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第75話 王都を出る前に

 エデルガルトの旅装束も作り終わり、そのまま廃屋内にて一夜を過ごすこととなった。エデルガルトの衣装は俺達と合わせて一般的な冒険者風だ。エステル製の衣服の手触りの良さにエデルガルトは驚いていたけれど、

 復路は俺が歩く必要もないので、シェルターも女性陣に使ってもらい、俺は外で見張りを兼ねて休ませてもらった形だ。


「寒くはないですか?」


 毛布を被って柱に寄りかかりながら外の様子を見ていると、エステルが近くに顕現してくる。


「大丈夫だ。エデルガルト王女は?」

「王都までの旅で疲れているのでしょう。ぐっすりと眠っていますね」


 エステルはそう答えて俺の隣に腰かける。

 アストラルナイトはまだ大通りに出て東の空に警戒しているようだが、外の喧騒は落ち着いてきたようだ。


「もう少しぐらいは王都を見て回れるかと思ったのですが……残念ですね」

「そうだな。流石に肉体の乗っ取りだとか言い出すのは予想外だった」


 本来は街中を見て回りながら情勢や王都の戦力やらを探り、スパイボットも発覚しにくいような場所に配置したりする予定だったのだが……それもできなくなってしまったな。偽装しているとはいえ、エデルガルトを連れたままあちこちふらふらしているわけにもいかない。出来るだけスピーディーにエルフの集落に戻り、今後の方策を考えなければならないが……。


「明日は通りから様子を見て、門の通行が許可されているか確認してから行動を決めよう」

「ふふ。情報をもらうついでに買い物をすれば、お土産ぐらいなら手に入れられるんじゃないですか?」


 そんな風に冗談めかして言うエステル。


「んー、まあ……そうかもな」

「そうですよ。あまりのんびり出来る状況ではありませんが、ついでに、ぐらいなら問題ないかと」


 エステルは穏やかに頷く。


 確かに、な。王都まで来ているのだ。お土産というと遊んでいるようにも感じられるが、買い物もせずに店主と世間話をしても口が軽くなったりはしないだろう。


 それに……エステルは多分、気を抜いたり油断したりしているからこんなことを言っているのではなく、俺のことを気遣ってくれているのだと思う。

 昔から戦いの合間に息抜きや休憩、遊びを提案してくれるが、それは大体、俺が無理をしないようにと思ってのことが多い。


 だからまあ……そういう気遣いは有難く受け取っておこう。

 それに敵情視察と考えれば相手国の技術力を探る意味合いも見出せる。

 エルフの集落やヴァルカランに持ち帰るなら何が良いだろうか。武器や織物、食器辺りは職人にとっていい刺激になるだろうし、集落にない作物なら確保しておけば栽培できる品目を増やせるから、そのあたりということになるか。


 と……こういう風に考えがちだからエステルに心配されるんだろうな。先の戦いのような、絶滅に追い込まれているような戦況とは違うのだから。


「分かった。出発前に王都で買い物もしていこう。エデルガルトにも必要な私物があれば買い足しておきたいだろうしな」

「はい」


 隣に座るエステルがにっこりと笑って頷く。


「こういう廃墟の中で、二人で過ごすというのも昔に戻ったような感じがあるな」

「そうですねえ。こうやって夜を廃墟で過ごすのは……遠出してジャンクを探しにいったりした時がありましたか」

「ああ。縄張りから外れるから、エステルに周囲を見張ってもらったり、有害物質がないか調べて貰ったりしてな。大変だったけれど、地元の奴から隠れて回るのは中々楽しかったよ」

「ありましたねえ。私も楽しかったですよ」


 エステルとそんな話をする。構造と心理を利用して隠れて回り、入れ違いにすり抜けたりと中々スリリングなタイミングもあった。

 だから……助けてもらうのは昔からだ。


「いつも色々助かってる。今も、こうやって休んだ方が良いって言ってくれるのもな」

「いいえ。その……マスターには、できるだけ笑顔でいて欲しいだけですよ。昔から言っていますが、マスターの役に立てるのは私にとっては嬉しいことですし」


 俺がそう言うと、エステルは少し俯いて、はにかんだような笑みを浮かべた。

……何というか、小さな女の子のような笑みだ。こういう素直な反応や表情が、肉体を得てから増えた気がする。

 身体を持ったことで子供らしい反応をしているのは微笑ましくはあるかな。

 そのまま俺達は隣に座り合ったままで昔の思い出話をしたり、エステルが淹れてくれた茶を飲んだりして夜を過ごした。




 夜が明けて少し陽が高くなったところで俺達は行動を始めた。アストラルナイトが大通りに立っているし兵士の巡回もかなり多いものの、街中の様子は一応落ち着いているようだ。

 エデルガルトの見た目もテクスチャーで偽装し、その影の方にソフィアとロスヴィータが潜む形で護衛についてもらう。

 俺達は表通りを移動し、そこに立ち並ぶ店や露店で買い物をして街の様子についての話題を振る、といった感じだ。


 というか、こちらが話題探しをしなくても昨夜の竜に絡んだことで大体どこも噂話で持ち切りだったというか。


「兵士達があちこち何か探したり聞き込みをして回ってるんだよ。怪しい女や白髭の老人を連れた一団を見なかったか、とか。だからそいつらが城で召喚術でも暴走させたんじゃないかって噂になってるぜ」


 そんな話になっているようだ。細かな現場検証がもう済んだとは思えないし何があったのか理解できなくとも、とりあえず現場の死体が確認できていない者がいるなら捜索はする、と。初動としては間違ってはいないだろうがな。朝方、廃墟の方にも人探しに来ていたが、シェルターや俺達の周囲には瓦礫のテクスチャーを被せてあったので素通りされた。


 どちらにしろ、エデルガルトの姿を探したところで見つかりはしない。


「門はどうだった?」

「荷物を全部改められたりしてかなり厳重なようだが、出入りはできるぜ。仕入れが少し遅れたりはしちゃいるがな」


 店主からはそんな情報がもらえた。となると、門から出るのは少し時間がかかりそうだ。俺達はそのまま食器やナイフを買ったり作物や果物を買ったり、王都の土産物や野営用の食料として通る程度に買い物をしていった。


「この食器の装飾は中々見事ですね」

「比較的最近になってできた紋様ですね。とある陶芸職人が作り上げた様式で、意匠に使っている植物から、魔除けと家庭円満の意味合いがあるという話ですよ」


 エデルガルトはその豊富な知識で解説を入れたりできるので、俺とエステル、それに影の中にいるソフィアもふんふんと感心しながら聞かせてもらった。

 土産や情報、必要なものも買い足して大通りを眺めながら門に向かって歩き出す。入って来た時と同じ門の方へ向かって移動する。


「露店で売っているものも綺麗ですね。この辺は流石に大都市と言うべきですか」


 エステルが露店の店先を見ながら言う。


「そこのお嬢さん。ちょっと見て行かないかい?」


 その視線に気づいた露店の店主がエステルに声をかける。


「私ですか?」

「ああ。あんただよ。綺麗な髪してるのに、飾りっけがなくていけないよ。冒険者でも若い子はもっと着飾らないとねえ」


 と、店主が愛想よく笑う。


「うーん、まあ」


 エステルは曖昧に笑う。今の姿は偽装で、髪の色や顔の印象も変え、目立たない印象にしているからだ。それに……アクセサリーの類は外装を変えるだけでエステルは自由にできるというのもあるんだろうが。

 ……んー。


「いいんじゃないか、見ていっても」


 外装を変え、テクスチャーを変えるだけで見た目はなんでも自由になる。けれど、エステルが自分だけで完結しているのは……そう。勿体ないように思うのだ。周囲から何かを受け取り、相手に返す。誰かに何かを与えて、誰かから何かを貰うだとか、物を所有することで嬉しく思うだとか。

 そういう当たり前のことは、今までのエステルにはなかった。身体がなかったのだからそういう欲求だってなかったのだろう。

 だから……それを存在意義だと思って俺の力になれることが嬉しいと言ってくれるのもエステルの偽りのない気持ちなのだろうけれど、それは彼女がそう作られたからではなく、好きでそうしてくれているからなのだということを、俺は忘れてはならない。


 エステルの世代のAIは人にそう望まれて作られたから、そうしているというわけではないのだから。今までは、データを俺と一緒に共有して楽しんでいたし一緒に行動することで満足していたようだけれど、身体を得ればまた事情も変わってくるのだし。

 身体を持ったのなら、そういう当たり前のこと知ってもらいたいとそう思った。


 ……もっと単純に、普段から世話になっている俺からの礼でもあるのだけれどな。


「おや、旦那も話がわかるね」


 店主はこちらに向かって頬に手を当てながらも、もう片方の手をひらひらと振って笑う。


「べ、別に旦那というわけではありませんが……まあ、そうですね。折角ですので後学のために……」


 エステルはそんな風に言いながらもふらふらと露店の前に進む。


 露店は髪留めやネックレス、指輪にブローチといったアクセサリーを扱う店だった。銀細工だけでなくリボン等も扱っているようだ。


「何か欲しいものはあるか?」

「うーん。そうですね。髪留めかリボンはあると嬉しいかも知れません」


 なるほど。エステルは「うーん」と真剣な表情で吟味しているようだが――。


「どれが良い、でしょうか」


 所在なげに尋ねてくるエステルである。頷いて、俺も並んでいる品を見ていく。


「これは……どうかな」


 銀細工の髪留めだ。枝葉を広げる大樹と星々という意匠である。


「ああ――確かにいいデザインですね」


 木々と星々というのは、俺達にとってエルフの集落を連想させるものだ。俺と同じ感想を抱いたのか、エステルはにっこり笑って頷いた。


「それから、そっちのリボンも良いな。髪留めと一緒に頼む」

「お嬢ちゃんならこっちの髪色の方が合うんじゃないかい?」

「いいんだ、これで」


 偽装を解いた時に合う色だからな。


「旦那の好みだって言うなら仕方ないね」


 というわけで、金を払い、受け取った品をエステルに渡す。


「まあ、普段世話になっているお礼代わりってわけじゃないが……俺からのプレゼントってことで」

「……ええっと。その、ありがとうございます」


 エステルは少し目を見開いた後、はにかんだように笑った。


 店主に礼を言って再び歩き出す。


「何と言いますか……こう、プレゼントを貰うというのは……。思っていた以上に嬉しくなるものなんですね」


 そう言って、少し遅れてエステルが付いてくる。腕の中で大事そうに髪留めとリボンを抱えて、噛み締めるように小さく笑みを浮かべている。

 ……そうか。

 それだけ喜んでもらえると、俺としても贈った甲斐がある。気に入ってくれたのなら何よりだが。


「……何と言いますか。世間擦れしていなくて、見守っていたくなる感じですね」

『でしょう』


 何やら少し離れたところで頷いているエデルガルトと、それに相槌を打っているソフィアだが……。何も言うまい。普段の礼だと改めて言っても、知って欲しいことがあるからと口にしても藪蛇になりそうな気がする。


 咳払いをしつつ、街から出るための列に並んだ。門での検査が厳しくなっているので普段より時間がかかっているとは聞いている。出入り自体は禁じられていないのでそのまま進んでいけばいい。


「良ければ私が髪を結いますが」


 嬉しそうに髪留めとリボンを眺めているエステルに、エデルガルトが言った。


「良いんですか?」

「はい。侍女のやり方を見て、学んでいますので」


 エステルが頷くと、リボンを受け取ってエステルの髪型をいじる。


「リボンは……二本一組なんですね。これなら色々アレンジできますよ」


 エデルガルトによればツインテールにしたり三つ編みの中に組み込んで髪飾りのようにしてみたり、色々アレンジの方法もわかる、とのことだ。

 とまあ、並びながら和気藹々としているが……こんなことをしている者達が兵士達の探している当人だとは思われない、というのはあるだろう。


「どうでしょうか?」


 エデルガルトに髪を結ってもらい、にこにことしながらエステルが尋ねてくる。何気にテクスチャーをARで俺だけ透過させる形で元の姿を見せてくるエステルである。

 普段と違う装いのエステルであるが、髪にそっと触れてにこにこしていて、随分嬉しそうだ。髪をツインテールに結っているエステルは屈託なく笑っていて、陽の光の下で煌めいているようにも見える。


「そう、だな……。似合っていると思うぞ。そこまで喜んでもらえると贈って良かったよ」

「ふふ……。マスターからの贈り物ですので」


 そんな風に言いながらもエステルはにこにことしていた。

 列も順調に進んでいき、俺達の番がやってくる。


「冒険者と依頼主か」


 俺達の顔をまじまじと確認して兵士達が言う。


「昨日あんなことがあったばかりで外に出るのは、とも思ったんだが……商人も行き来してるみたいだしな」

「西の街道は一先ず問題はなさそうではあるがな。移動の時は充分に気を付けろ。……と言っても……竜相手では巡回の兵がいたとしてもいざ襲われたらどうしようもない。上空に気を付けて姿が見えたら隠れるぐらいしか対策もないか」

「ああ。ありがとう」


 チェックもそれほど時間はかからなかった。顔を確認し、荷物を改めて……その程度だ。テクスチャーで偽装しているし持っている荷物は旅の支度と、土産物ぐらいなので特に呼び止められることもなく、礼を言って門から出ることが出来た。

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