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第47話 戦いの余波

 複数の機体に複数の精霊が囚われているということもあって、解放にはそれなりに時間がかかった。エルフ達にとって火の精霊は相性が悪く、性質自体も荒ぶりやすいために手間取ったのはやはり火精であったが、一体をまず宥めてその後に協力してもらう事で段々と対応がスムーズになっていった印象がある。


 そんなわけで全ての精霊の解放を終えて、俺達はライヒルの家に集まり、今後の方針について話し合うことになった。


 解放した精霊達はそのまま、集落に留まってもらってエルフ達と元々いた精霊達が仲間として加える。

地水火風に光闇。色々な属性の精霊を宝石の中に閉じ込めていたが、いずれの精霊にとってもエルフの集落は比較的居心地がいい場所のようだ。

 火精にも居場所はきちんとある。若干相性のいい場所が少ないが、鍛冶場など、火を使うところに居着いてもらえば良い。彼らの手助けも結構ありがたいものになるだろう。


「中々に強い力を持つ精霊達が多いようでな。多分、森全体の活力にも影響が出るだろう」


 ハインが新たな精霊達を迎えた際の影響についても教えてくれた。


「そうなると、燃えた森の再生も早くなるか」

「そうだな。火災は失うものも多いが、その後には大地そのものが新たな活力を得る。いずれまた、豊かな森が育まれるだろう」


 俺達にとっては自然の再生なんて遠い世界の話ではあったけれど、確か……焼き畑農業等は灰が土壌に栄養を与えて病害虫もなくなるとかで火災の後は植物の生育しやすい環境ができるんだったか。


「森の再生は問題ないとして……今後の防衛については考えなくてはいけないな」

「アストラルナイトのようなもので攻められることを考えたら、集落を守るには今までとは違う方法を考える必要がありますね」


 ライヒルが言うとエステルが頷く。


 個々人の侵入を防ぎ、集落の場所を隠せるからエルフ達にとって森は城壁であり、立体的な戦場として使えるから直接戦闘においても相性が良く、防衛のために利用できた。

 しかし精霊の幻惑結界への対策の有無に限らず、アストラルナイトで攻めて来られたら森は拠点防衛の役には立たないし、エルフ達も生身では対抗できない。


「ソーマ殿は、アストラルナイトのような兵器を用いられていた。何か、その視点から見解はありますか?」


 ハーヴェイの言葉に、皆の視線が集まる。


「そうだな……。森を戦場にしてしまうのもな。生活資源を得るための基盤でもあるから戦場にせずに大事にしたい。できるなら、森に近付く前に敵を察知し、敵兵器の防御を貫けるぐらいの火力を遠距離から投射して敵軍を簡単には寄せ付けないっていうのが理想か」

「砲台の設置ですか」


 思案しながら言うエステル。


「ああ。機動兵器の数を揃えるよりはハードルも低いからな」

「砲台、とは?」


 首を傾げるエルフ達。


「こっちの世界の――大型の弩や投石器みたいなものかな。距離をとって寄せ付けない一方的な戦い方に忌避感が無ければの話だけれど」

「いや。我らは弓の腕が高いものは称賛されるから問題はない。戦士としての扱いをするかどうかも、相手の戦いの動機次第だろう」


 なら問題はないな。継続的な供給可能かつ高威力の砲というのも案があるから、それを作っていけばいい。


「集落の後方――ヴァルカランの国土内に共同で拠点を作りましょうか。精霊達も含めて避難できる場所があれば違ってくるでしょうし、そこで食料や武器防具を生産したり蓄えることもできるから。決まった場所に拠点があれば、魔道具の供給が追い付いていない者も近付かないで済むし」


 ソフィアが案を出す。ヴァルカランの国土内ならば回帰を前提にした戦術を組めるから敵の追撃も難しくなるか。斥候も出しにくいだろうし、機密を守るという意味でも便利だ。


「元農民という者達も多いから、畑仕事とその人手については安心。みんなも、生前の仕事ができると張り切る」


 ルヴィエラはどこか誇らしげというか嬉しそうというか、ヴァルカランの皆に仕事や目標を示されることを喜んでいるようだ。

なるほど……。ヴァルカランでは食事が必要ないから農業そのものに需要がなかっただろうしな。

 ヴァルカランには鍛冶師もいて、冶金技術もある。錬金術、魔法に精通した者もいる。不死、不滅であるが、それ故に長らく外界から放置され、それらの技術、知識を活用する場所もなくなってしまっただけで……そういったマンパワーを活用できるというのはヴァルカランの強みだ。


 というか……生前の技術、知識を残しているというのはすごいことだな。その上で疲労もしなければ睡眠も食事もいらないのだから……はっきり言えば反則に近い。


 強いて言うなら、日中の行動に制限や弱体化がかかるぐらいだが、屋内仕事ならそれも関係ない。


「ヴァルカランの方々と共に何かできるというのは、光栄なことです。共同で開発の話、喜んでお受けしたい」


 ライヒルがそう応じるとソフィアは頷く。


「では、正式に同盟を結び、共同開発について契約を締結しましょう。共同開発地については、ヴァルカランの呪いへの対策していない者の立ち入ることを禁じるわ。これを書面で残すことで、呪いに対する安全策としておく」


 外交の延長とすることで共同開発地の中での魔道具の破損や紛失に対しての事故防止、とするわけだ。


 そうしてソフィアとライヒルは握手を交わし、ヴァルカラン王国とヴァイネス氏族の同盟と共同開発が締結されたのであった。


 俺も……巨大兵器を運用していたという点で言うなら一日の長があるからな。共同体で一緒に暮らしている身としては防衛については色々考えないといけないな。




 明くる日から、共同開発は急ピッチで進んでいった。呪い対策の魔道具をヴァルカランの術師、技術者が全力で作ったので数が揃い始め、ヴァルカランの者達も結構な数が開発作業に従事できるようになった結果だ。


 エルフの集落から真っ直ぐ最短距離をヴァルカラン側へ向かい、森を出たところに柵で囲われたエリアが作られた。そこが共同開発地だ。実験もされたが、やはり呪いは国家間、民族間の取り決めに影響を受ける部分があるのか、共同開発地に呪い対策をしていない者は立ち入ることができなかった。


 そのため、エルフ達も事故が起こることはないからと、新しい集落を作るような感覚で、安心してそこで開発を進めることができた。


 作物を持ち込んで生育したり、集落から開発地に向かうまでの森の道に、集落を守っているものと同じ蔦を植えたりしていった。必要な時に時にエルフ達の移動を守り、普段は森の動物や魔物の動きを阻害しない。


 共同開発地の立地はどうかと言えば、近くにある川からの用水路を作って水を引っ張ってきたりしている。

 メイアによると集落の泉と地下水脈で繋がっている場所とのことで、彼女にとっては行き来は自由ということだ。フラリアの場合は森から隣接した立地なので移動に際しての問題はない。念のために集落から苗木を持っていって開発地に植えたぐらいだろうか。


 総じてエルフや精霊達にとって居心地の良いものとなるように話し合いをしながらの開発だ。


「我々はこのような身。実際のところ、住環境を重視する必要がありませんからな。日中の陽光に対策するぐらいでしょうか」


 というのがヴァルカランの住民達の言い分である。休息や睡眠が必要ないから快不快をあまり重視する必要がない。陽光を浴びると弱体化したりダメージを受けたりしてしまうから建物の窓は塞ぎやすくしたり、窓のない部屋を作ったりしておけば後は自由といった感じだ。


 それ以外の部分は――それでも彼らはこんな町に住みたかった。こんな町がいいという生前の想いや理想を詰め込むように作っていった。きっと彼らにとっての新しい目標であり、長らく停滞していたからそうしたものを前向きな気持ちで追求することが楽しいのだろう。


 鍛冶仕事をしたり鉱山の採掘をしたり、ヴァルカラン国内は今、それらに付随する仕事で結構大忙しなのだと聞かされたが、凄まじい速度で開発地が出来上がっていくのを見るに、不眠不休で動けるところにモチベーションが加わったことで彼らの仕事量は結構ものすごいことになっているようだ。


 一晩明ける度に開拓地の状況がどんどん変わっていっているのだ。

 ゴファールが斥候を放ってきたり再侵攻してきたりするまでに準備が進められるか不安ではあったが、俺の想像よりもずっと準備は早く進められそうであった。


 俺はと言えばアルタイルの修復を進めつつ、精霊を守るための魔道具や防衛用の機体、迎撃用の設備といったものをエステルと設計したり、そのために必要な魔法知識をハーヴェイやメアリ達に習ったりしている。


 そうやって俺達とエルフ達、ヴァルカランとで力を尽くした結果、休息に準備が整い、開発地と集落の守りは短期間の内にどんどん整えられていったのであった。




「一体、何が起こったというのだ――」


 ゴファール王国――城塞都市ヴィルジタリアに向かう馬車の中で、大神官グレゴールは深刻な表情で呟くように言った。


 ゴファール王国の要衝を抑えるヴィルジタリア。その城塞都市を守護する神霊にして軍神。女神ヴィルム。一国で信仰される地方神とはいえ軍神だ。彼女がゴファール王国で果たしていた役割は大きい。例えば都市や街道、軍を守る結界。軍人や兵士、冒険者といった荒事を生業とする者達の戦意を向上させ、その身体能力を強化する。ヴィルムの力を借りた神聖魔法、守護、祝福は彼らの力を底上げする。それは大国として知られるゴファールの軍事力を下支えするものであり、ゴファール王国においてはその影響力は相当なものだったと言える。


 その神聖魔法や守護、祝福が、ある日突然途切れたのだ。突然使えなくなった。

グレゴールが聞くところによれば、ヴィルム神はヴィルジタリアの神殿に籠って人前に姿を見せなくなったという。高位の神官達も同様の状況で神殿に籠って一般の信徒の面会や訪問を断っているというのだから、尋常ではない。

 何かが起こった。異常な何かが。


 王都がこの状況を重く見て使者を派遣したのは当然のことだ。が、ヴィルム神殿からの反応は鈍く、解答を引き延ばし、何が起こったのかは頑なに答えようとしない様子だったという。

 それでもこの状況を何時までも続けられないと判断したのか、出してきた答えが妹神の信徒の中から術に特に優れた一団を派遣すること、というものだった。


 そこで治癒の女神エルムディアに仕える大神官グレゴールとその側近達に白羽の矢が立ったというわけだ。


「グレゴール様や高位の神官の皆様が呼ばれたということが答えになっているような気もしますな」

「怪我か病……或いは呪いというところか……。確かに、他の神殿の神官では対処できなくとも、我らならば可能ではあるがな……」


 グレゴールの向かいに座った側近にグレゴールは顎髭に手をやって言う。

 守護や加護というものはヴィルム神も与えられるし、信仰によって神霊から力を借り受ける術の中にはそういう類の術はある。

 しかし治癒や解呪と言った術はエルムディアやその信徒の領分だ。他の神殿の同系統の術よりも数段上を行く。

 だからつまりは、側近達の言った通り、何か重要な人物が病か呪いに倒れ、手を尽くしたもののヴィルム神殿の者達では対処できなかった、ということなのだろう。


 グレゴール以下、側近の高位神官が複数呼ばれたというのは、それだけの人員が必要だとあちらが見積もっているということだ。複数人の術者が必要とされるということならば儀式魔法を求めているということかと、グレゴールは思案を巡らせる。


「しかし本当にそうであれば面倒な話ですな」

「そうさな。奴らにも面子というものがある……。くれぐれも奴らのプライドを刺激するようなことは口にせぬようにな」

「はっ。部下達にも徹底させましょう」

「それで良い。だがまあ、恩を売る良い機会でもあろう。口止めを望んでいるというのなら尚のことよ」


 グレゴールはにやりと笑う。ゴファール王国は多神教の大国だ。主要な都市を守護する神霊の力で支えられた大国である。それ故に神殿の力は強く、軍事力の一端を担うヴィルム神殿に対して貸しを作ることができるというのは大きい。あまり表沙汰にできない事情でこれだけの人員を呼ぶともなれば尚のこと。今後のエルムディア神殿の発言力は増すだろう。


「それと……同行しているエデルガルト殿下にもだ。ヴィルム神殿の内情が探りたいのなら好きにさせれば良いが、我らに関しては余計な情報を与えぬようにな」

「はっ」


 王都からは王族と、その護衛の一団が派遣されている。グレゴールでは権限がないと言われて断られるような事があっても、王族がいればその権限で対応できる範囲が広がるから同行させてほしいという名目だった。


 王家が何を考えて派遣してきたのかは不明だが、王家が独自に調査し、現状や今後への対応策を練れるように、という意図があるのだろう。

 ヴィルム神殿は軍事力にも関わってくるだけに、王家も今回の異常事態を危惧しているのだろう。民間――冒険者達の力を底上げしている部分もある。国内に出現する魔物の討伐等が滞るようになっても困る。昨今では国内に出現する魔物も強力になっていると聞くのだから。


いつもお読み頂きありがとうございます!


別作品の告知となり恐縮ですが、本日はコミック版『境界迷宮と異界の魔術師』15巻の発売日となっております!

詳細は活動報告にも記載しておりますので参考になりましたら幸いです。

本作品共々更新頑張っていきますので、合わせて楽しんで頂けたら嬉しく思います!

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