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第33話 月夜の語らい

 当然ながらというか、城に戻ったら戻ったで結構な騒ぎになった。


「な、なんですか、あれは」


 喋れる者は驚きの声を上げて迎えて、スケルトン達はジェスチャーが言語の代わりだからか、両手を上げたり飛び上がったりと中々面白いリアクションを返してくれた。


「ソーマ達の乗り物だそうよ。こんなに大きなゴーレムとは思わなかったけれど」

「アルタイル。二人の精霊器。格好いい」


 ソフィアとルヴィエラが説明する。ルヴィエラは随分気に入ってくれたようだ。


「どこに待機させたものかな」

「警備のしやすさを考えるなら城の中庭に入れたいところね。城壁を乗り越える必要があるけれど。あそこは何もないし殺風景に思っていたから丁度良いわ」


 俺の質問にソフィアが応じる。あの石造りの庭園か。確かに、生命を嫌うヴァルカランの城ということで植物の類は一本も植えられていなかったからな。逆に言うなら少し庭園らしい構造物はあっても、他には何もないので十分にアルタイルを安置しておけるスペースを確保できる。


「まあ……まだ遠くに飛ぶのは不安があるけれど、少しぐらいなら問題はないか」

「大丈夫だと思いますよ」


 エステルもそう言ってくれたところで、目的の場所に移動していく。

 強度的に橋を歩いて渡らせるのは不安があったので、サブスラスターをふかして水上を滑走するように渡り、そのまま高度を上げてアルタイルの身を空中に躍らせる。


 スラスターと姿勢制御用バーニアをふかしながら出力を調整し、ゆっくりと城の中庭に降りていった。中庭に

降り立ち、片膝を突くようにして待機させる。


「空も飛べるのね……」

「格好いい」


 ルヴィエラは随分とアルタイルを気に入っているようではあるが。


「今は修復中で、長く飛ばすのは不安があるんだけどな」


 ハッチを開けて中庭に降り立つと、ソフィア達も飛び降りてくる。

 集まって来た城の者達に、ソフィアはアルタイルについて説明していた。計算や修復を進めるのでアルタイルに対して警備はしても無闇には近付かないようにと伝えてもらう。


 自動防衛装置のセキュリティレベルはある程度緩くしておく。具体的にはハッチをこじ開けようとしたり電子的なハッキングを仕掛けたり、分解や攻撃を仕掛けたりしないと発動しない程度だ。魔法的な対策は……まあ定義が難しいな。魔力も観測できるようになっているから、異常があればエステルに通知する、といった感じで今はいいだろう。


 常識的な範囲での見回りであるとか、興味本位で装甲に触れるぐらいならば問題はない。素材をアルタイルの近くに運んでもらい、修復作業の再開もすぐにできるようにしておく。城に置かれているのならば更なる追加素材を持ち込むのもすぐにできるだろう。




 城にある客室に案内されて、俺達はそこに宿泊する形で一夜を過ごすことになった。


「日中はルヴィエラ、ギルベルトとアンナ以外、私も含め、侵入者がいない限り皆日陰で眠っているわ。ただ、日の下ではギルベルトとアンナはあまり動けないというのは覚えておいて。実験の時に召喚した魔物は血を抜き取って用済みだから、自由に食材として使って構わない。食堂の場所は二人に聞いて」


 ソフィアは日中の過ごし方についてそんな風に教えてくれた。


「ありがとう。食材も助かる。日中は得られたデータの解析と呪いの対策を進めておくよ。ルヴィエラも含めて、話し相手はいるから心配はしないでくれ」


 そう答えるとソフィアは納得したようだった。ハーヴェイも資料を持ってきて、日中必要になったなら活用して欲しいと部屋に運んできてくれた。

 これまでの研究資料の他に魔導書も含まれており、アンデッド関係や呪い関係、魔道具関係のものが多い。初心者向けの指南書から、上級者向けのものまであるということで、この辺の蔵書で人間族の使う魔法を知ることもできるだろう。


「では、夜が明ける前に私は休むわ。お休みなさい。また日が暮れてから」

「また後で。ソーマ」

「ああ。おやすみ」

「おやすみなさい」


 ソフィア達は客室から退出していき、静かになった。夜はもう、かなり更けていて静かなものだ。改めて部屋を見回す。かなり手入れされているようではあるが、寝具の類は必要としていないし、素材を維持できないのでベッドはない、ということらしい。

ただ、バルコニーから見える月明かりに照らされた湖は神秘的で綺麗なものだった。


「呪いか……。まあ、どうにかなりそうじゃないか?」


 バルコニーに出る。置かれていた錬鉄製の椅子に座り、湖を眺めながら、向かいに腰かけたエステルに言う。


「そうですね。現時点でも、憎悪と封鎖は短期間で何とかなりそうな感じがします。ヴァルカランの人達の行動の自由をかなり確保できるのではないかと」


 エステルは穏やかに笑って頷いた。


「まあ、明日から解析とプログラムの簡略化を頑張ってみよう。術にするっていうならシンプルかつ穴がない方がハーヴェイもやりやすいだろうし」

「はい。私の方でも解析結果から色々な事態を想定しつつ案を練ってみようと思います」


 エステルの言葉に頷く。それで会話が少し途切れる。辺りは静かなものだ。湖上を時折半透明の幽霊が巡回していたりするが、それも音はなく。静寂の月光の下で湖上を滑る幽霊の姿は美しくすらある。


「静かで……綺麗ですね」

「ああ。こっちの世界に来てから色々な景色に見惚れさせられるよ」

「マスター……あちらの世界に帰りたい、ですか?」


 そんな風に控えめに尋ねてくるエステル。その表情を見ると、こちらの出方を不安そうに窺うようなものだった。

 そう、か。まあ、そうかも知れないな。エステルは、こっちの世界で初めて生身の身体を持つことができた。それは魔力あってのもので。元の世界に帰還した時、同じように顕現できるとは限らない。

 正直、こっちの世界の美しさ、自然の豊かさを、俺は気に入っている。エステルもそれは同じなのだろう。肉体があるから、俺よりももっと、だろうか。


「……いや。無理なら別に良いと思っている。けれど、そうだな。キャロルや部隊や、孤児院のみんなには……こっちで無事に生きてる程度のことは、伝えてやりたいな。気にしてる、とは思うから」

「なるほど……。通信ですか。それは確かに」

「だから、エステルにもしたい事や望みがあるなら、遠慮なく言ってくれ。身体を持ったんだ。したい事、できる事。色々増えただろ」


 端末に入っていたり、俺の身体にインストールされているだけでは、もうないのだから。


「――はい。私の望みは今だって叶っていますが、そうですね……マスターと一緒にしたいことをもっと見つけていきたいって思います」


 そう言って、エステルは穏やかな微笑みを見せた。




 一夜が明けたところで、俺とエステルはシルティナに通信機で連絡を入れた。こちらの呼び出しに応じたシルティナは『こ、これでいいのかな?』と言いながら通信機の立体映像に映し出された。


「ちゃんと見えてますよー」

「おはよう、シルティナ」


 俺達がそう応じると、シルティナは笑顔を見せる。


『おはよう、二人とも。ほんとに離れた場所とお話ができるのね。なんだか、透けていて小さくて、変な感じ』


 向こう側に表示されているであろう俺達の立体映像を見て、シルティナは明るい笑顔を浮かべた。


『アリアとノーラも呼んでくるわね』

「ああ。二人にも挨拶しておかないと帰った時に怒られそうだしな」

『ふふ』


 シルティナが一旦その場を離れ、少し待っているとぱたぱたと足音が近づいてきてアリアとノーラが立体映像に映る。


『わあ……!』

『小さいお兄ちゃんとエステルさまだ……!』


 俺達の立体映像を見たであろうアリアとノーラがぱっと明るい笑顔になった。


「おはよう、二人とも」

『うん、おはよう!』


 アリアとノーラにも昨晩からの流れも含めて話をしておく。とりあえず心配させないようにヴァルカランの人達と友人になったということは伝えておきたい。


「――というわけで、こっちの心配はいらないよ。俺とエステルに対しては憎悪が働かない。それが起こらない相手なら、ヴァルカランの人達は穏やかで誇り高い人達みたいだ。俺達や、皆を見下したりもしてない」

『そうなのね……。少し心配だったけれど、良い人達みたいで良かった』

『うん。友達なんてすごい』

『さすがお兄ちゃん……!』


 立体映像のシルティナ達は喜び合っている様子だ。


「けれど、アリアさん達は近付かないようにして下さいね。ヴァルカランの人達は、エルフの皆さんを傷つけたいと思っているわけではないんです。見てしまうと抑えられなくなってしまうというだけで……」

「そうだな。ずっと望まない呪いに縛られてきたみたいだ」


 ヴァルカランの事情を話して聞かせる。シルティナ達は真剣な表情で聞き入っていたが、全てを聞くと神妙な面持ちで頷く。


『……そう、だったの』

『それは……たいへん、そう』

『お兄ちゃんとエステルさまは、ヴァルカランの人達を助けにいったの?』

「そうだな。力になれたらいいと思ってる」


 ノーラの言葉に答えると、アリアとノーラは顔を見合わせて笑顔を見せていた。


「そんなに離れた場所ではありませんし、数日したらそっちに顔を出しますから、待っていてくださいね」

『うんっ』

『がんばってきてね』


 二人は小さく拳を握ってエールを送ってくれる。


「まあ、明日も明後日も、進捗の報告がてら朝の挨拶はするつもりでいるからさ」

『うんっ』

「……というわけなんで、シルティナから、皆にヴァルカランの人達の事情を伝えておいてもらえると助かる」

「多分、その方があの人達も嬉しいと思います」


 そう言うと、シルティナは真剣な表情で頷いた。


『分かったわ。きちんと長老様達にも伝えておく』


 ただアンデッドを恐れて近付かない、のではなく、尊敬すべき隣人に望まぬことをさせないために近付かない。それだけでも意味合いは全く違ってくる。


 代わりに人間族への印象が更に悪くなるとは思うが、それこそ彼らの自業自得というものだろう。


 朝の挨拶と報告を終えて通信を終えると、部屋の隅――日陰になる場所で待機していたギルベルトとアンナが深々と頭を下げてくる。


「外の方に理解を示していただけるというのは、救われますな。本当に」


 ギルベルトが言うとアンナが首をこくこくと何度も縦に動かす。うん。ヴァルカランの人達の抱えている問題が解決して、エルフ達とも仲良くしてもらえたら協力している俺としても嬉しいことだな。

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