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第91話 男爵領の現状は

「義体技術もヴァルカランの皆さんやロスヴィータさんに使えそうですし、そっちも進めていきたいですね」


 ロスヴィータの機体について話をしていると、エステルが言う。


「そうだな……。義体か」


 義体……つまりサイバネティック技術だな。幽霊になってしまった面々が宿る身体もそうだし、ゾンビ、スケルトンの面々も人工皮膚で補ってやれば生前と変わらない姿に特殊樹脂で構築することができる。

 そういうサイバネティック医療、再生医療のデータもエステルはデータベースに入れている。俺は改造手術こそ受けていても一応義体に置き換わっている部位はないが、ASF乗りの軍人としては義体や、再生医療の世話になったりというのは他人事ではないしな。エステルとしても積極的に情報収集していた分野なのである。


 こういう義体は呪い対策の魔道具を兼任できる……。余裕が出たら普及させていきたいところだ。魂という形のないもの。人格や記憶を宿す情報体。そう捉えれば、呪いを解いた後、もう一度人としての生を疑似的にやり直すような。そんな運用も出来るかも知れない。


……そういう構想も対ゴファールの問題が解決したらだな。今は戦いへの備えが優先で、リソースをそちらに任せない。




 基地と共に地上の村の開発は続く。急速に拡張する形で家が作られて、通りになって。あっと言う間に村は町の規模にまで広がった。

 本当の拠点は地下にあるわけだが……それでもヴァルカランの面々は家もこれまで朽ちるに任せていて、普通の家に住むというのは暫くなかった事ということで……彼らにとっては普通の家に移住できるというのは喜ばしいことであるらしい。


 それもあって一家で移住してきたりして、地上の町にも住民が増えている。陽光の影響を防ぐ結界が張られたことで、日中でも町は賑やかなものだ。青白く光る幽霊達が通りで井戸端会議していたり、広場ではスケルトンの楽師が楽器を演奏していたりと、住民達にアンデッドが多いことを除けば賑やかで華やかな雰囲気すらあった。


 エルフ達にもこちらに生活の拠点を移している者がいる。主に手工芸や鍛冶仕事といった、ヴァルカランや俺達との技術交流を望んだ者達と、精霊術を使えるので農場の手伝いや魔法の共同研究、魔道具の制作の手伝いに来ている者達だ。


「古代刀剣の製法は現在では失われている部分もあります。ヴァルカラン製の武器がゴファールの武器の性能に劣っているとは思いません」

「そう言ってもらえると自信が湧きますな」


 ヴァルカランの冶金技術と出来上がった剣の仕上がりを見たエデルガルトが言うと、ワイトの鍛冶師が少し照れたように答えていた。

 外の世界を知っていて比較できるのはエデルガルトだけだ。技術的な面でも見たままを話せるから、今のゴファールで鍛冶職人達がどんなことをしているか伝えれば、鍛冶師ならそこから推察をすることも可能だ。


 エデルガルトに専門的な知識が足りずとも、見たままを伝え、聞きかじった話や本で少し読んだ情報をそのまま伝えられる……というわけで、エデルガルトは連日技術職や研究職の面々から話を聞かせて欲しいと頼まれて、中々忙しそうにしていた。


 修復や建造、自走砲の運用訓練であるとか、資源の備蓄、集積も順調に進んでいるということで、俺とエステルは再びソーヤとステラとして、ベルルート男爵領を訪れていた。


 冒険者登録もしているしな。魔物を狩ったという体で素材を売りに行った。スパイボットを沢山送り込んでいるから情報収集はできるのだが、普段からベルルート男爵領内で活動しておけば、いざという時に潜入しての工作もしやすくなるから、時々顔を出して冒険者としての実績を作っておくという感じだ。


 スパイボットだけではできないこともある。破壊工作もそうだし、ライゼス子爵のような人物であれば密かに接触して説得する等と言うのも、誰かがこっちに来て直接活動しないとできないことだからな。


 ベルルート男爵領は――随分人の流入が増えている。郊外にキャンプ地が作られて、兵達が天幕を張って陣地を構築し、日々物資が運び込まれてと、西を攻める準備が着々と整えられているようだ。

 西の森や西の集落までは、ベルルート男爵領の直轄地からはまだ少し距離があるからな。前線基地としては丁度良いのだろう。世間話を聞くとアストラルナイト等はもっと後方の大きな領地に集まりつつあるらしいから、諸々の準備が整えば前に出てくるのだろう。


 兵達を先行して男爵領に送って大軍が駐留できる準備を整えると同時に、ヴァルカランが反応を示さないか様子見している段階なのだろう。

斥候も西の森周辺にちらほらと姿を見せて、巡回している亡霊騎士の姿を遠くから監視している様子を確認している。


 ベルルート男爵領は色々な変化が見られる。兵士達が集まっているのでそれ目当ての行商人が増えているが、住民達はヴァルカランと戦いになるのではないかと不安がっている者も多く、男爵領を離れる者も出た、という話も聞いた。


 それができるのも疎開先に親戚がいるだとか、仕事や生活の当てがあるとか、そういう者達だけだ。男爵領の農民であるとか、店を構えている者は残るしかない。

 兵士達がやってきているせいで店は繁盛していても不安は不安だと、そんな風に顔見知りになった店主は漏らしていた。


 人が増えてきて活気があると言えば聞こえはいいが、雑多な印象だ。兵士という人種はエデルガルトの護衛ならば礼儀作法も行き届いているし、エルフの集落の戦士達やヴァルカランは逆に誇り高い気質が残ったという感じだが、普通はそうではない。


ゴファールも例外ではなく、末端の兵は荒くれ者も多く、人が急速に流入してきた関係で揉め事やトラブルも増えてきている様子だ。傭兵や冒険者も雇い入れて人手を増やしているというのだからさもありなんと言ったところか。ヴィルム神殿の関係者やらも入って来てはいるんだろうがな。


 揉め事に巻き込まれないように動く。顔なじみになった店を巡り、世間話をしながら売買をしたりと、冒険者としての活動実績作りをしていく。肌感としては……まだ戦いになるかならないか先行きが不透明で、軍を結集させて緊張が高まっているという感じだが……段階にそぐわず必要以上に空気がピリついているのは、相手がヴァルカランだという噂があるからか。


 それはそうだな。この規模で軍勢を集結させる準備をしているなら。相手は余程の難敵。辺境に追いやったエルフや獣人、ドワーフが敵ということは考えにくい。そうなれば、相手はヴァルカランか、そうでなければ竜の山脈か……。山脈の向こうにいる魔族も情報が降りて来なければ仮想敵の対象ではあるか。いずれにせよ危険な相手ということになる。噂も錯綜していて敵や今回の作戦が末端に知らされていないのも、王家すらどうすれば解呪がなされるのか、誰を敵と定めればいいのかを明確にできていないからではあるだろう。


 となると、ゴファールの立場に立って考えるなら改めて調査から入る形になるか。軍を集結させているのはもしもの時の備えであり、交渉を行うための示威であり……といったところだ。


 駐屯地の備えも見たが、いざという時に想定される事態に即応できるようにしているのが窺えた。アストラルナイトの整備や食料の備蓄等々、制圧や掃討後の駐留まで含めて、対応幅を広く取れるようにしているようだ。

 もっとも、それはヴァルカランが国土の外、森の外まで行動範囲を広げて回帰してこない、という前提があってのものだ。本当に何の制限もなく外に出てどこにでも回帰されたら実際どうしようもなくなるから、ゴファールとしてはそれを前提にしても仕方がないのだろうが。


 実際のところ、現状の変化は魔道具あってのものだ。エルフの集落とその周囲の森は元々緩衝地帯であり、現状はエルフの支配地であり、エルフとヴァルカランの同盟が成っている以上は魔道具無しでも活動は可能ではあるが、その同盟だって魔道具が前提になっている。


 呪い対策の魔道具無しでの活動は色々デメリットが大きいから、見せ札以上のことは出来ないけれど、そこも誤解させて交渉材料になるなら有効活用させてもらおう。


『ゴファールとの交渉の窓口には、ソーマやライヒルに立ってもらうことになるかしらね』

「エデルガルトは矢面には立たせられないからな。裏切りだと思われてゴファールの国民からの好感度が下がっても困る」


 いずれゴファールの状況を変えることができた時に、エデルガルトが安心して帰還し、動きやすい下地にしておいてやりたい。


 そのエデルガルトについては、ベルルート男爵領では噂にすらなっていない。捜索している部隊がいるのは確かで、そいつらはベルルート男爵領に入ってきてもいるが、秘密裡に動いている。

 乗っ取りの一件は内密に処理したいから、実働部隊にすらエデルガルト捜索の理由を知らせていないのだろう。


 こちらから乗っ取りの話を喧伝するならば話は違ってくるだろうが、大人しく潜伏しているなら裏切り者と名指しして手配されるということもなさそうだ。


「ライヒルさんは……自分達ではゴファールから侮られる、と思っているところがあるようですよ」


 エステルが言う。


「……そうなると、やっぱり交渉の場に立つのは俺になるのか。気は進まないんだがな」

『異界からやってきた勇者で私達との橋渡しができるとなれば、ゴファールにとっても一目置かざるを得ないでしょう。彼らにとって、私達は恐怖の対象であって、信用だとか交渉以前の問題でしょうから』


 その点「勇者」という触れ込みなら話も違ってくるか。

彼らが勇者と認めるかどうかは別として、断絶者と同じ区分、性質を持っていることは確かだしな……。


 街中を歩きながらソフィアとそんな話をしていると、何やら陶器の割れるような音と怒鳴り声が聞こえてきた。


「何か文句でもあるってのか、このガキが!」

「ある。服が汚れたのはそもそもお前達がぶつかってきたせい。私の方こそ、ぶつかられたから落として食べられなくなった」


 何の騒ぎかとそちらを見る。柄の悪い男達と……小柄な――恐らく子供が向かい合っている光景だった。

 既に周囲には足を止めている野次馬がいたが――。

 何が起こったのかと見て見れば、近くの屋台で売っていた串焼きが地面に落ちている。


 それに塗られた魚醤が男達の衣服についたとかで、子供と揉め事になったらしい。


 串焼きを指差しながらその子供は「あなた達が、代わりを持ってきて」と臆した様子もない。


 フードを被っていて顔は分からないが、声変わりしていないか、或いは少女なのか。小柄な体格だ。対する男達は2人組。ガタイがよく、柄が悪い。


 表面だけ見るなら割と取るに足らない揉め事というか。


 冒頭から見ていたわけではないから、どちらの主張に筋が通っているかは分からない。

男達は兵士か冒険者かは分からないが、子供だからだとか、自分達に非があるからと謝るようなタイプには見えない。酒が入っているなら尚更というか。

 串焼きの一本程度で揉め事を起こして得をするような相手ではないが――そういう判断ができるなら最初から食ってかかるようなこともしないか。殴られるまで引き下がりそうにない、というのが普通なんだろうが……さて。

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