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第29話 呪いの特性

 そうやって招集がかけられ、俺は研究室でエステルと共に解析用ナノマシンを散布して呪いの解析を進めていった。

 まず普通のアンデッドと比較し、次にヴァルカランの民から別種のアンデッドを比較し、共通する部分と違っている部分を割り出すことで、彼らの身体に宿る魔力から呪いの輪郭のようなものを明らかにする。そこがまず出発点だ。


 どこからどこまでの情報が呪いであるのかをはっきりさせ、それから細かい部分を精査していく、というわけである。


 外とのスケルトン同士の差異には、保有する情報の中に記憶や身に着けた技能等――人格や、或いは魂に属する部分が含まれてしまう。ヴァルカランの者同士で共通の部分を見ていくことでそういった部分は呪いとは関係ない人格や精神に関わる部分であると除害することができるわけだ。


「人格や精神に関わる部分に手を加えるようなことはあってはいけませんからね」


 そんな風に言うエステルに、ハーヴェイは鷹揚に頷く。


「死霊術の研究は禁忌が多くて捗りませんからな……。回帰するために自分を実験台にできるところはあるのですが、姫様には彼らと同じにはなるなと厳命されております故」


 ハーヴェイがエステルの方針に対して苦笑しながらもそう答えていたのは印象的だ。多分、ソフィアがそういう方針だったから彼らは人としての在り方を今も尚続けていられるのだろう。アンデッドに変えられてしまっても。いや、変えられてしまったからこそ、心まで明け渡したりしない、と。

 そういう在り方を、俺もエステルも肯定したい。


 そうやって呪いの輪郭を割り出せし、呪いが実際に機能しているところを見て、その作用やどのような動きをしているのかを割り出すことで仮想のマッピング図が作れる。呪いが心に、身体に。どのように作用し、どのように回帰させているのか。


 ヴァルカランの面々が定義するところによると、呪いはヴァルカランの国土と国民にかけられたものであり、主に三つの機能からなる、という話である。


 一つ、この世界の生者に対して憎悪を抱く。二つ、ヴァルカランの民は国土より外に出ていくことができない。三つ、滅びてもアンデッドとしてヴァルカランの国土に回帰する。


 それらがソフィア達の把握している呪いの形だ。その働きに細かなルール、法則のようなものはあるが、それ以外の縛りは確認されていない。アンデッドではあるがヴァルカランの住民は残らず自由意志を持ち、個々人は生前と変わらない人格と知識、技術を持っている。肉体は変じているから、技術を持っていても変じたアンデッドの種類によってはそれが十全に使えるとは限らないが、アンデッドとして得た力のようなものは行使できる。逆にアンデッドとしてのデメリットもしっかり存在しているようだ。


 前国王の願いと、断絶者や同盟が組み上げた呪いが組み合わさることで、このような結果になってしまったのではないか。そう、ソフィア達は分析しているようだった。


「把握されている部分については承知しました。次に実際に呪いがどのように作用しているかを見せて頂きたいのですが、良いでしょうか」

「発動している瞬間を見たい、ということね」

「はい。多分、憎悪を喚起させたり、回帰したりを実際に見せてもらうことになってしまって、そこは申し訳ないのですが……」


 エステルが申し訳なさそうな表情を見せるも、ソフィアは笑う。


「勿論。今集まっている者達には、この検証についても伝えている。皆望んできてくれた者で、異を唱える者はいないわ」


 ソフィアがそう言うと、老人の幽霊が頷いて声を漏らす。


「我らは――これまで、何度となく意に沿わず憎悪に駆られ、崩壊と再生を繰り返してきました。大抵の場合、それは何の意味も持たぬものではありましたが……此度のこれは違いますからな」


 そう言って、柔和に笑う。本当に、何処にでもいるような気のいい老人といった感じの笑みだ。

 そんな老人の言葉に、他の者達もこくこくと頷いて、喜んで手伝う、何をしたらいいかとエステルに尋ねてくる。スケルトンは喋れない者も多いが、力瘤を作るような仕草を見せてくるなど、ジェスチャーで何でも手伝うという意を示してきた。


 そんなアンデッド達は、何というか。恐ろしいものではなく、愛嬌のあるものであり、何となく映像で見たハロウィンの仮装であるとか、ホラーコメディと呼ばれるジャンルの映画で見たような光景を想起させるものだ。


「ではそれぞれの呪いについての細かい法則のようなものを教えてもらって、その上で実際に発動しているところを見せてもらう形がいいかなと」

「……そうね。ではまず――この世界の生者に対しての憎悪から、かしら。これは、生者であれば何者であっても喚起されるわ。ただ……植物や虫のような生き物はそこにあることを許容できるけれど、高等な生き物になればなるほど嫌悪感や憎悪が強くなる。だから……そうね。人間と相対しなくても外に出て生き物を探すだけでもその作用は確認できるはずよ」


 憎悪が働かない相手は、例えば精霊のようにそもそも生きてはいないもの。それからこの世界に属していなかった生き物。そういう相手になるということだ。


「それは……検証しやすくて良いな」

「ええ。強い憎悪が必要なら、魔物と相対すればいい。あれらに対しても、国土を荒らす者として私達は嫌っているから」


 なるほどな。直接恨みのある同盟国の人間。仇である魔族。それから魔物。その辺への憎悪は強くなる、ということである。


「国土から外に出ていくことができない呪いは……そうね。結界のようにある一定のところから進むことができなくなる、という単純なものよ。認識でそうなっているのか。無理矢理外に出ると身体が自死を選び、国土内で回帰する」

「おかしなことに、このルールは他国との約定等、そうした部分に支配されているところがありましてな。緩衝地帯であるとか、かつての戦場であるとか、こういったところにならば一時的に攻め入り、留まることができます」


 ソフィアやレイスの騎士団長がそんな風に教えてくれた。


「この縛りに関しては、我らも感謝しているところがありましてな」


 宰相が言う。恐らく、この国土から出られないという縛りが無かったら、憎悪に駆られるままに外の者全てを滅ぼしにかかっていただろうと、宰相達はそう見積もっているらしい。


 なるほどな。裏切った同盟。攻め入って来た魔族。そういう国々に攻め入れてしまったら、確かにもう歯止めは効かないか。


「それと、あり得ない過程ではあるけれど、例えば別の国がヴァルカランとの間に国土の割譲などを取り決めたら、私達はその土地に入る事ができる、のでしょうね。だから、国と国の約束事の影響を受ける呪いではあるわ。もっとも、それ以前に交渉のテーブルについた時点で私達は彼らを殺してしまうでしょうけれど」


 なるほどな……。


「回帰については、精霊の顕現に近い印象がある」

「ああ。顕現ならば非実体であれ実体を伴っているのものであれ、再度の出現というのも……確かに可能ですか」


 ルヴィエラの言葉に、エステルは納得する部分があるのか頷いていた。顕現に似た感じだというのなら……確かに、肉体を再構成することもできる、だろうな。


「回帰にもいくつか細かいルールのようなものがあるわ。その場で復活するならば割とすぐに。国土内の遠く離れた場所に回帰したいと思うとそこで復活するけれど、距離に応じて回帰までの時間がかかるといった感じね。それを利用した奇襲なんてこともできるけれど」

「それはまた……。自害から回帰ができるなら、伏兵や挟撃なんかも仕掛け放題じゃないのか」

「ええ。昔それで魔族達を逃さずに包囲して押し潰した指揮官もいるわね。今は魔族達も鳴りを潜めているし、できるだけそういうことをしないようにという方針ではあるけれど」


 俺の言葉に、ソフィアが応じる。なるほど。実際戦法として活用されたこともあるか。人格は維持されているが、不滅だと分かっているならそういう部分に麻痺していってしまうのも人間ではあるからな。


 ともあれ、そういうことならば、回帰するまでの過程は問題なく観測できるだろうな。研究室内で自死から回帰までの過程を完結させられるのだから。


 国土から出られないというのは……少し離れたところまで行く必要があるが、憎悪と回帰に関してはすぐにでも観測できる。


「エステル。アルタイルの解析機能も使って良いんじゃないか?」

「確かに、それなら呪いの解析は一気に進むと思いますが……良いのですか?」


 エステルが確認を取るように尋ねてくる。


「ああ。それで対価としてより多くの素材を貰えるなら、アルタイル単体での修復よりも寧ろ時間をかなり短縮できる……かもな」

「確かに……。そうかも知れませんね」


 エステルは目を閉じて頷く。アルタイルを動かすにもデータをやり取りするにもエステルには権限がないからな。俺の許可が必要だ。

 修復に割いているナノマシンのリソースを解析用の頭脳として利用する、ということになる。素材を貰えなければ修復までの時間が伸びるというのは間違いないが……エステルは俺の提案にどこか嬉しそうだ。エステルとしても、ヴァルカランの人々の力になりたいと思っていた部分はあるのだろう。


「アルタイル?」


 ソフィアが俺達の会話に首を傾げる。


「ああ。こっちに流れてきた俺達の乗り物だな。計算や分析能力があるから、それを使って呪いの解析の補助をさせるのはどうかって相談をしていたんだ。素材が欲しいっていうのも、そのアルタイルの修理のためではあるんだが」


 遠隔操作ができるから、ここからでも得られた呪いに関するデータを渡して分析してもらうということもできる。


「今……確認してみました。とりあえず、アルタイルは危機的なところを脱して、爆散の危険性が無くなるところまでは修復されています。この感じなら、リソースを解析にも回せるかと。あちらのナノマシンをサブブレインとして使えるならば、私単体での分析や解析速度とは比べるべくもありません」


 エステルは目を閉じて俺の要請に従って確認をしていたようだが、アルタイルの現状を報告してくれた。各種データが脳内に表示されたが、修復作業を一時中断しても不測の事態が起こるということはなさそうだ。


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