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第52話 情報収集

 目的の街に潜入した俺達は適当な店を選んでそこに入る。昼は食堂、夜は酒場になる店と言った雰囲気だ。


 カウンターに座って適当に見繕って欲しいと伝える。情報収集も兼ねて店主に話しかける。


「狩った魔物の素材を売りたいんだが、良い店はないか?」

「それだったらここから大通りを街の中心に向かって進んで、噴水のある広場から大きな通りを左に行くといい」


 そこにこういった看板の店がある、と店主はその店の場所を話してくれた。店が空いている時間帯だからか、割と雑談にも応じてくれるようだ。だから、駐留していたであろうアストラルナイトについてもそれとなく話題を振ってみることにした。


「西の集落は結構大変なことになっていてな」

「らしいな。大きな火が出て大変だったとは聞いてる」

「ここにいた騎士の方々も、西に行ってまだ帰ってこないって聞いたが……無事だと良いな」

「まあ、そうだな……。領主様と騎士団以外のアストラルナイトなんて初めて見たが……新型ってことで随分領内も盛り上がっていたもんだが、あれは火や煙に巻かれたりしても大丈夫なのかね」

「どう……なんだろうな」


 精霊の捕獲と新型機運用のテストという話はマインラート達からの情報で聞いているが……。

この反応からすると騎士達が自分達で放った火が集落にまで燃え広がった、というところまでは耳に入っていないようだ。

 火が出た、とは言うが、それがアストラルナイトを駆る者達の仕業だったと知っているとは限らないし、知っていたとしてもゴファールの国民の立場としては中々指摘しにくいところはあるだろう。

 集落の面々は自分達で遠巻きに目撃した上で領主に直訴しようとしたからそこに触れることもできたが、関係ない相手まで騎士達の批判を触れ回っていたら自分達の立場を悪くするだけだ。一般にその辺の情報が出回っていないのは仕方のないことだろう。


 アストラルナイトも……存在は知られていても店主……一般人レベルではその性質、性能にも疎いようだ。

 街中には2機しか見当たらなかったが、西はヴァルカランと竜王の山脈である意味安定しているから、数を配備する必要がないのか。それとも地方都市の領主にはこれで限界なのか。

 少なくともエルフ達が把握できる範囲に、ここに配備されているアストラルナイトがこれまで出てきたことはなかったはずだ。


 情報も現時点で色々得られた。少なくとも、アストラルナイトを結集させたら隠しようもない。再侵攻を目論んで結集させて動かせばスパイボット達が見落とすということはあり得ない。


 事前の対策として有効であることが確認できたところで、とりあえずはこのまま街を巡って、同じように調子で情報を集めていこうと思う。




 素材を売りに行って買い取ってもらい、そこでも情報を聞くが……駐留していた部隊については食堂の店主と持っていた情報に大差はなかった。


 マインラートが国内ではそこそこ有名で駐留した時にはかなり領内も盛り上がっていたのだとか。帰って来なかったから皆、何があったのかと噂しているということではあるらしい。


「東も騒動があったって聞いたのに、ここにきて西の辺境も騒がしいってのは何なのかねえ……」


 火災とマインラート達が行方不明になっている話を世間話として振ると、店主がそんなことを言う。


「東で何か起こったのか?」

「いや、起こったってわけじゃねえし、俺も商人仲間から聞いただけなんだがよ。暫く前に国境で隣国の兵士と諍いが起こったって話だぜ」

「それは――大丈夫なのか?」

「聞いた限りじゃな。喧嘩の延長みたいなもんで、お互いアストラルナイトを出してきたって話だが……喧嘩になった兵士達を収めて終わったって話だ。対魔同盟に名を連ねてる国同士だ。そんなもんまで駆り出して本気でやり合う気はなかったのかも知れんがな」


 対魔同盟。かつて対魔族で組んだ同盟軍のことだ。諍いで緊張する程度には形骸化していても、一応は名称として残っているということか。


「そうか……。現場の連中の暴走で歯止めが効かなくなるような大騒動になるなんてこともある。そういうことが続くようなら良くないな」


 マインラートは竜王の山脈と魔族の討伐などと言っていたが。ゴファールを取り巻く政情は西に注力していられるものなのだろうか。精霊捕獲による戦力の増強はそちらで戦端が開かれた場合を見据えても有用なものではあるだろうが。


 そしてアストラルナイトはゴファール一国だけが保有しているものではないようだな。

ゴファール王国の保有する戦力と、その普及の度合いを把握したいところではあるが。


 ゴファールの戦力か。王国民に聞いてみても自国の軍事に関するものだけに、世間話程度では客観的な評価を聞くのは難しいかも知れないな。


 そうやって素材や宝石を売って資金を作りつつ、世間話として情報を集めさせてもらった。


 出撃した者達が帰ってこないというのは皆気になっているのでマインラートの話題は振りやすかった。白銀将ことマインラートはヴィルジエットを駆る騎士として結構な有名人らしい。タイプ・カテドラルを駆る騎士の中では若手ということではあるが、大型の魔獣討伐から南の戦場での活躍と……各所で華々しい戦果を挙げていたのだとか。


 要するに立ち位置的には将来を嘱望される若手のエースという感じだろうか。

 本体ではなく分霊が降りていたというのもあるから、あれをタイプ・カテドラルの本領と判断するのは早計ではあるが、少なくともかなりの上澄みであるというのは間違いなさそうだ。アルタイルと空中戦が出来たということも含めて、アストラルナイト、というよりも魔法技術、魔法文明そのものの限界……底が知れない。決して油断はできないだろう。


 この領地に関する世間話であるとか、領主のアストラルナイトはこの街を守護する精霊と契約しているのだとか、そう言った情報を得られた。エルフの森にやってきたアストラルナイトは新型という話だったからな……。そういう意味では領主の保有している機体はタイプ・カテドラルに近い形式なのだろう。


 そうやって色々な情報が得られた後でそのまま俺達は宿を取る事にした。2日、3日ぐらいは街で過ごし、ゴファール国内の空気感だとか生活水準であるとか、そういったものを知っておきたい。


 部屋を取って夕食までの時間を過ごす。宿に腰を落ち着けた時には既に日も落ちていた。ソフィアも影の中から出てきて椅子に座って寛ぐ。


「マインラート達が全滅したから、全体的に雰囲気は沈んでいたわね」

「火災もあったしな。ゴファールにして見れば西側は差し迫った脅威がなくて問題を先送りしてきただけに、いざ直視しなきゃならないって状況は一般人でも気が重いんだろうが」


 一般人はヴァルカランの真実を知らないしマインラート達の行動に対して何ができたわけでもないだろうが、それでも問題がそこにあるというのは変わらない。


「真実を知った時に何を思うか、ですね」


 エステルが言う。そうだな。一般人の反応や考え方については今は言っても仕方ない部分もある。


「……とりあえず、通信機で情報収集がきちんとできているか確認しておくか。それが終わったら集落にも連絡を入れておこう」

「分かりました」


 エステルは荷物の中から端末を取り出し、スパイボットの状態を一つ一つ確認していく。音声情報、視覚情報がしっかりと得られているか、記録ができているか。動きに不具合はないか、等々。


「問題はなさそうですね」


 エステルはその仕上がりに満足そうに頷く。

 大通りの環境音からノイズを除去して目的の音だけを抽出してクリアにできる。虫の視界なので複眼ではあるが、変換すればパノラマの立体映像にすることも可能だ。


「視界が広くて状況を把握しやすいわね」

「人間の視界に合わせて変換してるんだ」


 これなら集落に戻っても継続的に情報を得られる。エルフとアンデッドなので潜入できるが俺とエステルぐらいしかいないというのが困りどころではあるが、ボットを配置すれば諜報は可能だな。


 一通り確認を終えてから、集落側に連絡を入れる。少し間を置いて、通信機に反応がある。


「聞こえるかな? 今宿をとって、部屋で話をしてたところなんだ」

『ええ。聞こえるわ。良かった……。無事に町に入れたのね』


 シルティナが通信機の立体映像で嬉しそうな笑顔を見せた。


「そっちに異常はない?」


 ソフィアもシルティナの笑顔に和やかな表情で応じる。


『ないわ。集落もアルタイルもいつも通りだし、開発地も順調みたい』

『心配、いらない。私が守る』


 と、脇から顔を出したのはルヴィエラだ。


「ルヴィエラさんも一緒だったんですか」

『遊びに来てる。シルティナ達もだけれど、メイアとフラリアも友達だから』


 ということだそうな。水精のよしみということで行動の範囲が広がっているようだ。消火をしたことで、木精達からも歓迎されているのだとか。

 精霊達を大切にしているエルフの集落だからルヴィエラとしては居心地も良いだろう。


 そんなわけで互いの状況を伝えあい、アリアやノーラとも顔を合わせると、これからシルティナと食事を作るのだと、そんなことを言っていた。


 そうして程々のところで通信を切り上げる。


「通信機……だったかしら。それは起動させておかなくても良いのかしら?」

「ああ。映像と音の情報はずっと記録している。動きがなければ情報は破棄されて、動きがあれば記録に残す。それをフィルタにかけて重要度で分ける感じかな。内容はラベル分けされるけど、国の動きだとか、アストラルナイトに関する話だとか。そういう重要そうなものが出た時は通知される」


 フィルタをかけて記録データを自動で走査し、分類する。気になる情報が含まれている時は確認する、といった感じだな。四六時中無理に監視しておく必要はない。


「遠距離で顔を合わせて話をしたり記録したり……便利なものね……」


 感心しながら通信機を眺めるソフィアである。


「こういう作業での補助をしようというのが、そもそもの私達が作られた理由ですからね。とはいえ、こっちの注目していない情報の中に、重要なものが絶対含まれていないとは言い切れないのは確かですが」

「どこかに注目しておくとしたら、やっぱり兵士達の詰め所だとか領主の館だろうな」

「でしょうね。操作を教えてくれるなら、二人が眠っている間の監視は私がしておきましょう」


 ソフィアは休息を必要としないからと、そんな風に申し出てくれた。


「それを言うのでしたら、私も顕現していなければ休息は必要ありません。話し相手が必要でしたら、声をかけて下さいね」

「ありがとう、エステル」


 エステルとソフィアはそんなやり取りをして笑みを向け合うのであった。

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