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第46話 精霊の解放

 ソフィアは更にマインラートに質問を続けていく。


「アストラルナイトを起動させる手順は?」

「……シートに座り――それぞれの登録した声を以って起動と唱えることで精霊盤が起動する……」


 マインラートが答える。


「起動は声紋認証か」

「あのパイロットの声紋の再現でしたら問題なく」


 エステルがお任せくださいというように自身の胸に手を当てて言う。それなら、起動させての解析は問題なさそうだな。


 ソフィアはそのままどうやって操るのか、ということも聞いていく。座席に座るか、どれかの水晶部分に触れていれば思考することで動かすことができるということだ。水晶部分の役割は感覚的に四肢の力配分を思考と魔力に連動させやすいからということらしい。


 機体の一部に魔力を集中させ、特定の部位を強化するであるとか、魔法の行使はその状態のまま本人が行使すればアストラルナイトが杖のような役割を果たす。

魔法が使えない者でも魔道具のように予め機体側に組み込まれている術なら発動させられる、ということだ。


 使う属性によって精霊を切り替えることで機体の特性、性能がある程度基本値に上乗せされるだとか、精霊を捕えるための具体的な方法だとか、そういった情報を引き出すことができた。


「そのアストラルナイトで森人達の精霊を捕まえた後は、どうするつもりだったのかしら?」

「……山脈……竜を……倒し、やがて、魔族を打倒、する。その為に……もっと多く、もっと強力な、機体が、必要だ……」

「竜王の山脈を突破する……? 馬鹿なことを」


 ソフィアが首を小さく横に振る。ゴファールの目的はエルフ達やヴァルカランではなく、山脈の突破か。アストラルナイトも竜達と戦い、魔族を討伐することを最終的な目標にしている、ということなのだろう。


「……もう一つ。ヴァルカランに呪いを残した……勇者が今どうしているか知っている?」

「知ら、ない……」


見ているとマインラートは身体がガクガクと震えていた。


「……そろそろ限界かしらね。忘れて、眠りなさい」


 ソフィアが手を振って血を散らすと、糸が切れるようにマインラートが崩れ落ちる。あまり長時間ブラッドドミネートを続けるのは負担があるようだな。


「もう一人の捕虜の名前も聞き出して、今後は交互で情報を引き出していきましょうか。どれほどの情報を持っているかは分からないけれど、今の政体や情勢、それにアストラルナイトがどういう位置づけの兵器か、保有している戦力は……ぐらいなら聞けると思うわ」


 ソフィアが言う。

 名前は――どちらかから聞き出せば、もう一人の捕虜にもブラッドドミネートが使えるわけか。

 そして、アストラルナイトを使っての目標も聞くことができたが……。


「……アストラルナイトなら山脈を超えられるのか?」

「分からないわね。アストラルナイトもだけど山脈の竜も戦力の全容が見えていない。少なくとも、マインラートは勝てる、と見ているのでしょうけれど」


 今の言葉はあくまでマインラートの認識や見解であり、嘘はつけなくてもそれが現実に即しているかどうかは分からない、とソフィアは言う。

 ソフィアとしてはアストラルナイトがどれほどの力を引き出せるのか。それに対して山脈の竜はどのぐらいの強さのものがいるのか。それらが不明だから勝敗の予想ができないということだ。


「竜の強さは……生前は飛来した場合に大きな被害を齎す災害のようなものだったけれど、今の私達なら散発的にやってくる程度の竜ならば撃退や討伐はできるわ。もっとも、今となっては竜も私達に近付こうとしないけれど」


 ヴァルカランの面々と戦っても、自分達の被害が増すばかりで不毛だ、というのは人も竜も同じなのだろう。

 ゴファール王国もそれは同じだ。いつアストラルナイトが実用化したのかは知らないが、これまでヴァルカランに手出しはしてこなかったし、今回のことでもヴァルカランは攻撃目標にはなっていない。


 ヴァルカランの国内を踏破して魔族の討伐に向かうよりは、アストラルナイトを使っての山脈越えの方が現実的だと……少なくともマインラートや彼が所属する派閥ではそう考えられているというわけだな。


「まあ、組織というのは一枚岩ではないですからね。マインラートやその派閥のゴファールでの評判や立ち位置も分かりませんし」

「……情報が足りていないか。客観的な判断や分析をするなら、やっぱりゴファールに情報収集に向かう必要があるな。それも……集落の守りをまず固めてからか」


 マインラートが率いてきた部隊が全滅したことでしばらくは鳴りを潜め、斥候を出してきたりするとは思うが、備えは疎かにできない。


「ハーヴェイは錬金術やゴーレム技術でソーマや森人達の力になれるかもと言っていたわね」


 ソフィアがそう言うとエステルが頷く。


「そうですね。ヴァルカランで読ませてもらった魔導書からの印象だと、活用も出来そうですが……」

「防衛のために必要な装備や設備、修復や新造やらはゴーレムで代替部品を作るって言うのはどうだ?」

「ああ。電子回路や重要部品の代わりですか。それは……確かに良さそうですね」


 単一能の小さなゴーレムを作ることで、代替部品にするわけだな。素材が足りなくても修復が進むし、旧世代機や防衛装置を再現するのにも使えるだろう。




 修復を進め、機体の新造も含めて防備を整えたらゴファールに調査に赴くということで先々の方針も纏まった。

 まずは解析ということで、シートとエンジン部分だけで一度実際に動かしてみて、魔力の動きなどを実際に観測してから精霊の解放を行う。


『起動』


 エステルがパイロットの音声を合成して響かせるとシート下部の精霊盤に魔力が宿る。思考することで動くし、属性の切り替えも思考できるという情報をソフィアが引き出してくれている。

 鉤爪のアストラルナイトに囚われている精霊は2体。風と闇の精霊が宝石に閉じ込められているようだ。隠密性を重視する軽量機体だから直接戦闘はそこまで重視されているわけではない。


 手足を動かすイメージや精霊を切り替えるイメージを送ると精霊盤が反応を示し、魔力の動きをエステルが観測し、アルタイルのナノマシンリソースを使っての解析を行う。

フラリアやメイアも姿を見せて、実際外部への精霊への影響がどういう作用になっているのかを調べる。


「精霊の共鳴、と言えば良いのでしょうか。それによって魔力の増幅を行っているようです。解体して調べた時に四肢や身体の各所にもフレームの内部に何か刻印や宝石が組み込まれていましたが、シミュレートすると、それを以って更なる魔力の増幅を行っているようですね」

「共鳴ね。なら、複数の精霊を組み込めば組み込む程強力な機体になるってことか」


 精霊達の力を減衰させる仕組みも観測できている。


「この辺の距離から……何だかぼーっとして、あまり力が出なくなる、かも」


 と、泉の精霊メイアが教えてくれる。ルヴィエラが赤い髪の精霊だったのに対し、メイアは青い髪色で毛先やドレスの裾が水のようになっている。


「どうも、精霊の意思を弱める、という仕組みの術が組み込まれているようですね」


 精霊盤は組み込んだ精霊に対して、意思を弱めさせた上で部品のような役割を果たさせている。そのフィールドはそのまま組み込まれていない精霊達に対しても減衰作用を発揮する。


「私達は各々の意思を以って世界に影響を与えているわ。意思を減衰させられるとその影響力が少なくなる……かも」


 木の精霊、フラリアが言った。こちらは髪飾りのように花が生えていたり、手足に蔦がまきついているような姿だ。


 しかし、世界への影響力か。なるほどな。


 機体自体に仲間からの減衰フィールドを防ぐ機構がある他、エンジンの動力として起動している精霊に対して減衰フィールドは作用しない、といった仕組みになっているようだ。

眠らされている精霊の代わりに、パイロットが精霊の意思の代わりを担い、人間の術で精霊の世界への影響力と機体の質量、と共に大きな魔力を行使することができるようになるというわけだ。


 その意識レベルを下げる作用自体を無効化する魔道具を作れば、対策ができるということになるな。これはアストラルナイトの根本に関わる仕組みでもあるから、十分な対策とも言える。


 ついでに言うなら、エステルは意思とは関係なくプログラムを走らせることができる。あまりそういう影響力のようなものは問題にせずにハッキングに対する防御行動ができるから、最初から相性が良かったわけだ。


「これなら対策はできそうだな」

「そうですね。仕組みや理論が分かったので何とかなりそうです」

「ヴァルカランの人達の呪いも解決したものね。頼もしいわ」

「ええ。小さな子達も守ってあげられそう」


 メイアとフラリアはにこにことしながら手を取り合って喜んでいる。ウンディーネとドリアードということだが、明るい笑顔ながらも神秘的な印象の少女達という感じで、エルフの集落の雰囲気をそのまま人にしたら、という印象がある。


 そんなメイア達の様子を眺めつつ、エステルは解析を進めて、うーんと声を漏らす。


「何か問題があるのか?」

「いえ。少し気になる部分があって。精霊盤には何か動作そのものに使われていない独立した領域があるようです。アストラルナイトの動作や魔法行使、精霊盤の制御に関係ないようなので、その部分の動作確認ができていないのですが」

「動作させられないと流石に解析は難しいか」

「専用の術で起動する必要があるようです。その専用の術というのがパスワードのようなもので……多分、管理用かメンテ用という印象ですね。パスワードは流石に設計者のみぞ知る……という感じでしょうか」

「まあ……管理用なら今は重要度も低めか。俺達は精霊盤やアストラルナイトを再現したいわけじゃないしな」

「そうですね。使えそうな技術や理論だけ使わせてもらう感じで十分です」


 精霊を宝石に封じ、眠らせて部品のように扱う。そんなものは再現などすべきではないからな。




 解析も終わり、今度はいよいよ精霊達の解放だ。これについてはライヒルやマデリエネ、ハインが儀式場を作って待機していた。精霊に祈りを捧げ、こちらからの願いを伝えたり、精霊が怒って荒ぶっているようなら宥めたりできるらしい。


「今回の精霊達は眠らされていますから、目覚めていきなり暴れ出すということはないと思います。最初に助けたことを伝えれば、順調に解放を進められるのではないかと」


 マデリエネが教えてくれる。精霊達の味方、ということを伝える意味でも、エステルやメイア、フラリアも姿を見せておいた方がいい。小さな精霊達も囚われている精霊が心配なのか、儀式場の周りに多数集まっていた。


 宝石を割れば解放できるということで、ライヒルが石の祭壇の上で精霊盤から取り外した宝石を固定する。


「フラリア」

「うん」


 精霊術を使えば、光が走って宝石に亀裂が走る。そして――そこから先程とは違う光が溢れた。


 閉じ込められていた風の精霊だ。最初はぼんやりと光っていたようだが、マデリエネやハイン、シルティナといった儀式場の周りに集まったエルフ達の祈りや願いに反応しているようだ。自分の置かれた状況、どうやって解放されたのか。それを理解したのか、穏やかに明滅する。


「普通の精霊達は素直なものだな」


 その反応にライヒルは笑顔を見せる。囚われている精霊達はまだまだいる。続けて宝石を祭壇にセットし、ライヒルは精霊の解放を続けていくのであった。

いつもお世話になっております


引き続き別作品の告知となっておりますが、12月25日発売予定の

コミック版『境界迷宮と異界の魔術師』15巻の特典情報が公開となっております。


活動報告に詳細を記載しておりますので、参考になれば幸いです。


引き続き更新頑張っていきたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
ヴァルラカンの侵略とか無理だもんな…… 砦や街を作っても内側に回帰で出現されるから防衛戦が成り立たないし、疲弊しない敵兵が無限湧きするからどれだけの金と資材を注ぎ込んでもマイナスにしかならない。
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