自転車のお家
私のお家の横にはね、小さな林と公園があるんだ。ある日、そこに一台の自転車が置いてあったの。だれのものか分からなくて、ずっとそのまま。持ち主はぜんぜん来なくて、ただ静かに置かれていたんだよ。
しばらくすると、ツタがぐんぐん伸びてきて、自転車を半分飲み込んじゃった。木とくっついて、一緒になっちゃったみたい。カゴと後ろのタイヤだけが、ちょっと見えるくらい。まるで森のお友だちになったみたいだった。
ある年の初夏、ツバメがそのカゴに巣を作ったんだ。小さなヒナがぴいぴい鳴いてて、私と友達は毎日見に行った。親に相談して、ヘビが来ないように、とげとげのヘビよけをつけてもらったの。夏の光の中で、ツバメは元気に育って、秋になる前に空へ飛んでいった。
秋になって風が冷たくなったころ、後ろのタイヤにカマキリが卵を産んでた。白い泡みたいな卵で、未来がぎゅっとつまってる感じがした。
冬になるとツタが枯れて、自転車の姿がちょっと見えやすくなった。サドルにはふかふかの草がいっぱい詰まってて、その中で小さなネズミが丸くなって眠ってた。友達と覗いた私は、びっくりして、でもそっと元に戻した。寒い冬をがんばって過ごすためのお家だったんだね。
春になると、ネズミはいなくなってた。そのかわりに、サドルの奥にヤモリの卵が並んでたんだ。小さな白い宝石みたいで、見たとき胸がどきどきした。
そして初夏、ツバメが戻ってきた。去年と同じカゴに巣を作って、またヒナを育て始めたんだ。
気がついたら、自転車はもうただの乗り物じゃなくなってた。ツタに隠れて、鳥や虫や小さな生き物たちの居場所になって、季節ごとに違う命を迎えていたんだよ。
私はそれを「自転車のお家」って呼ぶことにした。
冬の光に照らされると、枯れたツタの間から鉄のきらめきが見えて、森の中の秘密の宝物みたいに見えるんだ。
自転車はもう走れない。でもね、そこにはたくさんの物語が生まれてる。
春も夏も秋も冬も、命が集まるきらきらしたお家。
次はどんな生き物のお家になるのかな。
読んでくださってありがとうございます。
子どものころ、身近なものが「秘密の宝物」に見えたことはありませんか?
もしよかったら、教えてくださいね。




