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第55話 襲撃と救援

 男はその後も、王女の護衛達を日和見主義的な派閥で王女の方針を誘導しているだとか、場合によっては排除もやむなしだとか、暗示と共に誘導したりもしていた。


 しかもこうやって面と向かって擽り持ち上げていたくせに神殿の者達同士で合流した後に『考えの足りない田舎貴族』『簡単にその気になる』と馬鹿にしていたあたり、テレンスは彼らにとって捨て駒にしても惜しくない扱いらしい。


 男とその仲間達……神殿関係者はと言えば、朝早くに別の方角の門から外に出て、人目に付かないところでテレンスから受け取った兵士の服装に着替えていた。

 偽装をしてから改めて西へ移動した形だ。街道沿いに潜み、王女の馬車を確認してからそれを追う形で移動し、予め決めていた襲撃ポイントで声をかける、というわけだ。

 テレンスの役回りは土地勘があることから襲撃ポイントを決めることと……その時に顔を見せて挨拶をさせ、彼らに対して警戒させずに馬車に近付かせるためであるらしい。


 マインラートがテレンスを推挙すると約束していたのは……恐らく領主の息子を引き込んでいれば領地での融通が利くからだ。

 或いは推挙の話自体がテレンスの曲解か、マインラート達が既に死んでいると判断しての虚言だろうというのがソフィアの分析だった。


「多少は同情の余地もあるけれど、当人が考え足らずで野心的だからあの程度の魔道具に付け込まれるのよ。それを差し引いて考えても……ここまで見ている印象では、テレンスを推挙、というのは少し考えにくいわ」

「確かに、暗示程度でその気になってしまうというのは短絡的ではありますね」

「力のない地方貴族の非嫡子は、得てしてこんなものだったりするわよ。どうも、この土地の領主は然程大きな権力を持っていないようだし、ヴァルカランが近いと言っても戦い自体はないから、油断していたのでしょう」

「零細貴族には嫡子以外は教育のコストも惜しいってわけか……。世知辛い話だ」


 普通、重要な国境付近や拠点を守るには実力者を配置するが、この土地はそうではない。ここの領主はエルフ達を炭鉱のカナリアに例えたが、王国の中枢からするとこの土地の領主、領民自体がそういう扱いなのではないだろうか。万一ヴァルカランや魔族が侵攻してくるような事態になってもエルフや獣人、そしてここの領地からの避難民による二段構えで危機を察知できると。


 実際集めた情報の中には隣の領地は豊かな土地と城塞を持っているというものがあって、西からの脅威――魔族に対する本当の防波堤はそこ、ということになるのだろう。


 さて。そうなるとゴファール王国から軍が派遣されてくる場合、その本当の防波堤からも戦力が差し向けられてくるということになるだろうか。今はまだ王国も状況を把握できていないために態度を決めかねているが、実際に事態が動き出し、そこから軍備が整えられるまでの速度はこっちの予想よりも早くなるかも知れない。だが、こういう事情が事前に見て取ることができたというのは大きい。


 ともあれ、今対応すべきは神殿の一団だ。テレンスは領地の兵士の鎧兜を人数分用意し、それを神殿の者達に貸し与えている。朝早くに出た連中は悠々と移動し、街道の中でも人気の少なくなるであろう場所、見通しの悪くなる場所で待機して王女達の到来を待っている。


 後は巡回の途中で出会ったという体で声をかけて事を起こすつもりだろう。彼らにとっては王女の持ち帰る報告は不都合なもので、ウィルスをどうにかしようとエデルガルト王女を生贄にすることでエルフを仇に仕立て上げようとしている。


 その時にテレンスが邪魔になるなら神殿の者達は諸共に始末するだろうし、そもそも彼らのテレンスへの評価を見る限り、最初からそのつもりだとしか思えない。

王 女の説得など無駄だろうし、王女の護衛達が耳を貸すことも普通ならまずありえない。


 ちょっとした林があって見通しが悪くなっている場所に、神殿の関係者達が陣取る。俺達もそこから少しだけ離れた場所で待機する形だ。


『ふむ。林の中は少し暗いから、ここでならある程度私も自由に動けるわね』

「もしもの時は支援があると助かる」


 林の茂みに身を隠しつつ、影の中から聞こえるソフィアの言葉に答える。


『ソーマは今回あの光の剣は使わないのでしょう? その剣はどういうものなの?』

「マジックカーボンファイバーの高周波ブレードだな」

『高周波……?』

「振動で対象物を切断するというものですね。普通の剣よりは頑丈で切れ味も良いと思いますよ」


 ナイフはこの世界に来た時にエステルが作ったが、あれの刀身を伸ばしたような形状だ。軽く、薄く、頑丈で鋭い。外に出るにあたって用意したのはバヨネットが目立ちすぎるからだ。あれを使っていては変装等の意味がなくなる。

 その点高周波ブレードなら黒い剣というだけで済むしな。黒い剣というのも特徴的だとは思うが、バヨネット程ではないだろう。


 バヨネットは今回隠しているのでブラスターも使えないが――エステルもソフィアもいるし魔法もあるから遠距離攻撃もあるし射撃戦対策もある。何とかなるだろう。


 通信機からの情報を受け取りつつ状況を見守る。王女は予定通りに馬車に乗り込み4名の護衛やテレンスと共に街道を進んでいる。男達は林の影からその接近を見守っている。


 その数7名。テレンスを含めれば8名で、数的には王女の護衛の倍ということになるか。

 ヴィルム神殿の者達であるなら現在神聖魔法は封じられているようなもの、というのはエステルの見解である。ただ……ヴィルムの力を借りる魔法は使えずとも、普通の魔法なら使えるし、魔道具も勿論活用できる。その辺は計算に入れておく必要があるだろう。


 エデルガルト王女を乗せた馬車の位置も把握しているが――そろそろ林のあたりからも視界に入ってくるはずだ。街道は緩やかなカーブを描いており、林の近くを横切って西の方角へと向かって続く。少し見通しが悪くなる場所――そこで待ち受けるようにして男達は仕掛ける算段なのだろう。


 西の街道の行き先は、元々辺境しかない。人通りは元より極端に少なく、昨日の騒ぎのようなものが例外だったのだ。実際、俺達がここに到着するまでの間、他者は見なかった。


 男達は王女の馬車を確認すると待ち伏せのポイントに定めていた場所に移動する。テレンスはその待ち伏せの場所に誘導する役ではあるが、元々一本の道。それを先導するかのように、或いは道案内をするかのように一行の前に出て馬を進めている。


『この林沿いの道を抜けて脇道に進むと、そこにも小さな集落がいくつかあるのです』

『それは――知りませんでした。そうした集落は火災の被害を受けていないのですか? 領主殿の支援は届いているのでしょうか』


 馬車前方の小窓から顔を覗かせて、エデルガルトがテレンスに質問を投げかけながら進んでくる。一行より少し先行するテレンスは林の先をちらりと見る。そこで待っていたのは3人の兵士達――正しくは、領兵の鎧に身を包んだ神殿の者達の姿だ。


『おや』


 と、テレンスはそこで初めて気づいたというように声を上げた。一瞬、男達と目配せをし合う。


『街道の見回り――。集落出身の兵士達ですね。顔見知りですから、声をかけてきましょう』


 そう言って馬の歩む速度を少し早め、一行から更に飛び出すように先行する。そうやって男達と合流し、馬を降り、世間話をしているように見せかけてエデルガルト王女達が追い付いてくるのを待つ。待ち伏せる。


 神殿の者達の内4人が、街道に姿を見せていない。林の茂みの中に身を隠している。馬から降り、世間話をしている体で足を止めさせてから挟撃を仕掛けるという算段だ。

 護衛達を戦闘で取り押さえてから話を聞いてもらうだとか、テレンスにはそんな計画を伝えている。テレンスはその計画に従って、男達が動けば自分も動くのだろうが――。


「……映像から唇の動きを読みました。『護衛の者達には神殿の為にと協力を要請したが、説得できなかった。排除もやむなしかと』『それは残念だな』だそうです」

「……全く」


 今も魔道具も使っているのだろうが、暗示を刷り込まれているから素面でもそれか。当然ながら、昨晩から今の間に護衛達に接触を試みた動きはない。


「暗示だか洗脳だか知らないが、そこを考えると一応テレンスは気絶させるだけにしておくか……」

「わかりました」

『いいでしょう。それが原因で領主と拗れるのも考え物だものね』


 二人の了承も取れた。

 それでも領主にとっては身内。斬ってしまうのは領主の方針にも影響が出そうだ。処遇も魔道具の効果の強さだとか性質を確認した上で王女や領主任せにした方が角は立つまい。


 神殿の連中の方は……駄目だな。最初からエデルガルトを殺すつもりで来ているし、やり口も悪辣だ。


 そのエデルガルト達を乗せた馬車と護衛達は現れた男達をやや警戒しつつもテレンスが笑みを向けて大丈夫というように頷いたからか、ゆっくりと前に進んだ。


『テレンス殿。何かあったのですか?』

『いえ。この先の集落の様子を聞いていたのですが、そこで少し問題があったようでして。まずは彼らの話を聞いて欲しいのです』


 護衛に対し、エデルガルトが頷いて見せる。馬車が止まり、護衛達を乗せた馬も歩みを止めて。まだ少し間合いがある。一歩二歩と自然な仕草で間合いを詰め、神殿の刺客達がその顔を上げてエデルガルトに向ける。

 その時だ。エデルガルトが首を傾げて言った。


『――そこの、一番後ろにいる方』

『何でしょうか?』

『――確か以前、王都の城下街でお見掛けしましたね。あの時の身形とは……随分違いますが』


 エデルガルトがそう言った瞬間。護衛の者達が一拍置いて『そこで止まれ』と口にする。

 そこからの動きは早かった。刺客達は弁明も合図もなく、一斉に示し合わせたように動く。最初にしたことは、一人が懐から取り出した魔道具を発動させることだ。


『結界だと……!?』


 エデルガルトと護衛達。刺客達と伏兵。それらを覆う範囲に光の壁――結界が生じた。正面から刺客達が剣を抜いて踊りかかる。結界で空間が閉ざされて、戦場の範囲が限定されたことで、馬や馬車を走らせるだけのスペースが無くなった。護衛達も馬上にいることが逆に不利に働く。


『こいつら……!』


 護衛達が一瞬遅れて武器を構えるも、刺客の狙いは最初から馬だ。斬撃と刺突。悲痛ないななきが上がってある馬は倒れ伏し、ある馬は体勢を大きく崩して、背中の護衛を振り落とす。


 同時に茂みの中から伏兵が現れて、ほぼ2対1という状況を作りながらも地に落ちた護衛達に斬りかかろうとしていた。ようやくテレンスも状況を把握したのか「恨みはないが」等と言いながらも護衛に向かって剣を構えて突っ込んでいこうとしているところだった。

 その時には。


『結界は私がぶち抜く。ソーマとエステルはそのまま』

「分かった」


 俺もまた、エステルと共に戦場目掛けて突進していた。結界目掛けて突っ込もうというその瞬間、不自然に俺の足元の影が長く長く伸びる。紅い螺旋の弾丸が凄まじい速度で影から射出された。


 接触は一瞬。拮抗も瞬く間のこと。結界の壁面を穿ち、粉々に砕いて赤い螺旋は空高く突き抜け、陽の光の中に霧散する。


「馬車に乗っているのはエディーラ嬢か! 助太刀する!」


 そう言いながらも、今まさに護衛に向かって剣を振り下ろそうとしていた伏兵の、その肩口に斬撃を浴びせる。高周波ブレードは正しくその切れ味を発揮し、兵士の鎧をあっさりと切り裂いて刺客を一撃で斬り伏せていた。


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