第43話 感謝の想いと共に
『お、のれ……えッ! 我に、何を、何をした……ッ!?』
ヴィルムはまだ声を上げていた。
「力を使おうとするのは止めておくことです。外に対して魔力を行使しようとしたり、私達に攻撃の意思を持つと耐えられない程の激痛が走るようにプログラムを組みました」
『貴様……許さぬ、ぞ……!』
ヴィルムは凄むように言うが、エステルは気にした様子もない。
「別に……貴女に許してもらおうとは思いませんね」
「都市の守護神だとか言っているのに、やっていることは外に出てきて略奪の手助けだしな。許さないってのは、こっちの台詞だ」
エステルと共にそう答える。
『お、のれ……覚えておれ……! 必ずや貴様らを殺してやる……!』
「……忠告しておきますが。その枷を外そうとするのは止めておくことです」
エステルが言うも、ヴィルムからの返答はない。バラバラになったヴィルジエットの胴体から急速に魔力の反応が薄れていく。分霊とやらが、この場からいなくなったらしい。去ったのか、消滅したのかは知らないが。
マインラートとか言うのは……一応生きているか。バラバラに刻んだから魔法障壁も展開できないまま落下し、その時の衝撃で意識は失ったようだが、生命反応はある。
「……打ち込んだのはウィルスか? 攻性防壁だけじゃ痛みは持続はしないだろうし」
一応エステルに確認を取る。
「そうですね。情報体に対するカウンタープログラムです」
「なら、あいつに関しては問題なさそうだな」
「大丈夫だと思います。ヴィルムは最後に焦ったのか、マスターにまで直接呪いを向けようとしましたからね。甘いことはしませんよ」
そう言ってエステルはにっこりと笑う。
「ああ……それで怒ってたのか」
エステルはにこにことしているものの、俺に手出しされそうになったから、かなり怒っているようだ。
エステルを怒らせたことも含めて、ヴィルムは悪手を打ったな。
焦ったのだろうが俺に呪いを向けるということは俺の内部にいるエステルにも直接接続しながら電子戦を挑むようなものだ。軍用ナノマシンとして解析、分析などの戦闘支援だけでなく電子戦でのサポートも行える役割を担えるのだ。神霊だか何だか知らないが相手が悪すぎる。
しかし、どんなウィルスを叩き込んだのやら。多分、説明したような内容が全てじゃないんだろうが。
「……ま、いいか」
「ですよ。人を呪わば、なんて言葉もありますし。加えて言うなら、ウィルスはスタンドアロンなのでこちらには返しようもないものですが」
そうだな。さっきも言った通りだ。こんな略奪に手を貸すような神なんか、ろくなものじゃない。
とりあえず、マインラートともう一人。生きているパイロットがいるはずだ。こいつらは回収して捕虜にしつつ、情報を引き出さないとな。
怪我人の治療と共にエルフの集落の守りを固め……敵機体の解析と精霊を抑制する特性への対策を練りつつヴァルカランとの協力も継続して情報収集を……と、やることも色々だ。緊急性の高いものから順に片付けて行こう。
敵機体の機能停止で精霊の動きを阻害する力が失われたことと、ルヴィエラの降らせている雨とで、エルフの森の火災は鎮火したようだ。森林火災は木の中や土の下に火が残っていて再発火する可能性があるから少しの間は要観察ではあるが、エルフ達の管理下で精霊達の守りもある。ひとまずは安心だろうか。
『大したものね。私に使った光の剣の比ではなかったけれど、それでまだ修復中なのよね?』
意識を失ったマインラート達を拘束し、アルタイルの掌に運んでいるとソフィアが声を駆けてくる。
「ああ。機動力も制限があったけど飛び道具の類がほとんど使えなかったからな。そっちが使えたら、もっとすぐに終わっていたと思う。それよりソフィアは大丈夫なのか?」
『傷はもう回復しているわ。吸血鬼だもの』
「それならまあ良かった」
『まあ……そもそも不滅なのだけれど、それでも誰かから心配してもらえるというのは嬉しいものね』
そう言ってソフィアは少し笑う。
『ソフィアを助けてくれて、ありがとう』
「いいさ。それより、ヴィルムだったか。神霊だとか言っていたけれど」
ルヴィエラに答えてからヴィルムについて尋ねる。
『城塞都市の守護を担う、隣国の軍神の一柱……地方神だったかしらね。私達がまだ生きていた時代にもいたはずよ』
『神霊と言っているけど、本質的には私達、精霊と同じ。司るものが都市で、信仰の形が違うだけ。ちなみにヴァルカランは精霊信仰の国だった』
二人が答えてくれる。……なるほどな。その分霊が宿っていた辺り、ヴィルジエットはそれなりに特殊な機体なんだろうが。あいつらの機体を分析すれば分かることもありそうだ。
「捕虜からの情報収集なら任せておいて。平和的に残らず引き出して見せるわ」
ソフィアがにやりと笑う。ああ。血に聞くという奴か。マインラートともう一人、捕虜にすることができたわけだし。技術屋や政治家じゃなくて軍人がどこまで情報を持っているかは分からないが、少なくともこうなった経緯や作戦の目的あたりは色々聞けるだろう。外の情勢や常識等も色々分かるとは思う。
『拷問にかけるよりは人道的だし合理的ではあるわ。血を媒体に一時的な精神支配の術をかけるだけだから、吸血の類ではなく……血魔法とでも言うのかしらね』
「なるほどな」
それぐらいの方法ならエルフの集落で行おうとしていたこともまあ、穏便ではあったのか。
マインラート達にそれを使うことについては、別に問題ないだろう。
俺はテロリストの排除に協力したようなもので、別に勢力の代表ではない。個人的なマインラート達への心情としても別にという感じだ。軍規的にも魔法等のファンタジーな手法の尋問に対する規定もないしな。
「転がっている敵の巨人も調べるのでしょう? 私達が集落近くまで運んでいくわ」
「任せて」
ソフィアとルヴィエラがそう申し出てくる。
「それじゃあ、頼んでも良いか?」
頷くと大きな空中に水の球が生まれて、敵機体を包んで空中に浮かべる。
そうして俺達はエルフの集落へと戻った。
『お帰りなさい、ソーマさん、エステル様!』
『ソーマお兄ちゃん……! エステルさま!』
『無事で良かった……!』
広場にゆっくりとアルタイルを降ろすとシルティナ達が駆け付けてきて声をかけてきた。
「ああ。とりあえず連中は全滅させてきた」
そう答えながらハッチを開けて顔を見せると、シルティナ達は嬉しそうな笑顔を見せる
「集落のみんなは無事か? ライヒルさんやハイン達は怪我をしていたようだけれど」
「ええ。どうにか。怪我の重い人もいたけれど、メアリさんがすごい治癒術を使えて。今は消耗していても少し休めば元通りに動けるだろうって」
地上に降りてシルティナが視線を巡らす先を見れば、マデリエネに肩を貸してもらいながらこちらにライヒルが歩いてくるところだった。
「ライヒル様は……怪我は治っても魔力が枯渇しているから、まだあまり動けないのだけれど」
「怪我でというわけではないのなら良かったです」
エステルが笑みを見せるとソフィアとルヴィエラは満足そうに頷く。
「長老、だったかしら。話をしてみたいと思っていたから無事で良かったわ」
「精霊達も、みんな無事」
「木々が焼けたが、精霊に影響は?」
「少し力を消耗する感じ。森全体が無事で、住む場所は守られてるから、その内精霊は力を取り戻すし森も復活する」
そうか……。それなら被害こそ出たものの深刻ではない、ということにはなるのかな。森が焼けたことで他にも色々なところに影響はあるだろうが……。
話をしているとライヒルがやってくる。集落の樹木を守護する樹木の精霊フラリアと泉の精霊メイアもマデリエネと一緒に付き添ってきたらしい。
「まず、集落と皆を守ってくれたことに礼を伝えたい」
そう言ってライヒルは俺やエステル、ソフィア、ルヴィエラに感謝の言葉と共に頭を下げてくる。
「死者は……出なかったんですよね?」
「ああ。そこは本当に喜ばしい。かなりの怪我をしてまだ意識の戻っていない者もいるが、メアリ殿が治癒魔法で命を繋いでくれた」
そうか。医療用ナノマシンの活用も考えてアンプルをメアリに渡していたが、エルフ達に使って大丈夫かは検証を済ませていないから、治癒魔法でもどうしようもない場合に、本当に一か八かで使って欲しいとだけ伝えていた。
接合や再生にも使えるから、場合によってはとも思っていたが。ひとまずその必要はなさそうだ。
「まあ、うん。無事で良かったよ」
笑ってライヒルの言葉に答え、お互いの無事を喜び合う。エルフ達は口々に礼を言って俺達を迎えてくれた。
少しの間集落は俺達に対してエルフ達の帰還を喜ぶ声と感謝の声で溢れていた。
「しかし――敵の巨人達を運んできたようだが、あれはどうするのだ?」
それが落ち着いた頃合いでライヒルが尋ねてくる。
「内部のパイロットを埋葬して、内部に囚われている精霊を解放するつもりだ。残った機体は解析かな。精霊の力が抑えられていたし、精霊の認識を誤魔化す方法があるみたいだから、それを調べて、同じような方法で襲撃ができないようにする」
ついでに言うなら、鹵獲した機体の技術流用と代替技術の活用で、精霊をこんな形で活用することなく、エルフの里やヴァルカランを防衛する戦力を整えてやりたい。こっちの世界の技術と俺達の世界の技術でハイブリッドの設計なら色々融通が利くのではないだろうか。
そうした考えを説明すると、ライヒルが目を瞬かせる。
「我らが巨人を扱うと?」
「あくまで案ですよ。アルタイルは軍事機密の塊みたいなもので解析の制限が掛かっているから同じものは作れないし、そもそも普通の身体だと乗りこなせません。迎撃用の設備だったら他にも色々ありますし」
精霊による駆動方式も、エルフ達には認められないだろうから別の動力炉を作ることになるか。俺達の世界の旧世代の動力炉を、こっちの技術や魔力絡みで上手く再現したいところだが
「旧来の技術を流用した機体なら……一応設計もできますね。こっちの世界に合わせて、魔力を利用して動くような動力炉にするのが望ましいでしょうか」
エステルが思案を巡らせながら言った。
「興味があるお話ですな。錬金術での形成等できるでしょうか」
やってきていたハーヴェイもそう言って興味を示す。
「今回の戦いを踏まえるとヴァルカランにも備えとして用意しておきたいところではあるな」
ソフィアはルヴィエラを守るために奥の手を隠していたようではあるが、それでもソフィアを抑えていた強固さは、他の者だと生身で対抗するのは難しい、ということを示している。
アルタイルならばあのぐらいの戦力なら対応できるとは思うが……あいつらにとって一機一機の価値や製造コストがどれぐらいか分からないから、敵保有戦力の見積もりがまるでできないというのが困りどころだ。新型機のテストも兼ねていたようだし、近くにヴァルカランもあるから、それを思えば作戦に必要な戦力以上のものを用意してきたとは思うのだが。
いずれにせよ、アルタイル以外にも対抗できる戦力を保有しておくことが大事だ。相手に攻めることに重大なリスクがあると判断させれば思い留まらせることができる。
それと並行してアルタイルの修復は更に進めておかないとな。
「ふむ。当面の守りや備えというのなら、焼け落ちた森に、私達が姿を見せて警備するというのはどうかしら?」
ソフィアが思いついた、というように言って、みんなの視線が集まる。
「勿論、貴方達が良ければの話よ。この森は貴方達のものとして私が認めている。仮に私達がこの森で行動している最中に魔道具を破損や紛失をした場合、憎悪に駆られる前にヴァルカラン国内に回帰することになるから、突発的な事故も防げるわ」
「なるほど。その上で、国外で活動できるようになったことを知らない人間族に対する牽制になる、というわけですか」
マデリエネが感心したように頷く。魔道具で活動することができるようになったという事情を知らなければ敵としてはこの森もヴァルカランの領分だと見なすから、踏み込みにくくなるというわけだ。
ヴィルムの本体経由でアルタイルやソフィアの出現は伝わっているかも知れないが、経緯などは想像するしかないわけだしな。
「私達にとっては有難い話ですが……世話になってしまって恐縮ですな」
「良いのよ。私達にとっても因縁のある相手だし、あいつらの目的が私達にまで手を出すことかは分からないけれど、国境近辺でこんな真似をされて、黙ってみているというわけにもいかないわ。ここは協力させて頂戴」
「それに、私達と協力できる勢力は、今現在多分ここだけ」
ソフィアの言葉にルヴィエラが付け足すように言う
「……では、これから先、よろしくお願いします、女王陛下」
ライヒルが少し笑って穏やかな表情で答えると、ソフィアも頷く。
そうやって話をしていると、そこにメアリが浮遊しながらやってくる。
「怪我人の方はもう大丈夫です。一番怪我の重かった方も容態が安定して顔色もよくなってくれました」
「感謝する、メアリ殿」
ライヒルが明るい笑顔で頭を下げると、シルティナ達もメアリにお辞儀をして礼を言う。そんな対応に、メアリは目を細めて微笑んだ。
「いいえ。私の方こそ、憎悪に飲まれることなく、こうやって再び誰かの命を守れるようになったことを、嬉しく思っているのです。ですから、感謝の言葉はソーマ様とエステル様に」
「いや……。手伝いを申し出てくれたのは間違いなくメアリだしな」
メアリの言葉に少し笑って答えると、アリアとノーラが改めて礼を言ってくれる。
「うん。でも、また私達の時みたいに、みんなを助けてくれて、うれしいな」
「ソフィアお姉ちゃん、ハーヴェイお兄ちゃん、メアリお姉ちゃんもありがとう」
俺達に対する礼はさっきここでみんなから掛けられていたからな。改めて言われたソフィア達は、少し驚いたような顔をする。そして。
「――どういたしまして」
そう、微笑んで返すのであった。
エルフ達からのソフィアやメアリ、ハーヴェイへの視線は柔らかいもので、これを見ていると今後の協力関係も上手くいきそうで、何よりだ。今回の窮地に、ソフィア達が協力してくれたこと、ヴァルカランの事情を知っていることが大きい。前回は森の保有を認めて後は不干渉といった感じであったが、この話の流れからすると同盟関係に近くなるだろうか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
書き溜めていたストックが尽きますので以降は、2、3日置きの更新になるかなと思います。
今後とも更新頑張っていきたいと思いますので、
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