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第36話 巨人の影

 夜になって中庭に向かい、続々と集まる素材を分別しながらもハインの言葉を伝えると、ソフィアと重鎮達……それに将兵やメイド達に至るまで、皆嬉しそうにしていた。


「彼らにも改めて礼を伝えにいかないといけないわね。怖がらせてはいけないから、人選と方法を考える必要はあるけれど」

「一度顔を合わせた姫様なら問題ないのではないですかな」

「だと良いけれど。事前に訪問の話をしておけば大丈夫かしら」


 宰相の言葉に、顎に手をやって微笑みながら思案するソフィアである。この感じだとソフィアのエルフの集落への再訪問も有り得るだろうか。


 そんなわけでハイン達の言葉を聞いたハーヴェイ達は俺達には不要な素材をヴァルカランの面々は楽しそうに回収して研究室へ運んでいったりと、皆上機嫌な様子だ。全員アンデッドではあるが、前向きになれる情報が多いからかそこに悲壮感のようなものはなく、明るくて賑やかな雰囲気だった。


 さて。素材の分別も終わってしまえば、アルタイルの修復も再開しているために俺達の手は空く。エステルはルヴィエラから精霊としてのノウハウを聞いたり、色々勉強しているようだったから俺も何かしらすること、できることがないかと研究室へと顔を出した。


 一応プラグラムを組む事は出来るのだし、呪いへの対抗術の内容も把握している。やり方を聞けば魔道具作りの手伝いもできるだろうと思ってのことだ。


「魔道具作りに興味がおありですか」


 ハーヴェイは指示を出したり計画を立てたりで忙しいようなので、幽霊の女神官に声をかけると、快く応じてくれた。


「ああ。素人に教えることになるから、作業の邪魔にならないようなら、程度で良いんだが」

「まさか。継続してお客人に作業をさせるわけにもいきませんが、魔道具作りはソーマ様にとって、今後もお役にも立つものでしょう。ソーマ様の魔法適性を調べることも含めて、色々と魔法についてお教えしましょう」


 ということだ。


 魔道具は核となる宝石か、或いはある程度のランクの魔物から回収することのできる魔石、もしくは貴金属板が必要ということだ。術をそこに焼き付けるように書きこむ必要があり、書きこむ術の規模によって必要となる宝石、魔石のランクも変わってくるということである。


 それを目的に応じた形に一致させるように仕上げてやるのが大事、ということらしい。今回は身代わりの役割を持たせるのでお守り――つまりチャームとしてペンダントやブレスレットのような装飾品のトップにするといった感じになるのだとか。


 術を焼き付ける方法は魔法陣の中で宝石や魔石を手に、術の内容を意志と魔力に込めて刻む、という過程を取る。慣れていないと術を覚えきれない、刻み終わるまで集中力を維持できないと言ったことが起こって失敗するのだとか。


 そして個々人の魔力にも適性があり、これは育った環境や生き方、考え方、本人の育ちが影響することが多いそうだ。だから、後天的な変化、精霊の加護などでも適性への影響は起こり得るのだとか。

ちなみに作る魔道具の種類によっては手順が合っていても上手くいかないことがある。習熟によってはそれを補うこともできるが、作りたいものが高度であるほど適性の向いたものでなければならない、と。

 その適正は、そのまま属性――修得しやすい魔法やその属性精霊との親和性を表すことも多い、とのことである。


「この水晶球に手を翳して、軽く魔力を送ってみてください。魔法の適性が分かります」


 神官の持ってきた水晶球を受け取り、魔力を送る。


 すると、透けていた水晶球が黒く染まり、内側にバチバチと電気が散った。その他にも何か細かな結晶のようなものが浮かんで……静かに消えていく。


「まず一番の適性のが闇属性ですね。それから雷と土。これらがソーマ様の適性となります。3属性の適性というのは中々珍しいですよ」


 神官のゴースト、メアリは笑みを見せた。

 雷と土……この辺は昔ジャンク漁りとレストアをしていたからかな。電子部品関係と機械金属のレストアが影響しているのかも知れない。エステルとも近しい属性だとは思う。一番強い闇は――俺の場合は宇宙を連想してしまうが。


「闇属性は――私達との親和性が高いですね。死霊術や召喚術関連、精神系の魔法……。高度なものでは空間に作用する魔法も闇属性です」

「死霊術……。やっぱり、人間族からの印象が悪かったりするのか?」

「そんなことはありませんよ。死霊術を悪用するものがいて、アンデッドを使役する邪悪な術と思われることもありますが……鎮魂や死者の声に耳を傾けることもまた死霊術の領分なのです。ソーマ様は戦士。死に触れる機会が多く、しかし死者に対する尊厳をお持ちであるから、特に闇属性が強くなったのでしょう」


 ああ……それは、なるほどな。それに、空間系というのも、宇宙に繋がりがある。ASFのパイロットとしては、納得の適性なんだろうか。


「ともあれ、闇や土属性との親和性もあるというのは魔石や宝石を扱う魔道具作りにおいては相性がいいかと。作ろうとなさっているチャームも、お守りですから光と闇ならば相性が良いものですし」


 そうか。なら、問題なく作業の手伝いもできそうだな。


 そんなわけで俺は神官にやり方を聞いて、魔道具作りを実践してみるのであった。




「――裏が取れました。将軍の仰った通りでしたな」

「馬鹿どもが……。この大事な時期に余計なことをする」


 部屋の中に入って来た副官の報告に、将軍――金髪の男は眉根を寄せる。エルフの集落。それを覆う精霊の守り。それを突破する精霊の目を誤魔化すための魔道具が持ち出されたまま紛失したことが分かったのはつい先日のことだ。予備はあるから作戦に支障はないが、どうやらそれは内部犯の犯行であった。


 魔道具を持ち出し、森を突破してエルフ達を捕まえて奴隷商に売ることで、金もうけをしようと目論んでいたと、犯人の仲間から証言が得られた。証言した男は一行に同行はしなかったものの、普段からつるんでいた人物で、奴隷商にスムーズに売却できるように話を通しに言っていたらしい。業腹であるが、全容が分かったのはその証言のお陰だ。


 但し、魔道具を持ち出した者達は帰って来なかった。エルフに見つかって捕まったのか。それともどこかに逃げたか。足取りは現状で掴めていないが、このまま調査しても出てこないなら返り討ちにあったか森で魔物に襲われたかして、命を落としたと見て動くべきなのだろう。


「どうなさいますか、マインラート将軍」

「仕方がないことだ。情報は耳長共に伝わっているかも知れないが、作戦は予定通り決行する。この程度のトラブル。どうにかできなければその先にある目的を果たすことなど、ままなるまい。耳長どもが魔道具に対処するにしても、まだ時間がかかるだろうしな」

「はっ。皆にもそのように通達します」

「それから、再発の防止を徹底しろ。魔道具の持ち出しに協力した者は、刑に処して見せしめにする」

「承知しました」


 副官はマインラートの命令を伝えるべく屋敷を出ていった。マインラートは窓の外を見て、薄く笑う。


 そこには巨大な鋼のマスクがあった。鼻も口もない、無機質な金属の仮面。鋭いシルエットのガラス質の目だけがあり、それがマインラートの視線と合う。


「さて……。エルフ達の育んだ精霊か――。アストラルナイトの良い資源になってくれそうだ」


 マインラートはそう独り言ちると薄く笑った。




(――マスター。通信機に連絡が入っています)


 魔道具の作り方も教わり、更に1日が経った。

夜も遅くなった頃合いだ。研究室でハーヴェイ達と共に魔道具を作っていると、エステルが脳内でそんなことを伝えてきた。


(こんな時間に? こっちに通話を回せるか?)

(はい。繋ぎます)


 エステルの言葉と共に。ザッと軽いノイズが走って声が聞こえた。


(ああ、ソーマさん! 良かった……!)


 通信の向こうから聞こえた第一声は、少し慌てたようなシルティナの声だった。


(シルティナ? 何かあったのか?)

(ええ。今、集落に森の見張りに出ていたエーリクさんが怪我をして戻って来たそうなの。何だか、巨人を見たんだって……森の木々をなぎ倒して進んでくるって……)


 シルティナの不安そうな声。内容も不穏だが、しかし要領を得ないものだった。エーリクなら知っている。エルフの戦士の一人だ。


(巨人……? エーリクの怪我の度合いは?)

(詳しいことは聞いていないから分からないわ。私はソーマさんに連絡を入れてから、アリア達を守ってあげるようにってハインさんに言われてるのだけれど……)


 シルティナ達は不安そうに言う。背後から聞こえるエルフ達の声が慌ただしい。「迎撃の準備を」だとか「片っ端から起こして回れ!」だとか、窓の外では夜更けだというのに結構大事になっているようだ。


(分かった。俺も支援できるようにすぐ戻る。アリアやノーラと一緒に安全なところに隠れていてくれ)

(うん……。でも、危ないかも知れないから、ソーマさんも無理しないで。私達は――泉の精霊様のところに逃げて、守ってもらうわ。通信機も持っていくから、一旦切るわね)

(ああ。気を付けてくれ)


 通信がそれっきり切れる。俺は魔道具作りを途中で切り上げ、ソフィアのいる中庭に向かって歩きながらエステルに脳内で話しかける。


(エステル。通信の内容は聞こえていたな?)

(はい。どうなさいますか?)

(巨人ってのがどういうものなのかが分からない。最悪、バヨネットやハッキングだけで対処できない可能性がある)

(では――)

(ああ。アルタイルで向かう。動かせるか?)


 アルタイルは短時間の戦闘機動には耐えられる程度まで修復が進んでいる。地上戦の補助として飛ぶぐらいのことはできるし、集落までの移動もそれほど時間はかからない……のだが、問題がある。


 ソフィア達から色々な素材を受け取ったということもあり、既に修復作業を再開してしまっているのだ。その工程や進捗次第では、重要部品の修復中でアルタイルが暫く動かせない、という状況になっていることも当然有り得る。そうなると身一つでエルフの集落に戻り、バヨネットでその巨人とやらと戦うことを考えなければならない。武装も多くが使えない状態だ。決戦で使えなかった武装も残ってはいるのだが。


(修復処理を中断しました。修復途中の箇所を処置し、すぐに動かせる状態に持っていきます。城に移動させた時より修復は進んでいますが、復調には程遠いですよ)

(構わない。できるだけ急いでくれ)

(はい。それほどお時間は取らせないかと)


 という、エステルの返答。動かせないという最悪の状況は避けられたか。通信はアルタイル経由で繋げるのでシルティナと話をするのに端末を取りに戻る必要はない。俺は回廊を走ってエステルやソフィア、ルヴィエラがいるであろう中庭に向かった。


「ソーマ」


 俺の姿を認めると、ソフィアが真剣な表情でこちらに駆けてくる。


「エステルから話は聞いたわ。森人の集落の方で、何か混乱が起こっているようね」

「ああ。巨人っていうのに心当たりは?」

「……ないわね。仮にオーガのような大型の魔物ではなく、巨大なゴーレムの類だと言うなら、人間族が攻め込んできたということなのでしょうけれど。私達もエルフの集落も、外からは忘れられたような立地で、交流もないでしょう? 人間族が新しく開発した技術だとかには疎いわ」


 なるほど……。外の世界でどんな技術が開発されていても分からないか。ヴァルカランは外に出てこないから諦められて無視されているような現状だしな。

 いずれにせよ、推測は後だ。すぐに動かねばならない状況だろう。

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