2、極寒の秘密の共有
この膠着期間中、アレッサンドロが最も苦しんだのは、コイヌール公爵の用心深い性格でも、敵との戦闘でもなかった。それは極度の低温だった。
プラティコドン騎士団の騎士たちは、鋼鉄の鎧を脱ぎ捨てなくてはならなかった。騎士団隷下の歩兵部隊の兵士たちは寒さに対応できなかった。防寒着も足りず、暖房のない場所では兵士たちは動けなくなっていた。凍傷で戦線を離れるものも多い。アレッサンドロの心も、この寒さと失敗の重圧で凍りついていた。
「コイヌール公爵の真意を探るどころか、このままでは帝国軍自体が自然に押しつぶされてしまう。皇帝陛下の期待に応えられなければ、帝国での私の立場はない。立場がないどころか、粛清されてしまう」
アレッサンドロの脳裏に将軍フズリナ公爵の姿が浮かんだ。彼は戦争が始まる前に皇帝によって粛清されていた。彼と一緒に多くの指揮官たちが処刑され、命は助かったとしても軍を追われた。アレッサンドロも将軍の門下の一人だったが、危うく処分を免れ、今は皇帝の駒として働いている。
夜、燃える暖炉の前で、アレッサンドロは珍しく弱音を吐いた。ヴィオレッタは、普段の冷静さを捨て、彼の肩にそっと手を置いた。
「弱音を吐くのも、業務のうちですよ、アレッサンドロ様。この地獄のような環境で、完璧な司令官などいません」
彼女は、アレッサンドロの震える手に、自分の熱を込めた。普段は業務連絡でしか触れ合わない二人の手が、暖炉の光の中で重なり合った。
「貴様は……この状況で、なぜそれほど冷静でいられる」
「ふふ。それは、私たちの夫婦の契約が、私を「貴方のもの」として守ってくれるからです。偽りの関係ですが、私は貴方に命を預けている。貴方は私を、私は貴方を。これが、私たち二人が生き残るために必要なものなのです」
ヴィオレッタの言葉は、アレッサンドロの凍りついた心に、氷を割るような衝撃を与えた。偽りの夫婦という関係の中に、アレッサンドロは初めて、互いの最も深い不安と、お互いへの信頼という「秘密」を共有したと感じた。
大規模な戦闘が停止した代わりに、前線では偵察戦闘が激化した。両軍の偵察部隊が、敵の配置、防御の弱点、そして兵站の状況を探るために、敵陣深くに侵入した。
大公国の偵察部隊は、この戦術に長けていた。彼らは、帝国の偵察部隊を待ち伏せし、捕虜を取ることで、帝国軍の新たな戦術や部隊編成に関する貴重な情報を得た。しかし、帝国軍の中でもアレッサンドロの率いるプラティコドン騎士団だけは、大公国軍に対抗し、時には出し抜くこともあった。




