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第77話 友へ会いに

「労働力……或いは、魔法的には儀式の生贄辺りが私のイメージ的には連想されますが……魔族に関しては情報が足りませんね。ゴファール王達は魔族の本拠地が云々とも言っていましたが……」

「出所が分からない上に私は関われなかったので又聞きの要領を得ない情報なのですが……どうも、魔族は本拠地から地脈を通して被害を齎している……とか。迷宮でもそういうことはありますから、そういう研究をしていれば地脈を通した遠隔攻撃のような制御が可能なのかも知れません」


 エデルガルトが言う。地脈を通した攻撃、か。遠隔から迷宮の活性化……あたりはできるのか?


「迷宮の制御に関わるものだとしたら、ヴァルカランはその手の攻撃からは安全だったりしそうだな」

「かも知れないわね。国内のものは全て潰しているから迷宮を通した攻撃というのは無理だし、もしまたできたとしても改めて潰すもの。魔物が溢れだしたとしても意味がないし、私達には無意味ではないかしら」


という心強い言葉であるが。


 ヴァルカランには対処可能だが、ゴファールには難しいか。対処できるならゾラルドの迷宮だって残っていないだろうからな。


 そんなやり取りをしながらもソフィアは高速で飛翔し続けると分岐点となる場所が程無くして近付いてくる。


「あちらへ進んでください」


 エデルガルトが道案内をし、ソフィアがその案内に従って眼下の街道を伝うように進んでいく。

――そして……目的地となる町が見えてくる。王都に比べると大分こじんまりとしている町だが、それ自体の雰囲気は良いように見える。なだらかな丘が周囲に広がっていて、地上から見た景色はさぞかし長閑で綺麗なものなのだろう。草花に覆われたその場所は豊かで穏やかな自然に恵まれているように見えた。

町自体も穏やかというか。中心に領主の館らしき、少し大きな屋敷が見える。


「あの町です」


 エデルガルトの言葉にソフィアは飛翔の速度を落としゆっくりと高度を下げていく。


「あの町の友人に会う……のは良いとして。その人に用があるのなら、王城で見たことは話をしておくことね。どんな身体的な反応をしたのかぐらいは判別してあげるわ」

「……分かりました。覚悟は決めておきます」


 ソフィアの反応次第では、友人と信じていた者が敵だったと判明してしまう、ということだ。ただでさえ父や宰相、近衛騎士や宮廷魔術師といった顔見知りの中身が入れ替わっていた、或いは最初から肩書きと違う人物だったことで衝撃を受けている。それでも努めて落ち着こうとしているのは大した自制心ではあるが、些かその表情は青い。

 王都内でエステル達と和気藹々としていたのは、意識してそうしていたところもあるのだろう。その辺を直視してしまうと態度に出てしまうから、脱出するか状況が落ち着くまでは抑えているのだと思う。


 それでも友人がそうだったらと想像して隠し切れていないのは……王族足らんとすることが義務であったからか。王族であるなら、場合によっては国の為に自分が犠牲になることを良しとできる。それはエデルガルトとゴファール王の会話からも明らかだ。だから、切り捨てられても良いと覚悟を最初からしていた。そういう距離感、温度感で彼らと接していた。


 だけれど、友人と呼ぶ相手は違う。裏切られていた、騙されていたともなれば衝撃も受けるに決まっている。


「無理はするなよ。一旦忘れて、このまま西に向かうことだってできるんだから」


 話の流れ次第でどうするか、はある程度決めているとはいえ、決裂した場合の選択肢はエデルガルトにとって辛いものになるだろう。


「……それは」


 エデルガルトは俺の言葉に静かに目を閉じるが……やがて目蓋を開くと首を横に振った。


「お気遣いには感謝しますが……大丈夫です。ここで話をせずに西へ向かって、後で何かあった方が、きっと私は公開すると思いますから」

「……分かった」


 そこまで言うのなら止めるのも無粋だ。友人に会っておかなければならない理由というのもあるのだろう。


「そう。では行くわね」


 そう言ってソフィアが下降していく。


「とりあえず、その方と会うのに私達は姿を見せていない方が良さそうですね」

「本音を聞く分には分かりやすくなるか」


 俺達がいるのといないのとではかなり話も変わってくる。エデルガルトの現状に対して、その友人がどう対応し、どういう対策を考えるかでこっちも動きを変えればいい。まずは味方と呼んでいい人物なのか見極めるところからだろう。

 エデルガルトに関する情報伝達はどうだろうか。一晩明けているし、友人だというのならここにも目が向けられていてもおかしくはないが、王国にとってエデルガルトの生死はまだ不明というところだしな。


 街道沿い――人目に付かない場所に下降してそこから町に向かって移動する。エデルガルトの姿は変装させているから人目につくことも騒がれることもなく、冒険者だと名乗ると門番の簡単なチェックを受けて町中に入る事ができた。


 王都に比べると決して大きな拠点ではない。牧歌的で平和な雰囲気だ。町の周辺も畑が広がっており、穀倉地といった雰囲気である。ただ、町の周囲を守る壁は強固で頑丈な印象だ。それほどの大都市でもないから、人の出入りがあると目立つしチェックもされる。小規模な刺客相手なら逃げ込んで立てこもる場所としては、悪くない。領主の館にはアストラルナイトも見えるしな。


「雷鳴と名高きライゼス子爵の直轄地ですね。子爵とも面識がありますが――その方とは別に懇意にしている友人が住んでいるのです」


 ライゼス子爵か……。領地経営は真っ当という印象はあるな。雷鳴とはまた、かなり厳つい異名を持っているようだが、剣の腕なのか、魔法の属性なのか。或いは駆るアストラルナイトから来る異名なのか。今の段階では判別できないが……。


 領民達からは冒険者といった雰囲気に見えているようではあるが……特に怪しまれている様子もない。適当な路地――物陰に入って俺達の姿を消す。今はエデルガルトが外で行動しているので、その影の中に俺達もソフィアに入れてもらうことができる。


「歓迎するわ」

「いらっしゃい」


 影の中に入り込むとそこにソフィアとルヴィエラ、ロスヴィータがいた。ソファーにでも腰掛けるような体勢で、座るソフィアと周囲に浮かぶルヴィエラとロスヴィータである。


 頭上に穴が開いていて、そこから外の様子が見え、聞こえる……といった感じだ。まあ、そこから見るよりスパイボットからの映像を確認した方が色々見えはする……というか、頭上を除くとエデルガルトの影からの視点なので……俺がそっちから外を見ているのは色々問題がある。


「まあ……外の映像はエステルに見せてもらうか……」


 頭上の出入り口に背を向けるようにして、ソフィアと向かい合って座る。


「何というか、申し訳ないわね」

「いや、いい」


 苦笑するソフィアにそう言って応じ、俺とエステルも影の中に腰を下ろす。何か、クッションかの上に座ったようで、居心地自体は悪くない。


 エデルガルトは一番広い通りを歩いていった。

 領主の館に向かうのかと思いきや、そのまま通りを歩いて別の建物へとまず向かう。


「ここは……?」


 高い塀に囲まれた土地だ。それなりに大きな敷地であるが――。


「王都のスラムから保護された子供達を、こっちに連れてきているのです。何分、王都は土地が高く、私の私財では賄えませんでした」


 ――つまりここは、孤児院か。……そうか。

 元々孤児院出身の俺としては、色々考えさせられてしまうな。


 私財で賄うということは、エデルガルト個人が土地を買い上げ、出資なりをするのにここが丁度良かったわけだな。


 となるとエデルガルトの友人というのが、この場所にいるのではないかと思うが。


「変装を解かずに行きましょう」

「わかりました」


 入口前までやってきたところでエデルガルトが言う。外套のフードは降ろし、変装はそのままだ。少なくとも施設の人物との話がつくまでは、事情を知らせる相手、知らせない方が良い相手を選別する必要がある。


 施設の門に手をかけた時に、エデルガルトは何か、コマンドワードを口にした。門が開くと施設内に立ち入り、フードを下ろして顔を露わにする。

 結界や魔道具によるセキュリティのようなものがあるのか。どうやらゴファール王城と同様、結界で守られている場所らしい。


『おや。お客様ですかな?』


 と、声を上げて近付いてきた者がいる。……ああ。エデルガルトの護衛だった者達か。囮になってここに移動してきた若手の部隊のようではあるが――ここで待機していたらしい。


『はい。グラシエーラさんの知り合いです』


 エデルガルトが笑顔で答える。


『そうでしたか。私達は……グラシエーラ殿の好意で逗留させてもらっておりましてな。代わりに警備を担当させてもらっております』


 エデルガルトは頷く。そのように指示をし、そのグラシエーラという人物に頼んだのもエデルガルトだ。

 護衛達はライゼス子爵のところではなく、孤児院の方に身を寄せているようだが、それは孤児達の護衛を行ってもらうためというのもあるのだろう。

 庭で見張りというか警備をしているようで、護衛達が誰一人として欠けていないことをエデルガルトは確認したのか、満足したというように小さく頷く。


 グラシエーラというのが、エデルガルトの言っていた友人だ。ライゼス子爵とこういう結界で守られた施設を持つグラシエーラ。加えて余所者が目立ちそうな領内の雰囲気。刺客が手出ししにくいということを見越してここを選んだというわけか。

 セキュリティを正面からコマンドワードを使って入って来た人物だけに、変装したエデルガルトの言い分を信じてくれているようではあるな。


 護衛に対しても正体を明かさないのは……状況を見極め、今後の方針が決まるまで巻き込まないためでもあるのだろう。


『グラシエーラさんはいますか?』

『はい。今は子供達に勉強を教えていますよ』


 そう言って彼らは持ち場に戻る。孤児院の庭は広々としていて見通しが利きやすい。警備する分には楽な方だろう。

 勉強か。エステルのセンサーには多数の反応が建物の中にあるというのを示している。子供達と一緒にグラシエーラもそこにいるのだろう。


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