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第15話 エルフとの模擬戦

「……そうだな。ソーマ殿、誰かと模擬戦でもしてみるというのはどうかな? お互い戦士同士。一度手合わせしてみなければ伝わらないこともある。これから狩猟などで行動を共にすることが増えるのなら、尚更な」

「そういうことなら」


 確かにな。こういう男所帯だと、言葉を交わすよりもそちらの方が多く伝わることもある。軍でも実際の技量を見せれば対応が変わったこともあるしな。

ハインの提案に男達は顔を見合わせ、その中から一人が手を上げる。


「俺が」


 ああ。見覚えがある。エルフの集落に向かう前に、ハインに対して集落に人間族を招くのかと、少し危惧していた若いエルフだ。若いと言っても、エルフは全員年を取らないようなので若干幼さが残るような印象があるというだけだが。


「ラウリスか。良いだろう。どちらかが降参するか、綺麗に一撃が入った時点、或いは相手の寸止めで終わりとする。これでいいか?」

「問題ない」

「異存はありません」


 俺とエステル、ラウリスがそれぞれ返答するとハインは頷く。エステルは立体映像をシルティナの隣に出現させて観戦モードのようだ。まあ……そうだな。制限を取り払ったクロックアップだの攻撃予測やハッキングといったアシストは必要あるまい。


「武器は訓練用のものの中から適当に選んでくれ」


 ハインが広場の端に立てかけてある木刀や木槍を指差して言った。

 ラウリスと共にそちらに向かって武器を選んでいると、低い声でラウリスが言う。


「俺はまだソーマ殿を信用してはいない」

「ああ。まあ、そういう考えを持っている奴がいてもいいんじゃないか?」


 人間族に遺恨がある者もいるだろうし、感情的な話だからそう簡単に方針に合わせられるものでもないだろう。かといって、俺がそういった感情を向けられて申し訳なさそうにするのも違うと思う。何せ俺も俺の仲間も、何もしていない。関わりが今までなかった。こっちの世界の人間族と特徴が似ているというただそれだけで、悪びれたりする必要はないし後ろめたいと態度で示す理由もない。


 俺が答えるとラウリスは眉根を寄せる。


「我らは術を使わずとも精霊の後押しを受けてしまうものなのだが……。エステル様の支援を受けて戦うべきではないのか?」


 ああ。侮られていると思っているのか。


「エステルの支援は、多分、ラウリスの考えてる精霊の後押しとは違う。侮っているわけではないし、この身体だって……そう。魔法で外から手を加えられていて普通じゃないんだ。この辺、そっちと同じく自分でもどうしようもないものだから、気にせず普段通りにして問題ない」

「……そういうことなら、良いだろう。森でのエルフの戦士の戦い方を知ってもらうとしよう」

「そうか。それは、少し楽しみだ」


 皮肉や揶揄ではなく本当に割と見るのが楽しみだ。模擬戦なら命の取り合いが目的ではないしな。気を抜いたら怪我をするというのはそうだが。


 しかし、エルフは精霊術を使わずとも精霊の後押しを受ける、か。

 俺もエステルに支援を頼まなくてもナノマシンの恩恵は得ているし、それと似たようなものだというのなら普通とは違った動きや戦い方だって見られるのだろう。エステルの参考にもなるだろうか。


 ラウリスが選んだ武器は、短い木槍だ。木で作られているが、刺突だけでなく斬撃もいけるような形状をしている。俺は手頃な長さの木剣を手に取る。

 リーチは劣っているが、俺としては特殊な形状の武器を持ったところで付け焼刃だ。それこそナイフかバヨネットのブレードぐらいのリーチの方が動きやすいし、それらを使った訓練が基本だった。徒手空拳は海賊相手はともかく、金属生命体には意味がないしな。


「武器も決まったか。それでは広場の真ん中へ」


 ラウリスと離れたところで向かい合い、武器を構える。


「頑張ってください、マスター!」

「頑張って、ソーマさん!」


 エステルとシルティナはそんなことを言いつつ観戦モードだ。他の戦士達も、こちらへの感情はまちまちだが興味深そうにしている様子だった。


 構えを取って向かい合う。正直、こちらの世界の戦士の力量というのは分からないからどんな戦いになるかは分からない。ラウリスが言うように余裕というわけではないし、彼らのように思うところが何もないから気負うものもないのだ。向こうはピリピリとした空気を漂わせているが、こっちは集中していても緊張はしていない。


ハインが腕を上げ――少しの間を置いて腕を振り下ろすように合図を送ると同時に声を上げた。


「――始め!」


 声と同時に、目を見開いたラウリスが低い姿勢で突っ込んでくる。風を纏って低空飛行でもしているかのような、滑るような動き。下から伸びあがるような刺突が肩に迫る。武器を合わせる寸前で、ラウリスの軌道が変わる。風が遅れて噴き上がる。右後方。振りかぶるように剣を合わせれば、そこに払うような斬撃が打ち込まれた。


「こんな位置から止めただと……!?」


 ラウリスの驚くような声。ラウリスの武器は、風を纏って移動することによる変則的な機動力か。側面。斜め上。旋風を巻いて位置を変え、技を変え、変則的な位置から叩き込まれる攻撃。それに対して、俺は動かず、刺突や斬撃に合わせるように木剣の位置を変えて払い、受けることで対応する。


 動きが早くて変則的、と言っても、それは地に足をつけてのものだ。大量の化け物相手に高速機動での射撃戦や白兵戦をしていた身からすると、クロックアップをせずとも対応できる範囲に収まる。


 それと……ラウリスの攻撃が軽いと感じてしまう。これは、仕方のないことだ。ラウリスは速度に乗せて攻撃を繰り出しているから、突撃の勢いに十分な体重を乗せているというのは分かる。分かるが……俺は有重力下でのアルタイルの高速機動戦にも対応できるように身体機能自体への強化を施されている。


 それは反応速度や動体視力。筋力、体力、骨格の頑強さと言ったものまで含む。だからラウリスが体重を乗せた一撃も、合わせるだけでも十分に止められる。


 その強化も含めた底上げが、こちらの世界でどの程度の水準に収まるか分からなかったが――エルフ達の驚愕の表情を見る限りは、十分通用するものというのは伺い知れた。


「くっ!」


 幾度となく打ち掛かっては返され、打ち込みを払う度に腕に重い感触が伝わっているのか、ラウリスの表情が歪む。

 見て取れるのは焦りだ。呼吸の速度。心拍数。そう言ったものから、疲労や心理状態を読み取る。目線と細かな砂塵の動きから先を読んで、ラウリスが行こうとしていた方向に予測を立て、空間を潰すようにそちらに向かって動く。


「な――」


 先読みで自分の向かおうとしていた空間を俺が埋めていた。真っ向からぶつかるようにラウリスが迫ってくる。焦ったように槍を突き込もうとしてくるが、攻めるでも守るでもなく、中途半端な動きになった。構わずこちらは踏み込み、柄を下から背中で跳ね上げてラウリスの腹に掌底を繰り出すように下から持ち上げる。


 空中で反転。そのままの勢いで地面に背中から落とす。風は吹かない。自分の身体で風を遮るようにして、精霊の後押しを寸断する。

 地面に激突させてしまう寸前に服を掴んで勢いを押し留め、逆手に握った木刀を首筋に突きつけた。


 言葉もない、と言った様子でラウリスが固まっていたが、やがて状況を飲み込んだのか、目を閉じて「参った」と短く降参の言葉を口にした。

 ラウリスを解放して離れる。


「……驚いたな。強いとは思っていたがこれほどか。身のこなしや反応の速さもだが、膂力や足腰の強靭さも尋常ではない。それ以上に……あんな最小限、ぎりぎりで受ける胆力と視力の方が驚異ではあるが」


 ハインが言った。


「これぐらいでないと戦争なんかしていられない相手だったんだ。何せ、大群で迫ってきて、本当に全員残らず食われるかどうかの瀬戸際だったからな。どんな無茶でも肯定されるし、こうもなる。だから今のは正直なところ、場数と慣れで、技術的な練度とは違うかも知れない」


 ハインの言葉に苦笑して答える。


「どんな無茶でも、か。何を乗り越え、どんな死闘を潜り抜ければそうなるのかは私には分からないが。……ラウリスも、お前達も、理解したな?」

「……正直、想像を超えていました。武術や体術云々ではなく、あの受け方や切り返しを淡々とこなすというのは……幾度の死線を超えていればそうなるのかと」


 立ち上がったラウリスが言うと、戦士達は神妙な面持ちで頷いた。

 一度俺が戦うところを見ていたシルティナは戦士達が認めてくれたことが嬉しいのか。にこにことしている。エステルは……腕組みをしつつ目を閉じて頷いたりしている。ネットでは後方なんとか面とか言うんだったか、あれは。


 エステルの、エルフ達に伝わることのないリアクションはさておき。


「俺も、勉強になった。精霊に力を借りて、あんな動きができるというのは。色々な可能性を見せてもらったように思う」


 そう言ってラウリスに握手を求めると、ラウリスは少し目を見開いた後、苦笑して俺の手を取る。


「立場が無いな……。これほどの研鑽を積んだ歴戦の戦士に対し、無礼なことを言った。世間知らずだったのはこちらの方だ。誠に申し訳ない」

「いや、そういうのは軍隊で慣れてるんだ。新参や余所者ってのはどうしてもな。認められるまではもっとぞんざいな対応をされたこともあった」


 苦笑して応じる。エルフ達は本当に、それに比べると世間擦れしていなくて対応が素直で純朴という印象が強い。


「そう、だったか」


 何せ、俺達は母星からラボの研究者と共に辺境に派遣されてきたという触れ込みの、実験開発を目的とした特殊な部隊である。


 それが現地の部隊と上手くやれと言われるのだ。軋轢や衝突が生じないわけがない。

 こっちとしては下層上がりなのでエリートだと思われていたのは何だが、それでも辺境の生活に比べると恵まれていたのだと、色々と考えさせられるものがあった。


 何度かの哨戒任務で支援したりしてもらったり、喧嘩をしたり救助をしたりと紆余曲折を経て打ち解けることもできた。そんな彼らの大半は――金属生命体との戦いで、辺境で民間人が乗ったシャトルを逃がすために犠牲になってしまったけれど。


 ……振り返ると、本当に多くのものが無くなってしまったと思う。あの部隊にいた者達も、話ができるようになってみると、気の良い奴らだった。


(マスター……大丈夫ですか?)

(ああ。少し昔のことを思い出してた。まあ、この感じならエルフの戦士達ともきちんと話が出来そうだ)

(はい。彼らは何と言いますか。矜持は高いですが……そう。世間擦れしていなくて、良い人達なんだと思います)


 俺の生体反応から少しエステルに心配をかけてしまっただろうか。こうやって気遣ってくれるのは嬉しいことだな。


 ともあれ……エルフの戦士達に関しては、エステルからの評価も一致している。

彼らの場合は俺達のところの軍人ほど粗野さ粗暴さがない。エルフとしての文化や誇りを大事にしていて、だからこそ相手に正当性を認めれば無茶は言わない。

 育った環境や文化はまるで違うけれど、それでも戦いに身を置く者同士、分かり合えるものはある……と思う。実際、戦い方から何かを感じ取ってくれたようだ。


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