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第31話 選択肢と幸福と

 ――回帰の観測に関してはもっと簡単だった。彼らは回帰に意味があるならと志願してくれたのだ。前に戦った時と同様、自分で自決することで回帰の瞬間を見せてくれる、ということで。


「何というか……そういうことをさせてしまうのは申し訳ないな」

「そうですね……。必要なことではありますが……」


 彼らは快く協力してくれているが、俺とエステルは回帰の実験に関しては申し訳なさがどうしても勝ってしまうというか。


「気にする事はありません。私達は幾度も死を乗り越えております故」


 志願者の中にいたゴーストの女性がそんな風に言ってくれる。神官、聖職者というのはこちらの世界にもいるそうで、彼女も生前はそうした仕事についていたようだ。死後でも浄化等の神聖魔法を使えるそうで、それを使って自身を浄化できないか何度も試したのだと語ってくれた。


「協力してくれるのは助かるが……何というか……人らしくありたいと思っているように見えるからな。そういう人達に、人から外れたことをさせなきゃならないってのがどうもな」

「……そこまでお気を遣わずとも。私達も特性を利用することはありますし、そうしてきました」


 ゴーストの神官はそんな風に言って嬉しそうに微笑んでいた。


「そうですな。人として扱われるのは嬉しいことですが、我らがアンデッドであることも厳然たる事実ですから」

「だからこそ、そのように尊重して下さるソーマ殿とエステル殿には、喜んで協力させてもらいましょう」


 そう言って。志願者の面々は研究室で一旦自決し、その場で回帰するその過程を見せてくれた。解析用のナノマシンを散布したエリアで自決し、その内部に回帰。それをつぶさに観測するといった流れだ。


 俺が前に戦った時同様、剣や爪、浄化の術で自決をすることで回帰に至るまでの一部始終を見せてくれた。倒れた身体は消失するが――。ああ。憎悪の時と同様だ。煌めきのようなものが集まり、失われた身体を再構成する。それは――情報を周囲が補うからなのか、バックアップとなるデータのようなものがどこかにあるからなのか。


「これは――」


 エステルはその過程を見て小さく呟いていた。


「何か、分かったのか?」

「はい。回帰はやはり、周囲が情報を補うことで実現しているようです。外から情報が補われ、精霊が顕現するのと同じように復活する……。そこまでは仮説通りです。問題は、その情報がどこから来るのか、ということですが……位相空間のような現実とは薄皮一枚隔たれた次元に、王の願いを、歪んだ形で叶えるような情報やルール……情報が何らかの形で保持されているのではないかと」


 ……なるほどな。その状態から外れることで回帰や封鎖が行われる。

 憎悪よりも放出される情報量が多かったから、データの出所について解析しやすかったか。


「しかしそうなると、ますますアルタイルが必要になってくるんじゃないか?」

「別次元、別空間への干渉、ですか。調整は必要かも知れませんが、確かに」


 腕組みして唸るエステル。

 アルタイルの位相融合炉。あれはワープの際に通る位相空間からエネルギーを持ってきている、らしい。隣り合う次元の力を通常の次元に引き込んで利用するから位相融合炉という名称らしいが、詳しいことはブラックボックス化されているし軍事機密であるから、俺達もその理論の詳しいところまでは聞かされていない。

 ただ……上手くするとアルタイルの転移を使って呪いの本体とも言うべき情報にこちらから何かしらの働きかけはできるかも知れないな。




 呪いのもう一つの機能――封鎖についても観測と解析、検証を進める必要がある。国土の外に出ようとした場合、無理矢理出された場合の作用を調べる形になるが、これまでの観測から導き出された情報体からの干渉が原因だったとしても、対策を立てるには具体的な魔力の働きは一度見ておく必要があるだろう。


 というわけで出かける前に宝物庫や倉庫、鍛冶場等を見て回り、使える素材があるかどうかを見ていくこととなった。


「財宝の類は、一国のものだから結構あるのよ。敗戦が濃厚になってから、国の再興のために必要なものをこっちに退避させたりもしたから」


 という、ソフィアの言葉通り、宝物庫には金銀財宝の類も雑然と置かれていた。あまり整頓されていない感じなのは、急いで運び込むことになったからなのだろうし、アンデッドになってから以降、管理する必要もなくなってしまったからなのだろう。貿易するような相手もいないし、食わなくても飢えないのだから。


「貴方達に見せてもらった目録は……私達には理解不能なものも多いわ。渡せるかどうかは見てから判断させてもらうから、適当に探していって」

「はっは。姫様はこう言っておられますが、単純に必要、不必要で論じるなら渡せないものはほとんどありませんな。国の象徴だとか、思い入れのある品ぐらいではないでしょうか」


 ソフィアと共にそう言ってくれるのは、宰相だ。宝物庫に収められている品々に一番詳しいのは宰相だろうということで、ハーヴェイに代わって俺達と相談するために同行してきている。


「では――探査していきます」


 エステルの周囲に仮想コンソールが浮かび、探査用のプログラムを走らせる。光のラインが宝物庫の内部、四方に散っていく。やがて、目的としている材料の位置を示すマーカーがあちこちに表示された。


「良いですね。この感じだと、結構な修復の短縮になりそうですよ」


 探していた合金の原材料各種。微細な機械部品のパーツに加工できる金属素材。代用できそうな性質を示す素材。素材そのものではないが必要な工作機械のパーツになる素材。そういったものが色々とあるようだ。


「それは何より。憎悪が働かないかどうか。検証が済んで効果も確認できたら渡せるものは全て譲るわ」


 ソフィアが、俺達の言葉にそう言った。


「……良いのか? まだ憎悪対策が示されただけで呪いの全てにまで対策が済んだわけじゃないのに」


 俺が尋ねるとソフィアは静かに笑う。


「良いのよ。外の者に恐れられ、心に反して無闇に血を流し、真実を語ることすらもできなかった。憎悪が無ければそういう歯がゆい状況はそれだけで終わるもの。それに、仮説であっても原理が示されたのだから、回帰や封鎖への対策も、至れるでしょう?」

「それは――そうかもな」


 それらの呪いへの対策が完了すれば……不滅である状態も解除されて、人としての終わりを迎えることができるようになる、か。


「まあ……そう望んだ時に終わらせられるという事実があれば、回帰への対策は最後でいいのだけれどね。子孫への復讐まで望んでいるわけではないけれど……当事者である断絶者だけは女王として捨て置けないもの」


 そう言ってソフィアは眉根を寄せる。確かに、な。ここまでやらかしてくれた断絶者だけは、けじめを付けなければならない。

 望んだ時に終わらせられる。……そうだな。生き方を決めるのと同じぐらい、終わり方を自分で決める、決められるというのは、重要で、人としての尊厳に関わる問題だ。


 その両方を、ヴァルカランの人達は奪われ続けている。


 けれど、それが対策によって選択――自らの意志で決断できるようになるというのならば……。それは大きなことだろう。

 決断はそれぞれの手に委ねられればいいもので、急ぐ必要もなければ誰かに強制されるような性質のものでもない。長いアンデッドとしての在り方に、うんざりしている者もいるだろう。目的がまだ果たされていないと思う者もいる。

 ソフィアやヴァルカランの人々が、その時だと思う時にそうすればいいだけの話だ。


 封鎖や回帰への対策ができたとして。ヴァルカラン国外に憎悪対策をしていない者が出られるようになるとか、ヴァルカランの人々がいなくなるとか。それに付随してパワーバランスが崩れ、大国とやらと魔族とやらも動く……のかも知れないが、現時点で言ったところで始まるまい。


「封鎖はともかく回帰への対策についても、仮に首尾よく進んだとして。アルタイルの修復がある程度終わるまで完了させるのは待って欲しいんだが、良いか? 状況が大きく変わったとしても、それなら対応できるだろうからな」


 というのが、俺の落としどころか。少なくとも、集落に住むエルフ達や周辺の森に住むという獣人やドワーフに責はない、と思うのだ。俺の選択でパワーバランスが変わるというなら、アルタイルで不測の事態をどうにかできる程度には体勢を整えておきたい。


「そうね……。封鎖と回帰の対策には懸念もあるでしょうけれど、善意で協力してくれた貴方達やエルフ達に、責を負わせたり累が及ぶような不義理な事はしないと約束しておくわ。さっきも言ったけれど、やり残したこともあるわけだし」

「終わらせられるという事実と、やり残したことをやり遂げることができるということ。両方の選択肢があるということが重要なのですな」


 宰相が言うと、彼らも頷く。そうだな……。俺としては少なくとも、アンデッドとなっていても奪われた幸福を取り戻せる程度の穏やかな時間があっても良いのではないだろうかと思うが。




 ソフィア達は、こんなに早く仮説であっても道が示されるなんて素晴らしいことだと喜びあっているが……解析への協力とこれまでの研究資料とがあってこそのものではあるな。


 宝物庫、倉庫、鍛冶場で見つかった素材の中から、すぐに渡しても問題のないものを、ソフィアは宰相と共に前渡しとして融通してくれた。


 宝剣や宝冠の装飾の一部、といった部分から取る必要があったりもしたが、それらも無造作に取り外して渡してくれたのは剛毅なことだ。


 王冠だとか、王笏だとか、そういった国の象徴だとか、国宝や守りの要となる秘宝。祭事に使われる品。そういったものでなければ渡しても今更惜しくない、だとか。


「金貨も後で必要になるなら持っていくと良いわ。どうせ使う当てもないのだし、外の情報を貰えるなら活動費は必要でしょうから」


 などとソフィアは当たり前のように言う。


「使い道がないのに貯め込んでおいても意味はありませんからな。もっとも、ヴァルカランの金貨など、そのまま使うのは問題が出そうな気もしますが」

「まあ……騒ぎになるでしょうね」


 ソフィアは宝物庫で拾った金貨を指で軽く弾きながら言う。


「であれば、宝石などを換金してもらうのがよろしいかと。金を延べ棒等にするにしても、刻印等が無ければ怪しすぎますからな」

「そうね。ソーマ達に軍資金が必要なようなら、それでいきましょう」

「まあ、しばらくはエルフの集落とヴァルカラン王国を活動範囲にするとは思うがな……。同盟に連なる国ってとこはエルフ達も仲が良くないし、俺もその国への印象が悪い」


 アルタイルで自由な移動ができるようになったら訪れてみるのも視野に入ってくるが。そう答えるとソフィア達はエルフ達が嫌うのも当然だろうとそんな感想を口にしていた。

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