都立記念病院
都立記念病院
裕福な家庭だった、今もだが。
秋元家は代々続く生け花の家元であり、親族はそれぞれ何らかの成功を収めていたりする。
秋元有希の父は医者であり、母は薬剤師。
彼、いや有希も本来は医療への道を目指していくはずだったが、途中で学校の先生へと進路を変えたらしい。
この病院に入院している秋元麻里華の父親は国家公務員であり、現在は警察署長をしている。
そして母親は秋元流生け花の第15代家元と言う肩書だ。
多分そこに俺が一人で訪れた所で、すぐに会わせてはくれないだろう。
「都立記念病院?」
「そこに僕の父がいるから、その伝手で入院しているんだ」
「秋元家すごいな」
「そんなことないよ、僕は少し外れてしまったけどね」
「じゃあ麻里華は…」
「受験に失敗と言うレッテルは張られてしまったかもね」
「そうなの…浪人生と言う形は体裁が悪いとか?」
「多分1年は許されるかもしれないけど、大変だと思うよ」
自分の人生から親の圧力から逃げ出したい、そう思っていたが自分の力ではどうしようもない、麻里華はそういう日々を送って来たのだろう。
彼女には地獄の日々だったのかもしれない、そこに自分を解放してくれる出来事が起こった。
彼(彼女)はそのアクシデントを使い現世から逃げる事を選んだが、アプリの世界も決局は外見や性別をリアルに反映する。
性同一障害をNPCが理解することも無く、女性として生きて行くしか無かったと言う所だろう。
話ながら歩いているといつの間にか病院に到着し、受付で面会の申し出をする。
「はい、ここですね」
「書き終わったら提出してください」
「分かりました」
俺の名前と秋元君の名前を書いて、続柄を書き入れる。
面会申請用紙を提出すると面会と言う文字が書かれた札を貰い首に掛ける。
「5階の521号室」
エレベーターに乗り5階まで上がる、ナースステーションを横目に521号室と言う病室へ。
そこは金持ちあるあるの個室、一日3万円は超えるだろうと思われる病室だった。
「有希です、入ります」
「はい」
そこにはベッドから半身を起こしたまま窓の外を眺める美しい女性の姿があった。




