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第90話 赤き精霊機

「では、行きましょうか」

「ん。いつでも」


 訓練場の中心に立ったソフィアとルヴィエラは一瞬視線を見合わせた後、腰に吊るしていた剣を抜く。剣。正確には剣の形をした魔道具であり、兵器を起動するための鍵だ。


 湖水が渦を巻くようにソフィアの周囲に流れ込み、フレーム、ケーブル、回路、関節部、外装を再現するように形成されていく。


 外装が完成すると、赤い結晶を外装に持つ機動兵器がそこに鎮座していた。ユグドライアが妖精を彷彿とさせるデザインなら、こちらはドレスアーマーを纏った騎士を彷彿とさせるデザインだった。本体は流線形で華奢な印象がある割に、腰部のスカート状のアーマーが大きい。両脇に浮遊するユニットも控えさせている。浮遊ユニットは本体に比してそれなりに大型で、背面のブースターのようでもあり、ショルダーアーマーのようでもあるが……これは攻撃、防御、機動性のいずれにも駆使できるという多目的なものだ。


 流体制御プログラムと精霊騎士、守護精霊の力を用い、ルヴィエラの湖水を固めて機体そのものとして利用する。エステルの組み上げた流体制御プログラムにより、ソフィアとルヴィエラは呼び出した湖水に意識や力を割かずとも機動兵器としての形を維持できる。


 更に……ユグドライア共々、タイプ・カテドラルの信仰システムを解析している。信仰の代わりにヴァルカラン王家、王国に対する忠誠心、精霊や仲間への感謝、友情、親愛といったものを力として汲み上げられるようにすることで、ソフィア達の魔力消費は抑えられる……という塩梅だ。セキュリティも完備しているのでヴィルム神のように纏めて呪いを受けるということもない。


 後は思考入力によって動きを制御する。周囲の情報は仮想現実――VR空間にも使われている感覚再現インターフェースによって拾い、人間の感覚で拾い切れない部分、或いは気が回っていない部分はレーダーと拡張現実――ARによる計器類の表示やアシストシステムで補うというわけだ。


 直感的に自分の身体で戦う時の感覚で動き、視覚や聴覚等の感覚的な部分を索敵、危機察知にそのまま活用できる。察知から反応。反応から操作。操作から機体に動きが反映されるまでのタイムラグを削る事ができて、違和感もない。


 ちなみにASFのパイロットの場合は……そこに反射神経や脳の処理速度を上昇させるクロックアップブーストや、急激な加減速に耐え得るための肉体強化、ナノマシンによる弾道予測や攻撃予測など、ハード面、ソフト面での底上げの改造を行っている。

 ここまでして金属生命体群との戦いはようやくと言う感じだったからな……。


 ともあれ、形成を終えたソフィアとルヴィエラが剣を抜き放ち、機体の操作感覚を確かめるような動きを見せる。剣舞を見せるように二度、三度と赤い剣を振るったかと思うと、宙返りをするように弧を描く跳躍を見せた。2つの浮遊ユニットは本体と相対座標を維持したまま、一個の個体のような挙動でタイムラグなく追随している。指示をすれば個別にも動くが、基本的には本体と共に動く仕様だ。


『いいわね。生身で動いているのと、かなり近い感覚だわ』


 ソフィアの声が響く。


「かなり、か。真祖の反応速度だともう少し遊びがなくてもいいのかもな」

「それこそ、マスターと同水準までレスポンスを上げても良さそうですね。データは取っているので、後でシステム回りを調整しておきます」


 同水準というと、クロックアップ無しでのASFの機体反応のレベルだな。

 思考入力型で感覚的に操作できる機体であるために、本人の技量を活かせるような機体構成が望ましい。少ない訓練で最も結果を出せるからだ。その特性を更に活かすのなら、ソフィアの身体能力に機体の水準を合わせた方が良いだろう。ユグドライアより格闘戦に寄った機体だから機体の反応速度は重要だしな。


 ちなみにASFはクロックアップに連動して機体のレスポンスも自動調整される。周囲のものがスローモーションに見えるようになるだけではなく、機体そのものの反応速度が上がるので感覚に追随してきてくれるわけだ。パイロットにかかる負担を除けば有用な技術であることに間違いはない。


『ソフィア様は、機体の名前は決めたんですか?』


 ソフィアの機体から少し離れたところでユグドライアに乗り込み、機体の動作テストをしていたシルティナがソフィアに問う。


『そうね……。んー……。バルヴィリアスなんてどうかしらね』

『ヴァルカラン……とルヴィア湖を合わせた感じ?』

『ええ。ルヴィエラが気に入るなら、だけど』

『気に……入った。私の名前が入ってて、いい感じ』


 なら良かったわと、そんな会話をしているソフィアとルヴィエラである。ユグドライアとバルヴィリアスか。


『後は――機体の種類……分類の名前を決めるのだったわよね』

「ああ。どうするかな……」


 一部技術を参考にしている部分はあるが機体の種類としてはアストラルナイトではない。設計思想はストラトス・フレームに近いが、システム回りは魔法で組み上げられているからな。運用もストラトス・フレームとは違って、対アストラルナイトを想定している。


「……エレメント・フレームかな。精霊の守護している機体でなければマギア・フレームあたりが良いかなとは思ったけれど、あくまで精霊の守護あっての機体だからな」


 アストラルナイトよりも精霊ありきというリスペクトを示したいところである。


『エレメント・フレーム……。いいと思うわ』

『森の木から作られているし、乗り心地が良い気がするものね』

『私も異存ない』


 メイアとフラリア、それからルヴィエラが応じる。


「乗り心地がいいのは、エルフの森の樹が材料になっているのもあるし、メイアとフラリアがエルフ達の信仰対象でもあるからだな。タイプ・カテドラルのシステムを参考にしているから……それが居心地の良さに通じているのかも知れない」


 機体に乗って戦場に立てなくとも、集落のエルフ達やヴァルカランの皆の応援や想いは無駄にならない。こちらの保有しているフレームはゴファールのアストラルナイトほどの頭数をまだ用意できていないからな。物量で潰されないよう、性能を上げて、その他の備えで何とかしないといけない。


 バルヴィリアスをテストする傍らで、シルティナもユグドライアの背面ユニットを広げて浮遊するように移動しながら射撃する動きを試していた。寄られた場合に引き撃ちして距離を取り、再度の射撃戦にするための動きだな。

 妖精の羽を思わせる透明な背面ユニットが光の粒子を散らしながら前後左右、自在に動く。重力や慣性を感じさせない、ふわふわとした捉えどころのない動きだ。

 加減速が自在で、最高速も中々のものだか。シルティナの練度によっては機動射撃戦闘もこなせるだろうが、今のところは距離をとりながらの射撃戦に使っておくのが安全だろう。


 空中戦がこなせるのはソフィアの駆るバルヴィリアスもである。背面ユニットの側面から更に巨大な蝙蝠の翼が広がったかと思うとそれをはためかせて空へと舞い上がる。

 バルヴィリアスは真祖の変身能力と、それに伴う能力を反映させられる。巨大な人型で、機体自体が湖水で作られている精霊器であるが故だ。ああやって背面ユニットに割り振られている部分もあるが、別のバリエーションもある。流体制御によって機体自体が湖水で形成されているが故の特性だな。


 と言っても装甲が脆い等と言うことはない。ソフィアとルヴィエラに統制された湖水は水とは思えない超硬度にもなれば、剛性、弾性を兼ね備え、形や性質を柔軟に変化させられるからだ。そういう液体の変幻自在さを本体と背面ユニットで十全に活かすことができるのがバルヴィリアスというわけだな。


「ロスヴィータにも機体を預けたいんだが」

「私に、ですか?」


 傍らに浮遊する霊魂――ロスヴィータが明滅しながら首を傾げる。


「そう。自走砲があるだろ? あれの人員をどうするか考えていたんだ。有人でも動かせるけれど、人員を乗せてアストラルナイトの相手をするのはそれなりにリスクがあったからな」


 言うまでもなく乗員は危険であるし、ヴァルカランの面々が乗るにしても回帰の際に魔道具を喪失してしまうからすぐにその場で回帰して戦線復帰とはいかない。

 俺と契約して魔法的なパスが繋がっているロスヴィータならば、それをネットワーク代わりにエステルの外部操作権限を扱える。


 無人機にすることも不可能ではないが……人工知能が自己増殖できないようその辺の制限は厳しいものになっている。特に高度なものは。

 自律行動する兵器に積む人工知能ならば安全性、信頼性の高く、しかしできるだけ性能の良いものを用意したいが、未知数な変化が多くて全容を把握し切れていない魔法をそこに組み込むのは少しリスクがある。特に、こっちの世界じゃエステルは電脳の精霊に変化してしまったしな。


 ロスヴィータは多人数で戦う部隊指揮の経験もあるらしい。鉄巨人の身体を持っていた時も、周囲の魔物の動きを見て侵入者を追い込むような役割を担っていたからな。

 大きなサイズの、自分以外の身体を駆るのに慣れているし、戦況を見て柔軟に砲台を動かして運用することもできるだろう、という判断だ。ネットワークを使えば俺とリアルタイムで離れた位置から戦況を共有することもできる。


 複数の無人機を統率された意志の元に動かせるならばそれは強力な戦力になる。バルヴィリアスが格闘機、ユグドライアが砲撃機なら、ロスヴィータに預けたい機体は戦場で無人機の指揮統制を担う情報処理能力を持った機体であることを前提に構成するつもりであるが……。


 アルタイルとエステルがその役割を担う事はできるが、そのために処理能力を使ってしまうのもな。いざという時にアルタイルのフルスペックを発揮しながらも無人機の動きは維持できるような、そんな環境を構築しておきたい。


 精霊器ではないから直接的な戦闘能力ではバルヴィリアスやユグドライアには劣るかも知れないが、その点、ロスヴィータに機体を任せれば、仮に撃破されてもロスヴィータの魂は守れる。物理的に破壊できないから普通に機体を破壊する程度ではパイロットのダメージにならず、魔法的手段での霊魂へのダメージは俺と契約しているから呼び寄せることで回避できる。後は――機動性を上げることもできるか。何せ、高機動機にしてもロスヴィータには肉体的負担が生じない。


 そんな考えをロスヴィータに伝えると、ロスヴィータは真剣な表情で頷いた。


「そのような重要な機体を預けて頂けるのですか?」

「ああ。ソフィアと戦っていた時の判断力や勝負勘も結構なものだったしな」

「信頼性という意味でも、ソーマと契約しているから重要な機体を預けても安心よね」


 ソフィアも頷く。エステルのネットワークもあるからハッキング系の攻撃――呪術回りへの対策も取れるしな。

 情報処理に特化した機体ならばレーザードローンを搭載した機体構成にする方向性もありだな。自走砲のコントロールシステムをドローンのコントロールに流用できる。色んな方向性が考えられるから、ロスヴィータ個人の適性を見ながら考えるのがいいだろう。

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― 新着の感想 ―
極まったSFに魔法が合わさると本当に無法な強さになりますね。こうなると怖いのは物量差くらいですか・・・あ、でもヴァルカランの兵士たちが残機無限だからある意味こっちの方が物量も優っている・・・? これソ…
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