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第37話 炎の森で

 外界はヴァルカランにはノータッチだ。仮に、エルフ達から巨人と称されるような技術が人間族の間で開発されていたとしても、そうするだろう。

 倒しても復活して、土地の中ならどこにでも自由に回帰してくる。そんな敵がいる土地に攻め込んで制圧するメリットは無い。巨人のような兵器があったとしても駐留することもできず、ただただ消耗させられるだけでは補給や整備もままならない。


 だからその近隣ぎりぎりに住んでいるエルフ達も、ヴァルカランを突きたくない人間族からは基本的に放置される立ち位置である。事実として人間族との交流はほとんどない、と言っていた。


 ヴァルカランを刺激しかねないのにエルフ達の集落を攻める理由。そんなものがあるのだろうか。単なる魔物の襲撃であるというのなら、それはそれで対処しやすいと言えるが、精霊から支援を受けられるエルフの戦士達が、森というフィールドでそれが魔物かどうかを見間違うだろうか?


 ……先日から人間族を森で見かけなくなっていたという、ハインの言葉。森に侵入してきた人間達の手札も不明。そういった諸々を加味して考えると、色々ときな臭いのも事実だ。エーリクが怪我をして戻って来たというのもそうだが、エルフの集落を目的としている可能性は十分にある。例えば、人的資源を確保するため、か? 奴隷にする……或いはエルフの持つ技術や知識が目的? 分からない。推測するには情報が足りていない。


「アルタイルが動かせるようになったらすぐに向かうのでしょう? 私とルヴィエラも同行させてもらう――いえ。私達が先行しても良いわ」

「良いのか?」

「ええ。巨人というのが何かは分からないけれど、何かしらの役には立てると思うわよ。最悪、手も足も出ずに敗れたとしても、情報は持ち帰れるもの」

「……巨人がもし、アルタイルと同じものだと思ったのなら、無理に戦わずに退いて欲しい。ただ……それよりも厄介な手合いもいる。エステル。奴らに関する映像も」


 俺がこっちに来ているのだから、俺の世界の兵器や金属生命体群がこっちに来ていないとは限らない。

 エステルは頷き、金属生命体群の立体映像を空中に映す。生物と金属が半端に融合したような姿。金属が生物のパーツを模しているような姿。身体が変形して銃座を作り出してそこから光線を放っている光景。そういった後継。


「金属のような……生き物のような……気持ちの悪い連中ね」

「こいつらが俺達の戦っていた敵だよ。もし、こういう奴らなら、もっと危険だ。姿形は都度変化するけれど、周囲を取り込んで奴らと同じものにしていってしまうから、そういう特徴が見られるなら撤退を優先させてほしい」


 ソフィアを見ながら真剣な表情で伝える。ソフィアはその表情から何か思うところがあったのか、こちらを見ていたがやがて静かに頷いた。


「分かったわ」

「私も――森人達の味方に、なってあげたい」


 ルヴィエラがソフィアの隣で言う。そうか……。ヴァルカランの人達に、感謝の言葉を向けてくれた者達だし、ソフィアはもう、憎悪に駆られることも、国土に縛られることもないからな。


「悪いな。頼めるか。本当に無理はしないでくれ」

「ええ。ルヴィエラも一緒なのだから、無茶はしないわ」


 ソフィアが目を閉じて両腕を広げる。身体を逸らすような仕草を見せると、その背に蝙蝠の翼が生えた。


「それでは、先に行くわ。ルヴィエラ」

「ん」


 ルヴィエラも赤い球体に変化すると、その手の中に抱えられるように浮かぶ。そして。


 中庭の石畳を蹴り砕き、凄まじい勢いで跳躍すると、ソフィアはエルフ達の森に向かって慣性を無視するような軌道を描き、飛び去っていった。




 ――エルフの集落では混乱が生じていた。遠くの空から黒煙が上がり、赤々としたから煙が照らされているのが見える。大火だ。森が。森が燃えている。


「何が起こっているの……?」

「私達の森が燃えるだなんて……」

「お母さん……」

「大丈夫。大丈夫ですからね。ハインさん達が何とかしてくれます」


 周囲からは不安と恐怖の声。恐怖に耐えきれず、すすり泣くような子供の声も聞こえてくる。

 泉の周囲には戦えない身重の女性や幼い子供、病人や怪我人。それを避難させてきたエルフの女達が集まっていた。身を寄せ合い、精霊の力を借りて結界を張り、身を隠しているという状況だ。


 外は、異常だ。精霊の力で守られたエルフの管理する森が、あのように燃えるというのは普通では有り得ないことだ。普通小火などは容易く消し止められてしまう。意図的な放火であったとしても、そう簡単には燃え広がったりしない。

 集落と燃えている場所とは、まだまだかなりの距離があるようだ。それでも遠くから響く轟音や木々の折れる音を、エルフ達の優れた聴覚は捉えていた。小さな精霊達も怖がっている。泉の精霊も、巨木の精霊達も姿を見せ、険しい顔をして集落の外--燃えている方角を見つめていた。


「シルティナお姉ちゃん……」

「大丈夫よ。ソーマさんも来てくれるって言っていたもの」

「うん。お兄ちゃん達が来てくれるなら、大丈夫」


 アリアとノーラはシルティナにしがみついて頷く。ソーマに預けられた通信機も持ってきている。けれど、混乱していて外のことは何も分からない状況だ。ソーマとエステルは駆け付けると言ってくれたのだから、邪魔にならないようにもしたい。アリアとノーラもまだ落ち着いている。せめて、何かしらソーマ達に伝えられるような情報を、掴むまでは、まだ――。


 その時だ。大きな精霊の力が炎とは別の方向から急速に迫ってくるのを感じた。

 シルティナにはその精霊の力に覚えがあった。ルヴィエラだ。力の方向に目を向ければ、月を背に飛翔するソフィアの姿が見えた。集落の上空を通過し、真っ直ぐに。炎の方角へと向かって突き進んでいく。


 シルティナの目には、上空を飛ぶソフィアの表情に怒りが浮かんでいるように見えた。呪いによる憎悪はもう起こらないと聞いた。ならば、ソフィアは上空から燃える森を見て、そんな表情を浮かべたということだ。それはソフィア自身の意志で、怒っているということを意味した。




「――ひどいことを、する」


 その光景にルヴィエラが声を上げる。精霊であるルヴィエラとしては森が焼かれるのは見ていて思うところがあるのだろう。


 高速で飛翔してきたソフィアが空中で動きを止める。燃えていた。森を切り開くように炎が広がり、辺り一面火の海だ。燃え盛る炎と黒煙の中に、いくつかの大きな黒い影が揺れる。


 巨人。エルフ達がソーマの魔道具――通信機というもので伝えてきた情報通りだ。ソフィアは激情のままに打ち掛かろうとするのを意識的に押し留め、まずはそれらを観察する。

 交戦は続いていた。エルフ達が精霊の力を借りて弓に螺旋状の風を纏い、凄まじい勢いで撃ち放っては枝から枝に飛んで場所を変えて、また巨人達に矢を放つ。


 だが、それらは全て効果を発揮していない。


 巨人達とエルフ達では単純に質量が違い過ぎる。全身甲冑を纏う騎士のような姿をした巨人は、見るからに頑強そうだ。まともに命中させたところでどれほどの痛手になるのかも分からない。


 それに、単純に威力が足りていない、というわけではない。精霊の力を纏った矢が途中で不可解な減衰をして、巨人に届く頃には単なる矢弾になってしまっている、というようにソフィアには見えた。


 だが。


「違うわね……。アルタイルとも、あの気持ちの悪い怪物とも」


 そうソフィアは断じる。アルタイルのように魔力を感じずに動いているわけでもなく、映像にあった怪物のように気味悪く変形したり周囲を取り込んだりしているわけでもない。


 そう判断した理由は単純だ。


「あれは精霊の力を、宿してる。でも何か変な反応。精霊の力なのに、意志のようなものを感じない。内側で眠ったまま大きな力を使ってる……みたいな? それに自分に向けられた精霊の力を、抑える力場みたいなのがある。変な、力」


 ルヴィエラの言葉。そう。不可解な精霊の力を強く感じるのだ。対精霊への力もそう。アルタイルとは全く設計思想も想定している相手も異なると思われた。


『ちょこまかと鬱陶しい!』


 ソフィア達の見ている前で、巨人は巨大な剣を振りかぶる。その剣が炎を纏ったかと思うと、斬撃と共に三日月のような形の巨大な炎の波が放たれていた。


「くっ!」


 エルフ達は歯を食いしばり、精霊の力と共に大きく飛んだ。


 回避はしたが、飛び移った先の枝の上に降り立ったその姿は既に満身創痍だ。肩で息をしているし、あちこち火傷の痕があった。斬撃そのものは回避出来ても熱波から身体を守り切れていない。エルフ達の攻撃は通じず、巨人の攻撃がまともに当たればそれで終わってしまうだろう。近づきすぎれば、精霊の力も弱まってしまうから、精霊による炎への防御も甘くなる。


 戦況は圧倒的に不利だ。勝負になっていないとも言える。まともに攻撃を当てられないまま、どんどん押し込まれているようにソフィアの目には見えた。


 どうであれ、アルタイルとは明らかに別系統の技術体系。多分、ソーマ達の世界に属するものでなく、こちらの世界に属するもの。不明な点は多いが、そこは間違いない。


「あれらの性質が分かるまで、ルヴィエラはあまり近付かない方が良いわ。だから、精霊騎士としての力も、まだ使わない。火の勢いだけ、どうにかしてもらえる?」

「任せ、て。ソフィアは?」

「攪乱しつつ、森人達の撤退を支援する」


 戦況と敵戦力をある程度把握し、言うが早いが、ソフィアは両手に結晶剣を出現させると空中から慣性を嘲笑うかのような鋭角の軌道を描き、巨人達に突っ込んでいった。


 ルヴィエラは、その場で人の姿に変じると、その手を頭上に伸ばす。そこを中心に雨雲のような黒雲が広がっていき、すぐさま雨が降り始めた。だが。


「……雲が、思うように巨人の方に広がらない」


 呟くように言う。精霊の力を減衰させる。それはもう、間違いない。

 巨人が距離を詰めてきたら、自分も下がらざるを得ない。これ以上、集落側に燃え広がらないようにルヴィエラは自身の後方に雨雲の範囲を広げていく。


 一方で――ソフィアは飛翔しながら自分の後方に幾本もの結晶剣を浮かべ――。


「行きなさい」


 大きく腕を振るえば、結晶剣は赤い閃光の弾雨となって一体の巨人に集中して降り注いだ。


『ッ!』


 巨人は手にしていた盾でそれを防ぐ。凄まじい轟音が響き、光の壁が発生してそこに衝撃が走る。体勢が不十分だった巨人を揺るがせる程の威力を見せた。


「魔力障壁は、見てから展開させている。けれど、今の技では貫けないわね。炎もだけれど、使う魔法自体は人間族のもの。けれど、精霊の力を源泉にしていて、規模も桁違い、か」


 ソフィアは呟きながらも敢えて目に付くよう、目立つように飛翔して結晶剣を雨あられと降り注がせる。


『な、何者だ!? は、速いぞ……!』


 攪乱するように飛翔し、剣を叩き込むソフィアに巨人達の中から声が響く。目論見通り、混乱させ、注意を引くことはできているようだ。

 これでいい。エルフ達やルヴィエラに攻撃の手が向かわなければ十分だ。


「そ、ソフィア殿か……!?」

「……前に集落で見たわね。負傷者がいるなら集落まで下げなさい。私の役割は、ソーマ達が来るまでの時間稼ぎ。だから、この場を持たせて見せるわ」

「し、しかし……」

「気にする必要はないわ。私はどうなろうとどうせ死にはしない。貴方達はそうではないし、見たところもう限界が近いでしょう? 知り合いに死なれたら、寝覚めが悪いわ」


 ソフィアはエルフ達の言葉に答えながらも、迫る斬撃を掻い潜るように飛翔する。凄まじい風圧。小回りの利く機動力で攪乱するように間合いの内側に飛び込むことで、同士討ちを誘発させるような動きを見せているが、それでも油断ならない。


 巨人達は決して図体がでかいだけの木偶の棒というわけではないからだ。攻撃が大きい割に鋭い。攪乱に成功してはいるが、死角のようなものがない。立体的に飛んでいるソフィアの動きに翻弄されてはいるものの、ある程度は追えている上に、繰り出される攻撃の質量そのものが馬鹿げている。


 吸血鬼であるソフィアの膂力が優れていると言っても、まともに打ち合うには危険すぎる。そんな巨人が4体。それに――少し離れた後方にもう1体。更に大きな力を持つ巨人が控えているのをソフィアは感知していた。


「すまない……。この場は任せる。最悪の場合、女子供を集落から逃がして姿を隠させなければならない……!」

「ええ。その時は迷わずヴァルカラン側に逃げなさい。ソーマに連絡を取れば、今なら私達も多少融通を利かせられる部分はあるのだから」


 ヴァルカラン全体での呪い対策はまだ万全とは言えない。それでも視界に入れないだとか、魔道具を装備した者だけで救助に当たるだとか、手助けできることも多少はあるだろう。

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