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第16話 痕跡調査

 ラウリスの戦い方は興味深いものだった。風の精霊が自然に力を貸してくれるから、身軽で俊敏。立体的な高速機動。普通では有り得ない動きをしていた。慣れ親しんだ精霊のいる場所に限定されるのだとしても、森を舞台に戦うのならエルフ達がかなり強いというのは間違いない。


 戦い方自体が彼らの暮らし、文化に根差したものという気がする。これで実戦だと精霊術も混ざるだろうから、精霊の支援を受けられる状況下でのエルフの戦士は、相当なものではないだろうか。

 もっとも、俺の中でのこの世界の強さの比較対象があの時のヴァルカランの亡霊達だけなので、何とも言えないところではあるのだが。


 ヴァルカランの亡霊は――どうだったかな。不滅であるということはずっと研鑽も続けられるということで、単純な武術や体術というのなら結構な水準だったとは思う。こっちがバヨネットを使っていたので剣でまとも打ち合うなんて展開にはならなかったけれど。


「……シルティナもいるのなら丁度良い。この後時間があるなら狩猟がてら、お前達が攫われた現場も見て来ようと思うのだが、時間はあるか?」


 ハインが尋ねると、シルティナは思い出した、というように表情を明るくした。


「ええ。薬草の採取も中途半端になってしまっていたし、一緒に行けるのなら嬉しいわ」

「ならば丁度良かったな。ソーマ殿はどうだ?」

「同行させてもらえるなら嬉しい。色々勉強になりそうだ」

「我らに異存はない」

「歓迎しよう。ソーマ殿」


 エルフの戦士達も了承してくれた。狩猟用の道具と、森で食べる食事。水があれば大丈夫ということで、準備整えてから正門前に集合ということになった。


 水筒とパン、携行食ということでゼリーと固形ブロック。ロープとナイフ。それに念のためのバヨネットとドローンを持っていくぐらいだ。現場で必要なものができたらナノマシン構築である程度対応もできるだろう。


 正門に向かうと採取の準備を整えたシルティナも姿を見せる。正門と言っても蔦の壁の近くにある広場を便宜的にそう言っているだけではあるのだが。


「では、向かうとしよう」


 そう言って、皆で森に出る。

 森は――ここに来た時と変わらず、静かで美しいものだった。エルフの集落近辺は精霊達の活動が盛んなようで豊かで美しい。


「普段は何を狩猟しているんだ?」

「これと決まっているものはないが、魔物を狙って狩ることが多い。食料や防寒具、武器、防具の素材にもなるし、仲間達が採取のために森に出た時に安全にもなるからだ」

「魔物の間引きも兼ねているわけですか」


 エステルが納得したというような声で応じる。

 エルフの戦士達は精霊達と共に森を進む。俺達がここに来た時と同じように、精霊達は森を先導してくれる。似たような風景でも行きたい場所に迷いなく移動できるし危険も避けられる。

 比較的進みやすい獣道を通って、まずは近くにある薬草の群生地付近まで向かう事にした。


「今回はシルティナに話を聞いて調査もしながらの狩猟ということになる。人間族がこの辺まで来たというのは、今までなかったからな」

「もっと遠くまで足を延ばした時に見かけるという事は過去にも何度かあったのだが……」


 ハイン達が人間族との遭遇状況について説明してくれる。

 森の奥はエルフ達のテリトリーと分かっているから、通常は彼らもあまり森の奥まで入ってはこない、という話だ。

 森に入ってくるのは外周沿いに住んでいる近隣の住民。魔物や薬草を目的とした雇われの冒険者。そういう者達が主らしい。


いずれにしても基本的には精霊を使えるエルフ達の方が森の中での索敵能力も高く、そう簡単には鉢合わせることもないという。だからこそ、シルティナが襲われた状況が通常とは異なるというのが際立つ。


「警戒はしていたんだけどね……」


 シルティナは申し訳なさそうに言う。


「いや。精霊達とて、特に指示を出していなくても普通なら気付いて警告してくれるはずなのだがな……。接近してきたにしても待ち伏せしていたにしてもだ」


 ハインは首を横に振って、自分に落ち度があったのではというシルティナの見解を否定する。


「そうなると……そういう精霊の目を誤魔化せる備えや術でもあったとか?」

「その可能性が高い……と、私は見ている。そもそも森の深いところまで来ると我らの結界があり、精霊達が迷わせるから人間族にはおいそれと入って来られない。集落も薬草の採取地も、そういう場所のはずなのだ」


 なるほどな。森の中に集落が無防備に存在しているわけではない、と。


「人攫いの持ち物は確認しなかったな。あの時は時間が無かったし、亡者になったら拙いかと思って、纏めて簡易に埋葬したが……」

「……今なら回収してくることも出来るのでは?」


 俺が彼らについての話をすると、一人がそんなことをハインに進言した。


「話を聞く限り、ヴァルカランの亡者が出現した場所なのだろう? そうなると回収に向かうだけでも危険を伴うような場所だ。それに……あれらの前で墓を暴くというのもな」


 亡者とは関わらないのが一番だとハインは言う。

 対抗できないわけではないし、俺に対するヴァルカランの亡者達の反応も気になるところではあるが……確かに、一度埋葬した者の墓を掘り返すというのはな。俺の信条的にも気が進まない。


「精霊の目を誤魔化すような手立てがあって、頼りきりにはなれないという前提で警戒しておくのが良いだろう」


 前提として、か。確かにそれならば、人間族がエルフ達の集落に近付くことができたのも、警戒されずにシルティナ達に襲撃できたことも説明がつく。


「感知の手段、ですか。原材料さえ揃っていれば工作もできるんですがね……」


 エステルがうーんと唸って腕組みをする。ドローンを飛ばしておくという手もあるが、一機しかないのだから四六時中というわけにもいかない。エネルギーをチャージする間に警戒網に穴が開く。


「それならシンプルにトラップを仕掛けるのは? 自分達にだけ分かる目印をつけるか、罠の場所だけ都度精霊に教えて貰えば、仲間が引っかかることもないだろうし、殺傷力の低い……鳴子みたいなものでもいい」


 精霊達の目を誤魔化したというのなら、その手段はどんなものだったのか。臭いか、音か、視覚的なものか。或いは人間をエルフと誤認させるような変装、偽装か。

 それでも物理的に触れられないなんてことは流石にないだろうから、人間族が来ると予想される方向に罠を仕掛けておけば無駄にはならないはずだ。

 精霊の目を誤魔化した方法が変装、偽装の類であれば対応は簡単だ。精霊達との間で、合言葉や合図、符丁を決めておけばいい。

 それらの考えを伝えると、ハインは少し吟味していたようだが、やがて頷いて口を開く。


「罠と合い言葉……。それも悪くないな。精霊達の幻惑があったから、集落の方角を知らせるようなことになってはいけないと、今までそういったものは仕掛けて来なかったが」

「近くまで来られたのであれば、既に集落の場所が割れているかも知れない、幻惑の結界も突破されている、というわけですか」

「そういうことだ。仕掛けるならば一応、偽装として罠の場所も広く散らした方がいい。合言葉の方は――すぐにできそうな良い対策だな」


 ハインはエステルの確認するような言葉に平然と答えるが、他のエルフの戦士達の表情には緊張が走っていた。集落の場所を突き止められている可能性だとか、精霊の目を誤魔化すだとか、そういった可能性までは思い至っていなかったか。


 話をしながら森を進んでいくと、やがて薬草の採取場所に辿り着いた。

 解熱や鎮痛の効果がある薬草だということだ。


「足を怪我した叔父の痛みを何とかしてあげたいって、アリアやノーラと話をして、ここまで薬草を取りに来たんだけど――」


 そうして3人で薬草を採取している最中に突然茂みから現れた男にノーラを人質にされたのだとシルティナは語った。


「分かった。シルティナは、薬草を採取していくと良い。我らは少し周囲を調べておく」

「ありがとうございます、ハインさん」


 シルティナは頷き、目的の薬草の採取に移る。ハインは周辺を警戒する者と、男達の潜んでいた茂みを調べる者に別れて調査を行った。俺は調査側に加わる。誘拐犯に直接接触したわけではないが、どこにいただとか、そういう情報は持っているのだし。


「小枝の折れた方向。足跡などを見るに、奴らはこっちの方角から来たのだろう」


 ハインが周辺を見て回って言う。森の中での痕跡は小さなものだが、経験豊富なエルフ達にとっては見つけるのはそう難しいものでもないらしい。


「その方角に進んで森から出ると、亡者と戦った草原だと思います」


 エステルが言う。多分エステルの中では方角と距離は把握できているだろう。森の中を移動して回ったわけではないからマップと呼べるほどのものではないだろうが、距離と座標は正確なはずだ。


「かつて戦場にもなった草原だと聞く。草原がヴァルカランの国土であったかどうかは分からないが、平野部を進んでいくことで、人間族の国に辿り着けるはずだ」


 人身売買が目的でやってきて、近場に檻付の馬車を停めておき、森の中にエルフを確保する目的で入った。そんなところだろうか。


 しかし集落や素材の採取地の外側には幻惑の術が施されているエリアがあり、普通なら迷った挙句森の外まで戻されるようになっている。幻惑の術に穴はなく、今も有効だとハインは言う。何らかの手段でそれを突破してきたというのは間違いないようだ。


 薬草や山菜の採取は幻惑エリアの内側、狩猟は幻惑エリア内かその外側で行われる。

狩猟は男衆や戦士階級の普段の仕事だ。魔物を近づけさせない目的、間引く目的もあるし、森の中の警備代わりにもなっているのだろう。


 そうやって幻惑の術が変わらず効果を発揮していることと、その中を男達が進んできた痕跡が残っていることを確認した。集落の方向に向かって進んできたことが窺える。エルフの集落の方向、情報についての情報共有か、それとも感知する手段か。そういうものがあいつらにあったのか。

 だとするなら、警戒に値する話ではあるだろう。それらを確認したところで、一旦男達に関する調査を切り上げる形となった。

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