表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

孕んだ欲求

作者: 香月由良

佐和子は幼少期から漠然とどこかヘ帰りたかった。学校にいても家に帰りたい。旅先でも帰りたい。大人になって独り立ちしても家へ帰りたかった。家にいた時でさえ帰りたい場所がある気がして、帰りたかった。


売春に手を染めていた過去がある佐和子にとって、ソープランドで生計を立てる事に抵抗はなかった。むしろ表立って性交渉で稼げるのであるなら、本望でありもはや天職とさえ思っていた。


稼げなくなったのは佐和子が30を超えたあたりからだ。ソープランドのイメージと合わず、全国を出稼ぎで点々とまわるも、帰りたい佐和子にとってそれは思いを強くするばかりで精神疾患を患いながら、勤務態度にでていると店長に叱咤されているときに、脳内ではひたすらに帰りたいと考えその日のうちに地元行きの切符を買い飛んだ。帰ってきたその日、大粒の涙を流す心の中の佐和子を佐和子自身無関心に左腕を縛る。


簡単な作業で帰りたい場所は見つかった。昔の悪い交際相手から仕入れた結晶は佐和子に、食欲より睡眠より、当たり前に性欲なんかよりも強く枯渇と焦燥を味わわせた。転がる注射器で笑う佐和子の顔を鏡越しに佐和子は微笑んだ。


「いつだって死ねるの。ちがう?」

1人で呟いた。返事は無い。朦朧としつつ妙にはっきりと自分自身を眺める走り出した結晶を全身で感じていた。


「金になるのは、悲しみだけね」

帰りたい場所は見つかった。佐和子はわかっていた。ここじゃなかったことを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ