敵襲
敵襲
それはいきなりだった、辺りに鐘の音が響き渡る、その後この宿舎にも警備の兵士が慌てた顔で部屋を回って来る。
「カンカンカン カンカンカン」
「勇者の皆さん出番です、魔族が攻めてきました」
「え?」
確か後1週間は後の話だと聞いている、それにここはこの国の首都と言って良い。
ならば魔族の国からここまでの町や村はどうなっているのだろう?
「皆起きて!」
「ハウル(覚醒)!」
「ワーウー」
「なんだ?」
「どうした!」
建物の外へ出ると北側の空が真っ赤に染まっている、風は西から東へと流れている。
そのためか煙の臭いはそれほどひどくないが、この地区から北側からは叫び声と断末魔が風と共にこちらへも流れて来る。
「皆武器を」
「防具装着!」
「まてまて、魔族なんて見たこともないのにいきなりかよ」
「人と姿が違うからすぐわかるわよ」
【魔族を20体倒せ:経験値+500】
【魔族のリーダーを倒せ:LV5UP】
【町の人を助けろ:経験値+100】
【魔族を10体倒すとボーナス…】
外へ出て準備を整え終わったと同時に、勇者候補全員に複数のクエストが表示される。
「ゆずちゃんどうしよう」
「明奈、勇者セット装着して」
「分かった」
本当はまだ早いと思うのだが、敵のLVが分からないし。
魔族のリーダー迄倒せと言うクエスト。
どう考えてもここで勇者候補の振り落としがあると思われる。
「ギャー」「ギャー」
「きたぞ!」
それは上空から現れた、ハーピーとかいう半人半鳥の魔物。
しかもその足には最初に攻撃用の岩を掴んでいる。
「ドン」「ドン」
「危ない!」
「応戦しろ!」
「ウインドカッター」
「ファイヤーボール」
柚子の放った魔法は確実に魔物を捕えたが他の魔術士はまだレベルが低いらしく、魔法が当たってもたいしてダメージは無い様子・
「くそ、当らねー」
「弓は!」
「弓じゃもっと当たらねーよ」
戦士の攻撃訓練はまだ直接攻撃のみ、飛び道具の訓練は受けていなかった。
空からやって来た魔物に攻撃をいくら入れても素人に毛の生えた勇者候補では歯が立たなかった。
「うわー」
「助けてー」
「ガシュ」
「ブシュ」
勇者候補へ向かって急降下して来るハーピー、うまくよけながら剣をたたきつけるが。
毛に覆われているボディーには有効的な攻撃が入らない。
「建物の影に隠れて!」
「広い場所ではだめだ」
何人かが戦い方に気が付くが、既に数人がハーピーの餌食に。
「た たす…」
「グシュ!」
「キェー」
「おい 誰か!」
空を覆いつくすほどのハーピー、壁の向こう側では聖国の近衛兵や守備隊が10人一組になり防衛戦を繰り広げている。
壁を背にすることで背後からの攻撃を防ぐ、壁際では空からの攻撃もそれほど脅威ではなくなる。
壁が邪魔をして後ろへ回ることができないからだ。
「ギャー」
「おい どうした!」
ハーピーに気を取られていたところに今度は別な魔物が攻撃を仕掛けてくる。
くすんだ緑色の肌、身長こそ人より低いがその姿を見て勇者候補はぎょっとする。
「今度はゴブリンが来たぞ!」
それほど強くはないゴブリンだが、その数は数百を超えていた、空からはハーピー地上はゴブリンが、魔物の攻撃を受けて兵士が徐々に減って行く。
「燃え尽せ、ファイヤーフレーム」
「ゴー」
「守りを門に集中せよ!」
「門に集中!」
「門に集中…」
既に半分の近衛兵が傷つき倒れ、治療所へと運ばれている。
あっという間に臨時の野戦病院がケガ人で満杯になった。
「アイスバレット」
「エアカッター」
「中々減らない」
「でも、かなりやっつけたわ」
善行LVが15を超えていた者の武具はLV10以下のものと比べると雲泥の差がある。
Sクラスの魔法具と武具を手に入れた勇者候補はほぼ怪我もなく戦えるのだが。
LV10以下はせいぜいBクラスの武具であり、戦士LVが10を超えてもLV20以上の魔物と戦うにはやや力不足だ。
それに空を飛んでいる魔物に剣での攻撃は中々致命傷を与えられない。
「これで終わりか?」
いつの間にかハーピーの群れは襲ってこなくなり北の空へと帰って行く。
「皆の者、本日はよく戦った、魔物の攻撃は去った」
「けがをしている者は治療所へ行って手当をしてもらうように、後の者はその場で待機」
この出来事が勇者見習い全員に大きな傷となって、徐々に問題化して行くことになる。




