第40話 奮戦と加勢と
「機体から生命反応は消えましたが、精霊の魔力はそのまま残っていますね」
「魔力を伴わない物理的な損壊は精霊への痛手にはならない……。シルティナに確認を取っておいた通りだな」
といってもエルフ達の常識外になる重粒子砲やらグラヴィオンバスター、プラズマトーチを直撃させて精霊達が大丈夫かは不明だし、組み込まれているその状態も不明だ。だから、エステルの制御を正確なものにするためにも、今回はまず物理的に破壊して精霊達の座標を正確に把握しておく必要があったのだが。
空中を出力調整したスラスターで飛翔。鉤爪達の眼前に地面に降り立つ。
『う……』
『こ、こいつ。空中でなんて動きをしてやがる……』
『怯むな! 地上にいるなら攻撃も届く!』
『な、舐めやがって!』
その爪に魔力の光を宿らせ、飛び掛かってくる。火花を散らすような音を立てて、空中でそいつらの動きが阻まれた
『な、なんだ?』
『ま、魔力障壁……!?』
前方。展開されたシールドで鉤爪の斬撃を止めた形だ。シールドと爪に宿った魔力が妙な干渉を起こして火花を散らしているが、こちらの防御を破るには至らない。
シールドは位相融合炉絡みの技術だ。空間の歪曲から生じるエネルギーフィールドを纏う。質量兵器もエネルギー兵器も接触すれば弾き飛ばされるか、場合によっては物理的な連続性を断たれて破壊される――はずなんだがな。どうも魔力が籠ったものとぶつかると破壊ではなく妙な干渉で反発が生じるようだ。爪だけでなく、奴らの展開している魔力障壁ともぶつかり合って干渉波が出ているのを観測している。
ちなみにシールドは連続して攻撃を受け続けると減衰してしまうから、あくまでも回避の補助だ。再展開にはチャージが必要ではあるが――。
こっちにも防御手段があるのを確認し、警戒したのか奴らは後方に跳ぶ。
「……演算完了しました。余計な方向、機関に向かう高熱は、私が全てリアルタイムのハッキングで抑えます」
「ああ。余計な時間をかけているわけにもいかないしな」
まだ使える武装の一つ。エステルの言葉とアルタイルの背から光のラインが走る。エステルがハッキングを使った時と同様だが、その出力が違う。遥かな広範囲にエステルの制御が届く。
スラスターを吹かして間合いを詰める。敵機体のコクピットと思われる場所――その少し上を輪切りにする軌道でプラズマトーチを展開しながら振り抜く。
魔力障壁も、鉤爪も。一瞬火花が散って干渉しているのが見えた。恐らくもっと高出力の機体なら受け止めることができたかも知れないが、向こうの出力や強度が足りていない。
諸共に切り裂いて、鉤爪の胴体が泣き別れになる。切り裂いて尚、精霊の気配はそのまま。そして精霊の組み込まれた機関に向かうはずであった熱量は、エステルが瞬間的に遮断している。
『隊長!?』
『何だ、あの異常な威――』
最後まで言わせない。後方に切り抜けた俺の動きを追おうとして、背後からレーザーでコクピットを撃ち抜かれていた。
方舟の決戦は高速機動の突入戦で、求められるものが違い過ぎて出番のなかった兵器だ。支援型レーザードローン。白兵戦で本体に追随して立体的な射撃による支援攻撃を行うことのできる武装だ。魔力障壁とやらは撃ち抜けなさそうだが、あれも常時展開しているわけではないようだしな。
熱量が余計なところに向かわないというのなら、ドローンのレーザーやプラズマトーチ、スラスターも存分に使える。
『だ、駄目だ……。逃げ……』
背を向けたところを背後から追いつき、そのままコクピットのやや上を狙って背中から刺し貫く。残り一機。こいつも既に逃走に移ろうとしている。跳躍して巨木の幹を足場に、風を纏って集落の外に向かって跳ぼうとしているようだった。
「遅い」
スラスターを吹かして飛翔。跳躍した鉤爪の正面に回り込むように移動して高速旋回しながらプラズマトーチを振りかぶる。
『お前は一体――何なん』
問答も交渉もいらない。すれ違いざまに回転。光の軌跡を残して斬り伏せる。地面に向かって落ちていく機体を見届けながらも、そのままスラスターを吹かしてソフィアとルヴィエラのいる方角へと突き進む。
「私のハッキングの範囲は、障壁を破り、敵機体を破壊する瞬間までは、その内側にまでは効果を発揮しないようです。連中の纏う魔力障壁か、或いは機体か。それとも乗り手か。これらを破壊した瞬間に熱量制御が届くようになりました」
「機体そのものが魔法的な結界みたいなもので、抵抗力が働くのかもな。まあ、機関部への直撃を避けて破壊すれば問題ないってことだろう?」
「はい」
「なら、海賊相手と変わらないさ」
エンジンへの直撃を避けつつ撃破する。それだけの話だ。エステルの制御が届いている間は、割と大雑把な狙いでもパイロットだけを仕留められる。
迫る白光を赤い結晶の防壁で弾き、大上段から振り下ろされる斬撃をすり抜けるように避ける。膂力に任せて蹴り飛ばせばアストラルナイトの巨体が揺らぐ。
どうも、魔法障壁は常時展開しているというわけではなさそうだ。不意を衝く。飽和攻撃で全包囲から攻撃を浴びせるといった方法で防御を抜いて機体に直接攻撃を当てることができる。
4機のアストラルナイトを相手に、ソフィアは引かない。身体のあちこちを白光に焼かれ、白煙を上げながらも好戦的な笑みを見せながら飛び回り続けていた。
『化物が!』
横薙ぎ。唸りを上げて迫る斬撃に、ソフィアも真正面から合わせる。爪の形を巨大化させたような長大な赤い閃光が走り、斬撃とぶつかりあって弾かれる。
「ソフィア、もう、私と」
「まだよ。精霊を支配するような力がもし貴女に及んだら、私は大切な友人を失うことになる。だけれど、私は死ぬことはない。だから、この場での勝敗は私が死ぬことではないわ」
ルヴィエラの声に、ソフィアは答える。奥の手はある。しかしそれは精霊騎士としての力だ。今の目的は別動隊以外の敵――こいつらをエルフの集落に向かわせないこと。ソーマが駆け付けるまでの時間を稼ぐこと。それだけだ。勝つことは目的ではなく、エルフ達に何かあるのと同様に、ルヴィエラに何かあるのもソフィアにとっては敗北に等しい。
対して自分は、この場で死んでもいい。分析し対策を立て、次があるならルヴィエラと共に叩き潰すように準備を整えるだけの話だ。それこそが不死不滅の優位性なのだから。
「だから、私が敗れるようなら、貴女は即座に退きなさい」
「……分かった」
言いながら切り結び続けるソフィアに、ルヴィエラは感情を押し殺したような声で答えた。
十分に距離を取り、影響が及ばない位置から主の戦いを眺め続ける。
アンデッドであるソフィアには基本、肉体的な疲労というものがない。それでも膨大な魔力は消費し続けている。一対一ならばソフィアが圧倒するだろう。だが、4機が入れ替わり立ち替わりともなれば、防御能力に優れたアストラルナイトを仕留め切れない。防御をぶち破り、装甲を破壊しようとしている間に横槍が入るからだ。
そういう意味では、アストラルナイトは恐るべき兵器と言えた。4機で最上級のアンデッドと渡り合える。ルヴィエラが力を使えれば質量というハンデを覆して拮抗を崩せるだろうが、だとしてもそれをソフィアは良しとしない。
人間達は一体何と戦うつもりでこんな兵器を作ったのか。魔族か、それとも。
ルヴィエラは眉をひそめる。
それでも。ソフィアは笑っていた。獰猛で好戦的な笑みのままで暗黒の渦を纏い、白光を突き抜けながらも長大な結晶剣を作り出して力任せに叩きつける。盾で受けたアストラルナイトは受け切る事が出来ず、よろけるようにたたらを踏むが、仲間の隙を補うように別の機体がソフィアに迫ってくる。斬撃。回避。避けた先に白光が放たれる。
身体のあちこちを焼き焦がされながらも立ち回るソフィアに、ルヴィエラは自身の不甲斐なさに歯噛みする。
何故。自分は共に肩を並べて戦えない。友があれほどの戦いを見せているというのに。精霊である自身の身をこれほどまでに悔しく思うのは初めてのことだった。
その時だ。集落の方から高速で接近してくる反応があった。
「ソーマ……! エステル……!」
振り返る。後方から光を放ちながら飛来してくる大きな機影があった。アルタイルのシルエットが急速に接近してきて――。
『邪魔だッ!』
アルタイルは青白い輝きを放つ、長大な光の刃を噴出させると突っ込んできた勢いのままにそれを結界へと振り抜く。切り裂かれた瞬間にそこから結界が裂けて、アルタイルはソフィアとアストラルナイト達の間に割って入るように地響きを立てながら地面に降り立った。
『な、に?』
『我らの結界を破っただと……?』
『何だ、あのアストラルナイトは……』
やはり、そういう反応になるか。別の世界から来た全く別系統の機体だとは、想いもしないのだろう。確かに想像の埒外ではあるだろうが。
警戒しながら構えを取る連中に向かってこちらもプラズマトーチを構えつつ、ソフィアに言う。
「……悪いな。待たせた」
傍らで羽ばたくソフィアの身体は、頬や手足……あちこちが黒く焼け焦げていた。
結界もそうだったが、光の魔法を幾度も浴びせられた結果なのだろう。それでも、ハイン達を逃がし切り、俺が到着するまで戦線を持たせてくれていた。こんな質量の違う兵器相手に、多勢に無勢という状況でだ。ソフィアは精霊騎士だと聞いたが、ルヴィエラの支援も恐らく、断ったのだろう。こいつらが精霊の力を抑え込むことから、正体が分からない内はルヴィエラを前に出せないと警戒したのだろうが。
『ええ。待っていたわ。少し疲れたから、後は任せても良いかしら』
言いながらも、ソフィアの火傷は少しずつ回復し続けていた。
「ああ。こいつらはきっちり叩き潰しておく。怪我は大丈夫か?」
『これぐらいなら、その内元通りになるわ』
「それなら、良かった。時間稼ぎをしてもらってソフィアに傷跡が残るようなことになったら、ヴァルカランの皆に顔向けができない」
『ふふ。吸血鬼で不滅の私達にはいらない心配だわ。けれど、ありがとう』
ソフィアは少し笑ってルヴィエラのいるところまで下がる。すれ違う最中、『後方に大きな反応がもう一体控えているわ』と真剣な声色で教えてくれる。
「少し距離を取っているようですが、こちらでも確認しています」
エステルが答える。
警戒は必要だが……まずはこいつらを叩き潰さねばならないだろう。
まずは、観察する。集落を襲撃した機体よりも一回り程大きく、装甲も重厚だ。長剣と大盾を装備している。ソフィアとの交戦で装甲表面に傷を負っている者もいるが、
「……精霊の魔力が先程戦った機体より、かなり大きいですね。恐らく複数の精霊を動力として組み込んでいるのでしょう」
なるほどな……。見た目の印象は重装甲だが、先程の機体より瞬発力があるかも知れない。精霊から引き出せる力が未知数である以上、この技術を用いた兵器のポテンシャルが見えていない。白兵戦に加えて、魔法を攻撃手段としていることも、見た目から武装や攻撃方法を推し量ることができないということでもある。油断はすべきではないな。
『貴様、一体何者だ? どこかの国の騎士か?』
と、剣を突きつけながらもそいつは俺に尋ねてくる。
……どこの国か、と来た。
少なくともこの世界において、この兵器は個人が所有できるものではなく、一国だけの技術でもないということか。エルフ達の社会は人類の生存圏にあって辺境に位置していて文化的な交流も断絶している。ヴァルカランも同様だ。エルフ達もヴァルカランの人々もこういう技術を知らずにいたが、複数の人間の国に跨って存在している可能性がある。
「大義名分もなく略奪目的で攻撃してくる輩が、恥ずかしげもなく騎士気取りか? 精々が盗賊だろう、お前らのやっていることは」
『何だと……貴様……!』
そう言って気色ばむ。身を乗り出すように動くその挙動が、少し人間じみている。さっきの鉤爪共もそうだが、どうも連中の感情は機体の動きが、乗り手の感情や思考に左右されているところがあるようだ。思考入力型の制御系統か。
アルタイルも部分的にそうなっているところはあるが、ああいうちょっとした仕草のような部分で機体の動きに影響が出たりはしない。
「いいから来い。それとも、生身の相手じゃないと戦えないか?」
こちらは意識して機体の動きを制御する。マニピュレーターを動かし、手招きするような仕草を見せれば、それは『愚弄するかっ!』と咆哮し、背面から光と魔力を噴出。滑るような動きでこちらに向かって突進してきた。




