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第28話 エステルの提案

「私達がルヴィアニウムにいるのは、断絶者を見逃さないためでもあるわ。私達にとって、目下最重要なのは断絶者だもの」

「あれは、魂や肉体に干渉できる。不老であり、肉体の見た目も自由にできるのです」

「だから、マスターのことを見てその人物と思った、というわけですね」


 エステルが尋ねると、宮廷魔術師は頷いた。


「左様。新しくやって来た断絶者というものも永らく見かけておりませんでしたからな。もっとも、我らが知らないだけで、遠く離れた地にはそうした者も招かれているのやも知れませんが」

「勇者召喚はおいそれとできる儀式ではないと聞いているわ。そう簡単には出てこないのではないかしらね」


 憎悪が向かない相手がヴァルカラン近辺でうろついていたら因縁のある人物がまた暗躍しているのではないかと、思われるのも当然か。

 人間達の国々の現在の情勢をヴァルカランの面々は知らない。断絶者が何を考えてヴァルカランに対して再び動くかは不明だ。


「同盟に名を連ねていた国は、まだ残っているのですか?」

「ええ。断絶者と組んでいた大国が。というか、国境を接している国の一つよ」

「……そうなのか」


 ヴァルカランの人々は世代交代などない。子孫であっても犯罪者などには向けられる憎悪も強いものになりそうだ。魔族と人間族への恨みは強いというが、あの人攫い達への攻撃が苛烈だったのも、その辺が理由だろうか。


「呪いの経緯は分かりました。私としては、普通のアンデッドとの違いを調べたいのですが。そこを比較した時に、違っている部分こそが呪いに関する部分なのでは、と思いますから」


 エステルが言うと、皆の視線が集まる。


「ふむ。調べてみるというのでしたら、知っていることはお伝えしましょう。ヴァルカランの亡者とは呼べない、普通のアンデッドも国内にはいますからな。我らならば使役が可能で、安全に調べることはできるでしょう」


 宮廷魔術師の言葉に、エステルはよろしくお願いします、と答える。


「それと……対症療法的な対策も、一応思いつきはしました」

「というと?」

「目下の問題としては、憎悪があるから外の人間と接することができないわけですよね。強力な力を持っていれば抑え込めはするようですが、それでも長時間というのは駄目そうでしたし」

「そうね。身を焦がすような憎悪だから、力尽くで一時的に抑え込めても継続するとなると難しくなるわ」


 ソフィアが答える。高位アンデッドでもこうなのだから、他の者達も我慢し続けるのは無理ということになる。


「ですから、その湧き上がる憎悪自体を別の何かに変換して消費してしまおう、という案ですね」

「そんな事ができるのか?」


 俺が尋ねるとエステルは思案しながら言う。


「今まで得た情報から判断するならば。感情というのは魔力に乗せて外に放出し、現象を起こすことができますし、その断絶者の能力も、何かの媒体に宿らせることができたわけでしょう? ならば、憎悪を燃料として消費できるような魔道具、ですか。そういうものを作れば良いわけです。その為には、実際、その憎悪がどのように動いているかを解析する必要がありますね」


 その解析結果次第では、もっとうまい方法も見つかるかも知れない、とエステルは言う。


「理屈の上ではそうなるかも知れませんが……」

「そんな微細な魔力の動きなんて、普通は分からないものよ」


 宰相とソフィアが言うも……エステルは気負った様子もなく、静かに応じる。


「私は、そういう微細な世界での解析などが得意分野ですので……自分にできそうなことをとりあえずやってみようかと。私達がプログラム――術を組んだら道具として落とし込む。そう言うことは出来ますか?」

「恐らく……可能ではありますな」


 宮廷魔術師が頷いた。では――必要なのは解析と検証だな。


「ソーマ。エステル。そうしてもらえるのは有難いのだけれど、どうしてそこまでしてくれるの?」

「というと?」


 真剣な表情で尋ねてくるソフィアに首を傾げて聞き返す。


「私達には、あなた達にそこまでしてもらう理由がないわ。まだ詫びだって済んでいないし、情報の対価というには高すぎる。私達が貰い過ぎている気がするわ」

「確かに、まあ……そう感じるかもな」


 ソフィアに尋ねられて、俺は目を閉じる。ヴァルカランの面々は一度手ひどく裏切られている。なら、俺ももっと腹を割って話すべきだ。そういう言語化は、苦手なんだけれどな。小さく息をついてから、内心を伝えることにした。


「俺もさ、故郷を守るために戦っていたから、少し……分かるところがある。どんな方法を使ってでも守りたいだとか、その為の方法があると言われたら前に進む決断をする事だとか。この身体だって、そのために必要だから手を加えた」

「確かに……魔力も使わずに私についてきていたわね」


 ソフィアは頷く。


「俺達は、望んでそうしたから良いんだ。騙されたわけじゃなかった。だから何というか……ヴァルカランの今の状態を看過すること自体が、今までの自分の戦いを嘘にしているみたいで、気に入らない。自分がそういう扱いをされたらと思うと頭に来る。騙して盾にしておいて、その過去を忘れて、今も禍根を残してるくせに、亡者だなんて呼んでいることもな」


 そう伝えると、ソフィアは重鎮達と共に目を閉じ、静かに考えている様子だった。やがてソフィアが顔を上げて口を開く。


「……そう。それは、何というか、腑に落ちたわ。もう、何故とは問わない。けれど」

「けれど?」

「貴方も難儀というか、不器用な生き方よね」


 そう言って、ソフィアは穏やかな笑みを見せた。


「マスターの良いところですよ。私のことも危険を承知で守ってくれたところがありますし」


 エステルが誇らしげに言う。それはあれか。一緒に軍に向かうと決めたことか。

 あれは、俺がそうしたいから、そうしたってだけなんだけどな。


「受け取る方が多いのが気になるっていうなら、情報交換以外にも素材を提供してもらえると有難い。こっちに流れ着いた時に特殊な乗り物に乗っていたんだが、修理には色々な素材……原材料が必要なんだ。金属とか、希少な鉱石とか。必要なら目録を見せる」

「良いわ。ただ、別世界の乗り物で特殊な素材となると、私達には目録を見せられても、それ自体が分からない可能性がある。後で鍛冶場や倉庫、宝物庫に案内するから、自分で判別して頂戴。余程貴重なもの以外は提供できると思うわ」


 それなら……アルタイルの修理も随分と前進しそうだな。今のままだと修復まで相当時間がかかっていたし、本当に動かすことができるようになるだけで、色々な武装自体を諦めなければならないところだったから。


「となると、私達もしっかり仕事をしないといけませんね」

「そうだな。情報交換や素材提供もそうだが、見合うだけの仕事もしないとな」


 彼らへの肩入れは俺が自分の好きでやっていることだしな。仕事の対価と受け取るという形なら互いに気がねしなくて済むだろう。




 というわけで早速呪いの解析を行うことにした。


「我らも自分達の呪いをどうにかできないかと、色々研究をしておりましてな。生前の専門は違ったのですが、死後は呪いや死霊術、召喚術やアンデッドの浄化の研究をしております」


 宮廷魔術師のハーヴェイが言いながらも城の一角に案内してくれる。そこはハーヴェイの研究室ということだ。広々とした空間の一角が書斎や実験室のようになっている。書棚の置かれた机周り。実験器具が並べられたエリア。広々とした空間には床にチョークで魔法陣が描かれているという、魔法の研究室らしい大部屋だ。


「ハーヴェイは高位アンデッドのリッチよ。元々魔術師として優秀だったから、魔法の扱いに優れるリッチに変じたというのも納得のいくところではあるわね。研究熱心だし、きっと参考になる話が聞けると思うわ」


 ソフィアがハーヴェイについて教えてくれる。


 当然ながらヴァルカランの面々も呪いや自身に関すること。浄化の方法などを模索していたわけだ。


 他の重鎮達も呪いの解析には興味があるのか、一緒についてきている。というより、特別な何かが無ければ内政等もする必要がないために暇であるらしい。

 精霊のルヴィエラや執事のギルベルトとスケルトンメイドのアンナも一緒だ。


「まずは……そうですな。同格のスケルトンを召喚し、アンナとの違いを見ていくというのは如何でしょう」

「異存ありません。召喚、ということですが、用が済んだら浄化するなりして眠らせてあげる、ということはできますか?」

「そうですな。アンデッドのままで彷徨い続けるというのも哀れな話。安らかに眠れるのならそれに越したことはない」


 エステルがそう応じると、ハーヴェイは頷いて杖を振るう。床に描かれた魔法陣が一度消え去ると、チョークが独りでに浮かんで床に魔法陣を描き出す。その姿はまさしく魔法使いのそれだ。


「では、いきますぞ」


 スケルトン召喚用の陣に描き直し、ハーヴェイが再び杖を振るうと光が立ち昇り、そこにスケルトンが一体佇んでいた。


「ここに立ち、エステル殿の命に従い、解析を受けるように」


 ハーヴェイが言うとスケルトンは忠実な従者かのようにお辞儀をし、エステルの前までやってくる。


「命令を聞くのは、召喚魔法の影響ですか?」

「いいえ、高位アンデッドはそれだけで自意識の薄いアンデッドを支配できるのですな。ヴァルカランの者達は自由意志があるから話は変わりますが。ただ、このスケルトン自体には、何ら魔法的な手は加えておりません」

「なるほど。それなら検証もしやすくなります」


 俺が野良スケルトンに手を翳すと、手首に埋め込まれた外部接続用のユニット部から光の粒子が散布される。ナノマシンによる解析ユニットを散布した形だ。


「では、アンナさんにもお願いします。マスター」

「分かった。この光の粒は調べるためのもので、害はないから、安心して欲しい」


 そう言うと、アンナはこくんと首を縦に振った。解析ユニットを彼女にも送るような形で、エステルに解析を行ってもらう。


「その光の粒子のようなものは何ですかな?」

「こっちの世界の技術だな。目に見えない程小さなゴーレムのようなものを使って、解析や細かな工作ができる技術があるんだ」

「ほう……! それはまた、興味深い。微細なゴーレムとは発想にありませんでしたが、それを実現しうるというのは、恐ろしい程の技術力ですな……!」


 ナノマシン技術については魔法を使っても再現が難しいものなのか、ハーヴェイは少し興奮しながらも感心しているようだった。

 ハーヴェイにナノマシンの解説をしている間にもエステルは解析を進めている。


「ふむ。やはりアンナさんの方が保有している情報が圧倒的に多いですね」


 エステルの解析によると同じスケルトンであってもアンナと召喚されたものの違いは明確になっているようだ。


「このまま、他の方々や他の外部のアンデッド種の方々とも比較して、ヴァルカランの人々に共通する部分を抽出していこうかと思うのです」


 その後は具体的に呪いが作用している場面を見ることで、どこがどのような魔力の動きをしているのか、役割を調べていく。

 どのように成り立ち、どのような動きをしているのか。それらを解析し、最終的に阻害をできるようなプログラムを組んでパッチを当てる、というのがエステルの構想だ。


「いいでしょう。ギルベルト、低位高位問わず、出来るだけ多くのアンデッド種が集まるように声をかけてきて頂戴」

「かしこまりました、陛下」

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

別作品の告知となり恐縮です。

今月12月25日にコミック版『境界迷宮と異界の魔術師』15巻が発売予定となっております。

あわせて楽しんでいただけたら嬉しく思います。


詳細は活動報告にも記載しております。どうぞよろしくお願いします。

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