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第8話 エルフの戦士達

 シルティナ達と共に、彼女の周囲に舞う光の粒――エレメア・ディエの案内を受けながら森を進んでいく。ドローンも森の上空を追随してきているが――動物も多いようだ。熱源反応はそこかしこにある。エレメア・ディエ達も何らかの手段でそれを感知してシルティナに伝えているらしく、動物の反応を時々回避するように道を迂回したりしながら先導して進んでいってくれた。


 結構深い森だ。3時間弱ほど森の奥に入って曲がったり立ち止まったりしながら進んだ頃合いだろうか。ドローンからいくつかの熱源反応を発見していた。そこに向かってシルティナ達は進んでいるようで――。

 ……前方の反応が、こちらに気付いたようで動きが変わる。人型。成人の男サイズの熱源反応が複数。

真っ直ぐにこちらへ向かってきたが、少し手前で足を止める。俺とエステルの存在を確認したのだろう。森の奥深くの暗がりも、ナノマシンをインストールされた俺の目は見通すことができる。

 ……弓や剣で武装したエルフの男達だ。こちらを見ながら何事か話し合っている様子だったが、頷くと武器を構えて散開。樹上に登って矢を構えたり、左右に分かれて慎重に距離を詰めてくる。


 俺を誘拐犯の仲間と思ったとしても不思議はない、か。あの男達と、種族的な外見の特徴は変わらないのだし。服装はまるで違うが、余所者は余所者だろう。


 そして――森の奥から、恐らく誰何(すいか)か警告か、男の声がした。


 シルティナが足を止め、何事か返事をする。シルティナの口から「エレメア・スィラ」という単語も出ていたから、精霊と一緒に自分達を助けてくれたというようなことを伝えているのだろう。

 そう聞かされた男達の反応は分かりやすいものだった。

 武器を下ろしつつ顔を見合わせたり、驚きつつも何だか拍子抜けした、安心した、という印象だ。


 シルティナは振り返り、俺達に、いや、森の奥にいる彼らに対しても、だろうか。笑顔で何事か伝えようと、大きく明るい声色で言葉を紡ぐ。


 敵じゃない。大丈夫。


 多分、そんな意味合いだ。

 既に俺達としては相手の正体は分かっている。俺とエステルが揃って笑って頷くと、シルティナは伝わったことが嬉しいというように何度も首を縦に振っていた。


 シルティナは大きく手を振って前に出る。アリアとノーラも前に出て、一生懸命身振り手振りを交えながら言葉を発し、危険はないと前方にいる彼らに伝えているようだ。


 俺達としてもシルティナ達に対して害意はないという事を示すように、一歩下がって出方を待つ。


 すると、森の奥から茂みをかき分ける音を立てて、何人かの男達が姿を見せた。目立たない色合いの外套を纏ったエルフ達だ。


 アリアとノーラもその姿を認めると、ぱっと明るい笑顔を見せて駆けていく。


 どうやら、顔見知りらしい。安心したような笑顔を見せると、俺達のことを伝えてくれているようだった。その中で再びエレメア・スィラという単語が出ると、エステルに一瞬視線が集まる。やはり、彼らにとっては特別な意味があるようだが。


 そうやってシルティナ達から話を聞いていた男達であったが、その話が一通り終わると一人のエルフの男がフードを下ろして顔を見せる。長い金色の髪。細面。これこそエルフというような姿をしていて、大小のエレメア・ディエを複数引き連れている。


 こちらを見ながら、何事か言葉を発するエルフの男。


「すまないな。言葉が分からないんだ」


 そう答える。


「……そのようだな。これで我が意は通じている、だろうか? 私の名は、ハインという。この森に住まうエルフの氏族、ヴァルネスの戦士長だ」


 エルフの男が口を開く。少し、驚いた。エルフ達の言葉と、俺達の言葉が重なるように聞こえたからだ。


「……ソーマだ。ソーマ=ミナト」

「エステルです」


 少し驚きつつ答えるとエステルも続く。


「ソーマ殿とエステル殿だな。まずは、同胞を助けてくれたことに一族を代表し、礼を言う」


 ハインが言うと、他のエルフ達も感謝を示すように目を閉じ、エルフ式の敬礼、だろうか。胸のあたりに片手を置く仕草を見せた。


「……こっちの言葉も通じるという事でいいのかな?」

「ああ。精霊との交信術の一種だ。精霊の力を借り、風に意思を込めて運んでもらうことで言葉の通じぬ相手に自らの意思を伝えることができるようになる。貴殿らの意思も我らに通じる」

「それはまた……」


 ……アンデッドや魔法が存在する世界なのだから、そういうのもあるのか。してみると、未知の因子は魔力、とでも言い換えた方が適当かも知れない。魔力、魔法。これに意思や思考が伝播して影響を与えるのは俺達も確認している。

 精霊達に意思を伝達する方法を応用し、言葉に魔力を介して意思を乗せる……そんな理屈だろうか。


 先程のハインの発したエルフという単語には別の響きが重なって聞こえた。現地語での表現は違うが、翻訳されているから俺達の理解に応じてそう聞こえているということだろう。


「というか、高位精霊から加護を受けている貴殿が、交信術の応用程度で驚いているというのが理解できないのだが。人間族というのはそのように精霊達と接しているものなのか?」


 高位精霊という言葉と、エレメア・スィラという言葉が重なって聞こえた。


「遠いところから、思わぬ事故でこの近くに流されてきたんだ。この辺に住んでいる人間達の常識は勿論、あなた達の常識も全く分からない。そもそも、エステルはあなた達から見て精霊、なのか?」

「……その気配は感じている。何の精霊かは皆目見当もつかないが」

『私が精霊、ですか。勘違いではなく? 次元を超えた影響ですかね?』


 ハインの言葉に、エステルは脳内で俺だけに言葉を伝えてくる。


『かもな……。もっと検証してみないと何とも言えないが……』


 エステルに答えつつ、ハインに応じる。


「俺やエステルについては一先ず置いておいて……。さっき言った通り、事故でここに流れてきたんだ。常識も、言葉も、この辺の事情も知らないまま投げ出されたから、少し困っている。礼代わりに色々教えてもらえると助かるんだが」

「情報を欲している、と?」

「最低限の言葉と文字、人里の場所なんかを教えてくれるだけでもいい。それができれば、あなた方に迷惑をかけずに自分達で情報収集もできる。勿論、言葉を覚えるまでの生活の面倒は自分で見られる。食べ物や寝床でも面倒はかけない」


 サバイバルキットが収納されたバックパックを見ながらそう言うと、ハインは目を閉じて眉根を寄せ、思案した後で言った。


「……ヴァルカランの亡者を相手に、シルティナ達を助けるために戦ってくれた御仁だ。礼だけ言って投げ出すような恩知らずな真似をしては、氏族が恥をかくというもの。客人として遇するよう長老達に進言してみよう。説得が上手くいかずとも、言葉と文字を教えるぐらいなら、この身一つでも請け負える」


 ハインはそんな言葉を口にした。

 ヴァルカランの亡者。それがあのアンデッド達の名称か。色々と気になることが増えていくな。


「ハイン殿……人間族を里に招くと……?」


 心配するように言う若いエルフの声。


「高位精霊が信用する相手で、シルティナ達の話から人柄的も信用がおけそうだと判断した。事故でこの地に流れてきたというのなら……そもそも近くに住む人間族とは無関係ということだろう」


 話を聞いている感じ、人間達との関係は悪そうだな。シルティナ達を捕まえていたことからも分かるというか、エルフ達を捕まえて売り飛ばす算段だったか。


 俺は現時点で敵でも味方でもない。ヴァルカランの亡者というのが彼らにとってどれほどの脅威かを俺は知らないが、近隣に住む人間とは縁もゆかりもなく、かつ戦える人物であるなら、自分達の陣営に引き込むか、繋がりを作って心情的に敵対しないようにしておきたい……という考えでも不思議ではないかな。


 例えば、ここで俺と険悪になったら、俺が人間族と合流した後、俺がこの森の情報を握ったままエルフの敵になってしまう可能性だって考えられる。俺にそのつもりはないが、エルフ達の視点ではそうだろう。


 エルフ達の習俗、文化であるとか、人間達との確執、積み重ねてきた歴史に関して俺は何も知らない。こちらとしては……ここで彼らと友好関係を築いておくのは願ってもないのだがな。


 ここはアルタイルを修復している場所からそこまで遠く離れていないし、シルティナ達を助けた経緯もあって、良好な関係性を築きやすい下地もある。

 彼らの言う人間族が種族的な見た目が近いと言っても、そもそも別の次元からやってきた俺とは何も関係がない者達だし、余所者に友好的とは限らないのだから。


「そうだな。俺はあなた達のことも、彼らのことも何も知らない。服装あたりからして、出自が違うという証明になるだろうか」

「確かに……見かけない服装だな」

「ソーマさん、と精霊様は、ヴァルカランの亡者の群れ相手に一歩も退かずに飛び込んできてくれました」


 シルティナがそう言及すると、アリアとノーラも「お兄さんも精霊さまも優しかった」「アリア達のこと、まもってくれたもん」と、続ける。


「まあ……確かに、あいつらとは違うようだが……」


 先程ハインに進言してた若いエルフは、アリア達から非難めいた視線を向けられて少しバツが悪そうに視線を逸らした。


「良かった。うまくいった」

「せっとく、できたね」


 その反応にアリアとノーラは頷き合うと、揃って誇らしそうにこちらを見てくる。そんなアリアとノーラの様子に和んでしまい、エステルと一緒に少し笑ってしまった。

 ハイン達の間にあった緊張感もそれで和らいでくれたらしく、どこか空気が弛緩した、柔らかいものになったのであった。

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