなり民主共和制を持ち込んだ所で上手く行くはずがない。しかもエピローグでは、背景に拉致や強制労働などの罪でアメリカの刑務所に連行される王侯貴族の姿が映っており、この世界に支配者無き無秩序な社会が到来することを予感させる終わり方になる。ヒロインと先生にとってはハッピーエンドでも、現地に生きる人間からすればバッドエンドだ。こんなことは絶対に避けねばなるまい。…まずはあの二人をこちらで保護せねばなるまい。そしてせめて、このステュアート公爵領だけは戦場にならないように、上手く立ち回る必要がある。…まずはコンラッド・ステュアート公爵閣下に話を通さねばならないな。メアリ様とともに2人の前に立つ。
「ようこそ、マウントメナン王国へ」
これから先を思い浮かび、俺は笑顔を浮かべつつ心の中でため息をついた。




